広告主と代理店の関係に、不可逆な変化がもたらされている:「自信を得たい」マーケターたち

コロナ禍は、広告主とエージェンシーの関係に不可逆な変化を引き起こした。両者の関係はこれまでも決して波風の立たないものとは言い難かったが、現在の危機によってさらなる変化が生じようとしている。

そして危機のピークは過ぎ去ったという希望的観測は、8月半ばごろには跡形も無くなってしまった。

英政府は世界経済が過去でもっとも深刻な不況を迎えていると宣言し、米国の連邦準備銀行も、世界中で失業への懸念が最高潮に達しており、ウイルスの封じ込めに成功するまで米国が経済成長を達成するのは厳しいだろうとの見方を示している。企業がこうして不況にさらされるなか、マーケターやエージェンシーのパフォーマンスは、今年の上半期よりもさらに厳しく精査されるようになっている。

これまで経済の成長を促してきたのは個人消費や企業投資だ。だが広告主は財政的に圧迫されるなかで利益を出し続けるため冷酷なまでにコスト効率を重視せざるを得ない。個人消費についても期待するのは難しい。M&Aアドバイザーのウェイポイント(Waypoint)の共同経営者、マイルズ・ウェルチ氏は次のように分析する。「不況が本格化しているため、経営幹部はマーケティング投資の成功を示す定量データを要求するようになっている。今年の下半期、エージェンシーはさらに厳しいプレッシャーにさらされることになるだろう」。

さまざまに変化する両者の関係性

一方、この緊急事態下でコスト削減への動きが強まることで、イノベーションにつながる可能性もある。たとえばイギリスの酒造企業ディアジオ(Diageo)と取引を行っている、あるアドテクベンダーの関係者によれば、同社は今年の下半期に向けて一部メディア業務をインハウスで実施し、アドテクベンダーの数を絞って、関係性を強化する予定とのことだ。同社は上半期はこういった業務をオムニコム(Omnicom)のPHD率いるチームに外注していた。

また、あるアドテク企業の幹部は「支出を厳しく律すると、悪い習慣を助長しかねない」と警戒する。「現在提携しているエージェンシーは、少ない人数で大量の業務をこなさなければならず、そのためもっともシンプルな方法に頼らざるを得ない場合があると語っていた。すなわち大半の広告購入をGoogleやFacebookで済ますというやり方だ」。

だが、そうしたなかでも、マーケターはエージェンシーが業務を担当する価値のあるような枠組みを作り出している。パンデミックが始まって以降、オンラインでの広告支出が増大した。そこでマーケターは、パフォーマンスベースの指標を重視し、目標の達成に応じた手数料を支払う方が費用対効果が高いと考えるようになっている。

すなわち、メディア予算を節約するために、エージェンシーにより多額の投資をすべきだ考えるマーケターが増えているのだ。通常、メディアエージェンシーへの支払い額は、エージェンシー幹部がそのアカウントのために費やした労働時間で決まる。

イービクイティ(Ebiquity)でメディア管理実行責任者を務めるマシュー・センプル氏は「手数料による報酬モデルは、エージェンシーを非常に重視したやり方だ。パフォーマンスチャネルに軸足を置く広告主が増えており、当社の仕事量も増加している」と語る。

パートナー探しが重要になりつつある

アドテクに対して透明性を要求し、メディア予算をさらに節約し、報酬モデルを見直す。こういった取り組みは、つまるところエージェンシーの見直しにほかならない。また、確かに2020年に行われるはずだったピッチの多くは現在無期限に保留されている。だが、だからといって広告主が選択肢の検討と評価を進めていないというわけではない。

人生においてパートナーとの別れほど破壊的なものはなかなかない。不況のなかではなおさらだ。だからこそマーケターは今、パートナー探しに目を向けるようになっている。パンデミックによって逆にインハウス化のトレンドがすっかりトーンダウンしたことからも、これは明らかだろう。あるコンサルタントは匿名を条件に次のように明かしている。「プロジェクトのインハウス化を進める決定を下した広告主もいるが、例外的だ。現在の環境化で、大半の企業は高額投資を必要とするインハウス化に二の足を踏んでいる」。

だが、広告主とエージェンシーの相違が解決しない場合もある。そういうとき、安全という前提条件のもと、ほかの選択肢を考慮するマーケターも存在する。

アドバイザリー企業のメディアセンス(MediaSense)で共同経営者を務めるライアン・カンギサー氏は「今年はアカウントの見直しを延期しせざるを得なかった広告主は多い。そんななか、もしもこれから半年で経済がある程度正常化すれば、その反動でピッチとそれに付随する市場は春頃に回復する可能性が高い」と述べている。「当社はクライアントのマーケターに対し、この危機下で検討するエージェンシーと、半年後に検討するエージェンシーは異なりうるという点を説明している。危機のなかでエージェンシー各社が事業を進化させていく可能性があるためで、マーケターとともにエージェンシーを注視していく」。

なかには、今のエージェンシーとの提携を続けるほうが別れるよりもコストがかかると判断し、すでに実行に移しているマーケターも存在する。

実際、ホンダやTikTok、デュラセル(Duracell)、スターバックス(Starbucks)、バーバリー(Burberry)をはじめ、多数の企業がパンデミックのさなかにエージェンシーの見直しを開始あるいは再開、完了している。こういった見直しを実際に行ってきたある幹部によると、やはりコストの削減はかなり重視されているという。結局のところ、アカウントを変更する広告主は、メディアの価格とエージェンシー手数料が少なくとも10%は安くなることを期待するというのが同幹部の考えだ。そしてさらに事態を複雑にしている要素もある。パンデミックにより消費者動向は変化した。マーケターはその変化への適応方法を示すことをエージェンシーに求めているのだ。

ここ数週間で広告主のニーズが変化

インフェクシャス・メディア(Infectious Media)のCEO、マーティン・ケリー氏は「パンデミック当初は新事業に取り組む企業はほとんどなかった。だがここ数週間でそこに変化が生じている」と語る。

エージェンシーのあいだで、企業におけるデジタルトランスフォーメーションに沿ったメディア戦略の再調整を求めるマーケターが増えているとケリー氏は指摘する。「これまでとはクライアントの動向が異なっている。現在のエージェンシーとほとんどできることは変わらなくても、多少価格が安いという理由で鞍替えするケースは少なくない」。

2018年に一斉に進んだエージェンシーの見直しを受けて、エージェンシーはマーケターの期待に応えられるように変化に取り組んできた。そして今、この変化が試されようとしているのだ。

たとえばオムニコムでは、ワークフローツールの「オムニスコープ」と、それを支える「オムニデータプラットフォーム」が注目を集めている。同ツールは、パンデミック以前にオムニコムが最大手クライアントの1社に導入していた標準プロセスを置き換えたワークフローアプリで、投資の追跡からシナリオ分析までを網羅している。

このツールを活用することで、クライアント企業の幹部はメディアオーナーとのあいだで行う広告費の変更や延期、キャンセル、再交渉のタイミングについて、より迅速かつ十分な情報をもとに決定できるようになる。さらにこういった業務をチーム内でより分散できるというメリットも得られる。オムニコムのデータとアナリティクス部門であるアナレクト(Annalect)でプロダクトマーケティング担当ディレクターを務めるアマンダ・フォレスター氏は、オムニツールを導入すると、分析モデルや統計モデルのデータを更新する必要がある場合に、データを簡単に入れ替えられると述べている。

「自信と安定の拠り所を探している」

今後も広告主にとって柔軟性は重要な要素だが、下半期に入ると、戦略変更よりもいつ実施するかが重視されるようになる。

アナレクトのコンサルティング責任者を務めるイアン・マクミラン氏は「当社はほぼ毎日のように、異なる状況下でこれまでと異なる判断を迫られてきた。3月と4月は特にそうで、何も起きていないなか、一部市場でこれから起こることが明らかだという特異な状況だった」と語り、次のように述べた。「とことん突き詰めてシナリオを練られるツールを手に入れたことで、クライアントに自信を与えられるようになった。マーケターは変化が今後も続くと理解しつつも、自信と安定の拠り所を探しているのだ」。

[原文:Marketers ‘looking to feel confident’ the coronavirus causing irreversible changes to the advertiser-agency dynamic

SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:長田真)