年齢と性別ではなく、社会的役割に基づくマーケティングを

本記事は、FICC代表取締役社長を務める、荻野英希氏による寄稿コラムとなります。

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ターゲットを性別と年齢だけで定義するマーケティング組織は、現代市場での競争に必要な消費者理解に至っていません。世代ごとに同様のライフスタイルが共有されていた時代はもはや遠い過去であり、現代の消費者の多様化した消費傾向を的確に表すには、単純なデモグラフィック属性以外の要素が重要です。そもそも性別と年齢が商品の購買動機となることはありません。まだターゲットを性別と年齢だけで定義しているのであれば、ただちにその時代遅れな固定概念を捨て、消費者理解を深めましょう。

「他者との関係」は動機の源泉

生理的な欲求以外に、私たちの購買行動に大きな影響を与えているのは「他者との関係」です。他者との関係は私たちに果たすべき社会的役割を与えてくれます。その社会的役割から私たちは自己概念という自身のイメージを抱き、その実現や一貫性の維持が行動の動機になります。マズローの欲求五段階説が示すように、私たちは自己実現に至るために他者との関わりを持ち、自身の価値を他者に認めてもらわなければなりません。他者との関係は、私たちの行動に決定的な影響を与える動機の源泉なのです。

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他者との関係が私たちの行動を左右しているという主張に、大きな違和感や驚きを感じる人は少ないはずです。誰もが日々の生活のなかでその重要性と影響力を認識しているはずです。しかし、ほとんどのマーケターはその本質的な価値に気づいておらず、その活用はクチコミなどの施策に留まっています。それは他者との関係というものが、決して単純なものではないからからかもしれません。

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購買行動に影響を与える他者との関係には、周囲からの推奨や同調圧力という直接的な関係だけでなく、不特定の他者に与える自身の印象管理という間接的な関係や、社会的な基準を守る規範意識という潜在的な関係も存在します。他者との関係をマーケティングに活用するためには、これらを集約する概念として、関係から生まれる社会的役割について理解を深める必要があります。

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「自尊動機」を満たすブランドへ

私たちは他者との関係を通じて、自身の社会的役割を認識し、その達成に責任や存在意義を感じます。そして、自身の価値観に基づき、役割を果たすために理想的な自分のイメージ(自己概念)を描きます。自己概念は社会的役割と価値観によって形成されます。よい親は優しくあるべきだと信じる人もいれば、厳しくあるべきだと信じる人もいます。同様に一つひとつの社会的役割に対して、その人物にとっての理想的な自己概念が存在します。私のような40代の男性は、優しい父親であると同時に、頼れる夫であり、有能な上司でありたいと思うかもしれません。

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この理想的な自己概念が現実の自分と異なれば、私たちは自己を高め、その実現に努力します。この自己概念における理想と現実のギャップを埋めようとする動機は「自尊動機」と呼ばれ、それを叶えてくれるブランドへの欲求を生み出します。私たちは理想の自己概念を実現することで、自身のアイデンティティを形成します。アイデンティティに基づき、行動に一貫性をもたらす動機は「自己一致的動機」と呼ばれ、アイデンティティを肯定してくれるブランドへの欲求を生み出します。

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自尊動機を満たし、理想的な自己概念の実現を叶えるブランドのなかには、競合の優れた機能や品質に左右されないロイヤルティを確立するものもあります。これらは自己表現の手段となることで、消費者のアイデンティティの一部になるものです。すべてのブランドが、私たちのアイデンティティの一部にはなり得ませんが、そのようなブランドをすべて他者との関係や社会的役割に立脚しているのです。

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社会的役割のターゲティングを

ブランドは消費者との関係を一対一ではなく、他者を含めたものとして考えるべきでしょう。人間の普遍的な動機である自尊動機や、自己一致的動機は、ほぼすべての購買行動を左右する決定的な要因です。この力をマーケティングに活用するためには、ブランドがどのように他者との関係に介在すべきかを考えなければなりません。そのために私たちがマーケティングの起点とすべきものは、性別や年齢などのデモグラフィック属性ではなく、他者との関係から生まれる社会的役割なのです。

幸いにも社会的役割はさまざまな行動に影響を及ぼすため、検索、購買、そしてインタレストを示すコンテンツの閲覧データなどから特定することができます。メディアやエージェンシーは、購買行動との因果関係が不明な一次的な属性データの提供よりも、それらに解釈を加え、社会的役割のターゲティングを可能にすべきではないでしょうか。

Written by 荻野英希
Photo by gettyimages