新型コロナウイルスが広がってから、特にワクチン摂取率の低い地域で蔓延すると、広告主は再び地域データに目を向け、各地の感染状況に合わせてメッセージングや広告バイイングの調整を図った。いまでは、それらをどう調整していけばいいのか、以前よりもはるかに明確に掴めるようになったと思われる。
2020年、コロナ禍発生当初、マーケター勢は例外なく不意打ちを食らった。何がどうなるのかもわからず、多くは広告バイイング(購入)を一時的に止めた。その後すぐ、「みんな、ともに頑張ろう!」と訴える同じような広告が巷に溢れ返り、そうしたメッセージを目にするたび、人々はわざわざ教えてもらいたくもないコロナ禍の現実をあらためて思い知らされ、ついには辟易した。
そんな、すべてが不透明だった初期に続いて起きたのが、広告主によるデータ――感染率および失業率、マスク着用義務の程度、ステイホーム政策の程度、そして最終的にはワクチン摂取率――依存であり、その目的は特定地域におけるコロナ禍の影響度合いを把握することにあった。実際、こうしたデータは広告主が消費者行動を理解するための一助となり、どこで広告を買うべきか、何を言うべきかに関する洞察を供した。
続いてデルタ株が広まり、特にワクチン摂取率の低い地域で蔓延すると、広告主は再び地域データに目を向け、各地の感染状況に合わせてメッセージングや広告バイイングの調整を図った。たとえば、OOH(屋外)広告およびエクスペリエンシャル(経験価値)マーケティングについては、広告主は現在、ビルボード(屋外広告の看板/掲示板)ではなくデジタルOOHに注力するとともに、人流/集会を促すことのないよう、規模の大きいエクスペリエンシャルな試みを控えている。
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刻々と移り変わる消費者行動を掴むべく、地域データにハイパーフォーカスすることで、マーケターおよびエージェンシー幹部はそのデータをどう活用し、当該地域の現状に合わせてメッセージングおよび広告バイイングをどう調整していけばいいのか、以前よりもはるかに明確に掴めるようになったと思われる。
「地理データのオーバーレイに目を向けている。政府/自治体による規制から、転居、旅行、買物、外食、配送サービスに至るまで、人々とその行動パターンを知るため、あらゆる点の理解に努めている」と、広告エージェンシー、FCB(フット・コーン・アンド・ベルディング/Foote, Cone, and Belding)のデータサイエンスおよびコネクション部門グローバルヘッド、ティナ・アラン氏は語り、コロナ後も地域データは活用を続けることになるだろうと言い添える。「現在および将来、我々の顧客は『誰』なのかを理解するうえで、彼らのいる場所が『どこ』なのかが、かつてないほど重要になっている」。
「データ理解および活用が不可欠」
広告契約に柔軟性を持たせ、バックアッププラン(代替案)を用意し、メッセージを即座に調整できるようにしておくことが、いまや常識となった。同じことは、コロナ感染率の上下動によって生じる、各地域における消費者行動の変化の把握にも言える。
「当初、コロナウイルスは新種の怪物だった」と語るのは、広告エージェンシー、dentsu X(デンツウエックス)のストラテジー部門ディレクター、ジェラルディン・ザボ氏だ。「得体の知れない存在であり、何をどうしたらいいのか誰にもわからず、そのため広告活動の一時停止が生じた。ただ、デルタ株は確かに新たな課題を突きつけてきてはいるが、我々は――エージェンシーもクライアントも――前に進むためにするべきことについて、以前より多少なりとも自信を持てており、したがって準備も前よりは楽になっている」。
感染率および失業率の追跡は、地域ごとに異なる規制の把握とともに、マーケターにとっては、当該地域における消費者行動の理解とそれに合わせた広告の調整において、きわめて有用だ。感染率が高まっている地域において、たとえばリテーラーがクライアントの場合、カーブサイドピックアップと配送のどちらを推すべきなのか、クライアントがエンターテイメント業界関係者の場合、ストリーミング配信と対面型のどちらがいいのかといった決断が下しやすくなる。
「マスク着用義務の程度やソーシャルディスタンスの徹底度合いが消費者行動に影響を与え、最終的には各種売上にまで波及するという構図が、いまでははっきりと見えている」と、アドテク企業PMX(ピュブリシス・メディア・エクスチェンジ/Publicis Media Exchange)のEVP/投資事業部門ディレクター、トレイシー・チャベス氏は語る。「デルタ株の蔓延によって、地域ごとに規制や義務が異なる状況が再び生まれているいま、各地の事情に合わせたアプローチを採り、それぞれの消費者グループに適切なメッセージを届けるためには、今秋、データの理解および活用が不可欠となるだろう」。
重要なのは文化的ニュアンスの理解
さらに、人口区分ごとに微妙に異なる文化的ニュアンスの理解も、感染が再拡大の兆しを見せているいま、メッセージの作成に重要な要素となりつつある。
たとえば、ウォルマート・ヘルス(Walmart Health)は「2020年から現在までに打ったヒスパニック系向けの全広告において、自社の薬剤師を前面に押し出し、糖尿病など基礎疾患を持つ消費者に対して、薬局に行くよう強く勧めてきた」と、ザボ氏は説明する。「理由? 第1に、ヒスパニック系は糖尿病有病率が米国のなかで1・2を争うほど高く、そのためコロナによる重症化の危険性が他よりも高い。第2に、中南米およびメキシコでは、薬剤師が人口のかなりの部分を診ており(米国における正看護師と似たような状況だ)、そのためヒスパニック系住民のあいだでは、薬剤師に対する信頼と敬意の度合いがきわめて高いからだ」。
基本的に、マーケターおよびエージェンシー幹部らは、支持政党や政治的信条の違いに起因するコロナ禍への対応の差よりもむしろ、文化的ニュアンスに注目しているという。
「支持政党の違いは人種や民族性と相関関係にあることが多く、その場合、文化の影響力は政治的信条のそれに勝る」とザボ氏。「テキサスやフロリダといった、きわめて保守寄りの州でさえ、文化的ニュアンスに基づいたメッセージの調整が非常に重要となる。そちらのほうがオーディエンスの心に深く、より包括的に響くからだ」。
地域固有の嗜好を掴む努力が必須
ザボ氏はこう続ける。「また、ハイパーローカライゼーション(地域対応の徹底)は、特定の市場(つまり、ニューヨークシティやシカゴといった大都市)における多種多様なオーディエンスへのリーチを可能にする。そしてそのためには、政党とは関係のない、各地域に固有の嗜好/思考を掴む努力が必須となる。差異よりも共通点を見つけるほうがたやすい。それができれば、的確なメッセージを発信し、異なる考え方を持つ消費者の集合体に広く届けることも容易になる」。
またこの先、一部地域だけがコロナ禍に見舞われ続ける事態が生じた場合、感染率が低くワクチン摂取率の高い地域とそうでない地域によって、メッセージを完全に変える戦略――たとえば、ある地域では「日常に戻ろう」キャンペーンを張る一方、別の地域ではロックダウン需要を狙い、eコマース絡みのメッセージを発信する、など――をブランド勢が採るかどうかは、現時点では何とも言えない。
ただ、いずれにせよ、マーケターとしては、空気が読めない企業と思われないよう、慎重な姿勢でメッセージングに臨むことになると、マーケターおよびエージェンシー幹部は口を揃えて言う。
「柔軟性を頭に置くことが必須となる」
マーケターおよびエージェンシー幹部は皆、今後数カ月の状況を予測しがたいと認め、そのうえで自社の事業計画におけるフレキシビリティ(柔軟性)とアジリティ(機敏性)に対する自信を表明し、メッセージの適宜調整が鍵となると語る。
「この1年半でわかったとおり、事態はあっという間に変わりうる」とザボ氏。「ただもちろん、今後に関してはいまだわからない部分が多く、したがって現時点では、常に機敏に動けるように準備しておくことが重要であり、マーケター勢にとっては、柔軟性を頭に置いてキャンペーンの構築を続けることが必須となる」。
KRISTINA MONLLOS(翻訳:SI Japan、編集:長田真)