ブランドとエージェンシーは、より良いインベントリー(在庫)を求めてプライベートマーケットプレイス(以下PMP)への投資を増やしている。しかし、PMPの取引をスムーズに進めることは、実際には簡単ではない。インベントリーの量やデータのダブルパンチなど、この広告販売手法における、短所を探る。
ブランドとエージェンシーは、より良いインベントリー(在庫)を求めてプライベートマーケットプレイス(以下PMP)への投資を増やしている。しかし、PMPの取引をスムーズに進めることは、実際には簡単ではない。
PMPは私的なクラブのような仕組みだ。メディアバイヤーは、「ディールID」と呼ばれる会員カードで、オープンなエクスチェンジよりも通常は高い招待限定のオークションに入札できる。もっとも単純な形だとPMPの取引は、オープンなマーケットプレイスよりは優先される一方で、パブリッシャーのアドサーバーで保証されている企業(スポンサーシップと掲載申込ベースの販売)よりは下に置かれる(この順序は、ヘッダー入札とサプライサイドプラットフォームが組み込まれると変わる可能性があるが、それはまた別の話だ)。
メディアエージェンシーのメディア・ストーム(Media Storm)で最高デジタル責任者(CDO)を務めるチャーリー・フィオダリス氏にとって、PMPに十分なインベントリーがないのは大問題だ。「特に非常に短期間のキャンペーンを実施する際に、入札するインベントリーが十分にない場合がある」とフィオダリス氏は語る。「その場合、パブリッシャーと良い友人になっていて、『うちのディールIDを優先して、これから3日間、Xインプレッションをどうにかしてもらえないだろうか?』と頼む必要がある。これにはそれなりの労力が必要だ」。
Advertisement
PMPにおける問題点
ハースト・コア・オーディエンス(Hearst Core Audience)でプログラマティックセールスと戦略のVPを務めるジュリアナ・クラーク氏によると、バイヤー側からインベントリーが見えない理由は複数ある。インベントリーが、保証型の取引、スポンサーシップ、テイクオーバー広告などのために確保されているからかもしれないし、買いと売りの両方において、データが過剰に選好されることで規模が大幅に縮小し、バイヤーにはインベントリーの本流ではなく、したたり落ちるものしか見えないという場合もあると、クラーク氏は説明した。
「こうしたデータのダブルパンチが起こることによって、規模が劇的に小さくなる場合がある」とクラーク氏。「データは素晴らしいものだが、あまりに良すぎることが、PMPでは大きな問題になる可能性がある」。
また、この記事のために話を聞いた人たちによると、単純にバイヤー側の構成に問題がある場合もある。つまり、パブリッシャーがバイヤーの活動をすべて受け取っていない一方で、バイヤー側では、パブリッシャーが入札できるものを送ってきていないために、入札が通らないのかもしれないのだ。
精緻すぎるデータの短所
マーケティングコンサルティング企業のインターマーケッツ(Intermarkets)でプログラマティック戦略のVPを務めるエリック・リクワイダン氏によると、ニュースレターの購読者のようなパブリッシャーのファーストパーティデータが、実際にはバイヤー側ではセカンドパーティデータであることから、データが合致しないケースもあるという。
たとえば、パブリッシャーXでは、自社のファーストバーティデータに基づいて、広告主YはPMP取引で自動車購入の要件を満たす者10人を獲得できると考えているとしよう。ところが、広告主Yが自社のファーストパーティデータを適用した結果、パブリッシャーXから自動車購入の要件を満たす人を3人しか見つけられないということがある。広告主Yが性別や年齢などほかにもターゲティングのパラメーターを追加すると、状況はさらに悪くなる可能性がある。
「この場合、最初の段階から取引に問題が生じている」と、リクワイダン氏は言う。
性善説が前提の世界
バイヤーとセラーのあいだの信頼の欠如もある。メディアバイヤーには、パブリッシャーに対して、ターゲティングデータと主張するインベントリーの優先順位について、責任を持たせる検証方法がない。
しかし同時に、広告主はパブリッシャーに対してキャンペーンのパラメーターを渡さないのが普通なので、キャンペーンを通して広告主が何を促進しようとしているのか、パブリッシャー側もまったく見えない。メディアマス(Mediamath)の企業エンゲージメント担当VP、ジュリア・ウェルチ氏はそう指摘した。
メディア・ストームのフィオダリス氏は、エージェンシーからの見方として、広告主XがパブリッシャーYから、市場にいる自動車購入者のインプレッションを購入したい場合、データの作業はパブリッシャーYが行い、広告主Xはパブリッシャーが正しいインベントリーを出してくると信頼する必要があると説明した。
「人々が監督なしでもきちんとやるはずと、信頼するやり方をうちは好まない」と、フィオダリス氏は語る。「完全な見通しを確保して、PMPのディールIDを通して届くインベントリーが、正確にうちが購入したものなのかを検証できるのが好ましい。それが理由で、うちはPMP取引ではデータパラメーターを含めていない」。
求められる透明性
マグナ・グローバル(Magna Global)のマーケットプレイスイノベーション担当VP、ジョン・マンセル氏は、より良いターゲティングのためには、バイヤー側がテクノロジープロバイダーに働きかけるべきだと考えている。パブリッシャー側は通常、さまざまな戦術で入札が行われるタイミングや理由について把握していないが、バイヤー側はテクノロジープロバイダーに働きかけて、より多くの透明性をパブリッシャーにもたらすようすべきだというのだ。
「プログラマティックのセラーは、よりインテリジェントに売るためにそうしたデータを必要としている」とマンセル氏は語った。
YUYU CHEN (原文 / 訳:ガリレオ)