コロナ禍の深刻化からおよそ1年が過ぎようとしている。この1年で、多くのことが変わった。だが、ワクチンの予防接種が進むなか、コロナ後も残る変化はあるのだろうか? 企業の広告担当者およびエージェンシーの幹部は、この「新たな日常」をどう捉えているか? 米DIGIDAY編集部が、4つの新たな働き方についてまとめた。
3月になり、コロナ禍の深刻化からおよそ1年が過ぎようとしている。2020年の今頃、米国では多くの企業でリモートワークが始まった。当時、広告業界では数週間で元に戻ると予測する企業が多かった。
しかし実際には、この目論見は崩れ去り、新たな現実、そして新たな働き方と向き合うことを余儀なくされた。この1年で、多くのことが変わった。だが、ワクチンの予防接種が進むなか、コロナ禍が終息したあとも残っていく変化はあるのだろうか? 企業の広告担当者およびエージェンシーの幹部は、この「新たな日常」をどう捉えているのだろうか?
米DIGIDAY編集部が、4つの新たな働き方についてまとめた。
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1. 「柔軟性」への需要は今後も続く
2020年、広告主およびエージェンシー幹部は、とりわけテレビCMについて柔軟な契約を求めるようになった。ワクチン接種が進み、コロナ禍が終息に向かっても、契約が以前の形に戻るとは考え難い。
「アップフロントでも、即応性や柔軟性がテーマになるだろう」と語るのが、カラUSA(Carat USA)の戦略担当ニシアバイスプレジデント兼分析担当リーダーを務めるヘイリー・パース氏だ。「2021年には、ワクチン接種で消費者動向は大幅に変わるだろう。そこで柔軟性が鍵を握ることになる。消費者の考え、行動の変化をどう捉えて何を訴求すべきか。この点を広告主と戦略的につめていく必要がある」。
2. 引き続き重要な危機管理計画
危機管理計画の重要性は以前から説かれてきたが、この言葉がこれほど重みを持つことはかつてなかった。「問題発生時にあると助かる」という程度ではなく、「準備万端で備えることが必須」なものとなった。今後は柔軟性だけでなく、ブランドやエージェンシーが必要時に対応できる本当の意味での危機管理計画が求められるだろう。
「以前は、危機管理計画は今ほど『リアル』なものではなかった」と語るのがメディアエージェンシーのスターコム(Starcom)で社長兼最高顧客責任者を務めるジュディ・イェ氏だ。「当社もクライアント業務の一環として危機管理計画を設計し、責任者にCFOを据えて理論上整ったものに仕上げていたが、実際には形ばかりだった。しかし2020年、我々は仕事でもプライベートでも危機管理計画の重要性を痛感させられた」。
3. 出張予算は当面、2020年の実費額を据え置き
2020年3月以降、広告主、エージェンシーともに直接会って仕事ができなくなった。実際、会議に出席するための出張費はかかっていない。それゆえ、しばらく予算が組まれることはないだろうが、「ワクチン接種が十分に進めば、出張も再開するはずだ」と予測する声も出ている。
「かつてのような業界イベントや無駄な社交イベントではなく、エージェンシーと広告主の実質的な関係強化を図る出張が増えるだろう」。そう予測するのが、米国UMのイノベーション担当責任者で、IPGメディア・ラボ(IPG Media Lab)の戦略担当SVPを務めるアダム・サイモン氏だ。
またクリエイティブエージェンシーのフォートナイト・コレクティブ(Fortnight Collective)の創業者兼CEO、アンディ・ネイサン氏は「『出張はビジネスに必須ではない』ことが、この1年で立証された」と語る。
「Zoomは単なる補助ツールではなく、主役となって新たな働き方を生み出した。実際に会う、会場を歩く、ときにはアルコールを片手に語り合う。こういった体験を懐かしむ声は多い。だが、仕事をこなすという意味では、出張は必要でなかったということだ」。
一方でネイサン氏は、次のようにも述べる。「それでも人間には相手とのつながり、一体感というものへの欲求がある。それは私生活だけでなく、職場においても同じだ。だから出張はある程度、再開されるだろう。ただし、これまでのような単なる顔見せではなく、重要な会議などが優先されてしかるべきだ」。
4. ハイブリッド型の働き方が主流に?
テレワークの導入とともに、広告主、エージェンシーともに新たな働き方と向き合うことになった。パンデミック以前の働き方を思えば、かなり柔軟性を伴う形になったのは言うまでもない。今や子供や犬がZoomに映り込んでも、多少仕事の邪魔になっても笑って済まされる。感染対策を行ったうえで、オフィスへの復帰を少しずつ進めている企業が多いが、今後、テレワークとオフィスワークを組み合わせた「ハイブリッド型」の働き方が拡がると考えられている。
「ハイブリッド型は適切に運用できれば、スタッフの才能を最大限に引き出し、効果的なイノベーションの達成、価値創出などを通じて会社に大きな利益をもたらす」とネイサン氏は語る。「だから今は、柔軟かつ目的に沿った新たな働き方を実現するチャンスだ。思い切った決断が重要になる」。
コロナ禍以降、即応性を高めることに重きが置かれるようになり、テレワーク以外にも、形式張った仕事の進め方を見直す動きが広まった。この動きは今後もしばらくは続くと予想される。
「営業資料を75ページにもわたってきれいにまとめるような作業は、今後は必要なくなるだろう」とイェ氏は語り、次のように言い添える。「あくまで目的は顧客の合意を取り付けることであり、過剰な情報収集作業を省けば、その分だけ業務速度を上げられる。またそれは契約のことに限らない。社内業務はもちろん、クライアント業務においてもメリットは大きい。新たな働き方の習得は健全なことであり、これからも続けていくべきだ」。
KRISTINA MONLLOS(翻訳:SI Japan、編集:長田真)