カンヌ・ライオンズは、コロナ禍により昨年に引き続きバーチャルで開催する旨を発表した。業界幹部らはネットワーク作りと契約締結が最大の犠牲になるだろうと予想した。Zoom疲れと対面会合の再開を待ちきれないワクチン摂取後の人々が参加に二の足を踏むと思われたからだ。広告業界では対面会合の復活を切望する声が広がっている。
南フランスの高級ホテル、パレスでの会合に顔を出すまえにロゼを軽く一杯、というわけには今年もいかない。カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルの出席者は、今回もまた、バーチャルで繋がりながら、「どこかしら」で「なにかしら」を飲むことになるからだ。
毎年恒例の一大フェスは、今年前半、コロナ禍により、再びバーチャルで開催する旨を発表した。それは4月のことであり、その当時から世界の状況はまた変わり続けている。それでもなお、業界幹部らは当時からすでに、ネットワーク作りと契約締結が最大の犠牲になるだろうと予想していた。そして6月第4週から始まったカンヌで、同じ教訓が繰り返されることになることも予期された。Zoom疲れに見舞われている人々、そしてワクチンを打ち終わり、対面会合の再開を待ちきれない人々もまた参加に二の足を踏むと思われたからだ。
対面会合を切望する広告業界
「カンヌライオンズのないカンヌは、カンヌじゃない」と、ネットデザイン・コンサルティング企業のメディア・キッチン(The Media Kitchen)のCEO、バリー・ローウェンタール氏は断言する。「フェスをやれるのはありがたいが、カンヌの良いところは、何と言っても、対面でのネットワーク作りであり、それはバーチャルな世界ではありえない。あくまでも個人的にはだが、バーチャルミーティングほど嫌なものはない。私は対面がしたいんだ……実は、もう始めているし、やはり格別だ。[いまはとりあえず]来年のカンヌでの対面復活に期待している」。
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対面会合の復活は、ワクチン接種済の幹部らの目にはとりわけ、画面越しにバーチャル会合に出るよりもはるかに魅力的に映っている。いや、そのせいで誰もカンヌに参加しないと言っているわけではない。ただ、エージェンシー幹部や業界観測筋の話を聞くかぎり、対面でのビジネスミーティングへの期待感が、彼らのあいだではワクチン未接種者のそれに比べて明らかに高いのはたしかだ。
「生身で触れ合えるミーティングの再開を、みんな心から喜んでいる」と、米エージェンシー、ドットドットダッシュ(DotDotDash)のストラテジー部門を率いるマイケル・ミラフラー氏は語る。ミラフラー氏自身も最近、ニューヨーク市で対面会合をくり返したという。「ワクチン接種率が上がり、レストランやバーが営業を再開したことで、人出がかなり戻っている。やっぱり対面のほうが話は早いし、できることもはるかに多いと、みんなあらためて実感している。一方、Zoomミーティングにはもう、誰もが辟易している。要するに、来年に向けて、カンヌのような大規模カンファレンスに対する欲求と需要が間違いなく存在するということだ」。
バーチャルフェスの焦点はクリエイティビティに
エージェンシー幹部と業界関係者は、バーチャルのカンヌでは、その参加目的がパーティやビーチ時間の享受ではなく、クリエイティブな仕事を称賛することに移行した点にも着目する。
たとえば、エントリーされた作品を吟味したい参加者の場合、「これまでは短時間しか見られなかったが、オンラインでならじっくりと腰を据えて評価できる」と、米マーケティング・コミュニケーション企業VMLY&Rのエクスペリエンスデザイン部門エグゼクティブクリエイティブディレクター、ウォルター・グリア氏は述べ、自宅にいられることの利点を指摘する。
VMLY&RのグローバルCCOデビー・ヴァンデヴェン氏も同様の見方をする。「間違いなく、今年はさらに厳しいものになる。ただ、誰もが最善を尽くすとは思う。セッションにオンラインで参加し、コンテンツオンデマンドをじっくりと見ることになるだろう。弊社のグローバルチームは、グループチャットで繋がり、今年のイベントを祝うつもりでいる」。
とはいえ、グリア氏は「みんな、ビデオ疲れしているのは確かだ」と言い添える。「Zoomはもう嫌だと、誰もが思っている。この1年、ビデオカンファレンスをくり返してきて、いまはだらだらと続けている状態。あの手の画面はもう勘弁して欲しい、というのが正直な気持ちだよ」。
「あの場所にいる必要がある」
非対面式のカンヌがこれで2年続くわけだが(そして、カンヌに大枚をはたかずに済む1年の収支バランスについて、CFOらはすでに明確な予想図を描けているはずだが)、エージェンシー幹部と業界オブザーバーは、業界内には来年の対面式フェスティバル再開を切望する然るべき欲求が存在しており、それに突き動かされる形で、フェスは必ずや復活を遂げると見ている。
「CMOらと面と向かって話がしたいと本気で思うなら、カンヌに来るしかない」と、広告エージェンシー、ブラウン&ブラウナー(Brown and Browner)の創業者デレク・ウォーカー氏は断言する。「ビジネス的に、エージェンシーは絶対にあの場所にいる必要がある。できれば、以前のようにはなって欲しくはないが。正直、巨大化しすぎたからね。あそこはビジネス会合の場であり、どうしても復活してもらいたい」。
KRISTINA MONLLOS(翻訳:SI Japan、編集:小玉明依)