AppLovinの日本法人、Applovin株式会社代表取締役の林宣多氏は「AppLovinは広告費に対するリターン(ROAS)を自動最適化する。モバイルのトラッキング技術が向上し、『低い単価でインストールをたくさん取る』から、インストール後のROASやリテンションを目標に設定するようになった」と主張した。
アプリはスマホユーザーの利用時間の大半を占めると言われる(米eMarketerの調査では86%に達した)。世界中の若年層にとって、モバイルの重要性はテレビを大きく凌いでいる。
アプリのインストール、収益、リテンション(継続率)を最大化するアプリマーケティングが活況を示している。
米アプリ広告プラットフォームAppLovinは2011年12月創業からの急成長で知られる。3年程度で年間収益が約2億1000万ドル(約240億円)に達した。昨年、中国のプライベートエクイティのOrient Hontai Capitalが14億ドル(約1500億円)でAppLovinをM&Aした。
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AppLovinの日本法人、Applovin株式会社代表取締役の林宣多氏がこのたびDIGIDAY[日本版]のインタビューに応じてくれた。これまで人の手を活用していたキャンペーン運用を自動化できる点が同社の強みだと説明。同氏の主張を3点にまとめた。
* AppLovinは広告費に対するリターン(ROAS)を自動最適化する。明快なROIが売り
* モバイルのトラッキング技術が向上し、「低い単価でインストールをたくさん取る」から、インストール後のROASやリテンションを目標に設定するようになった
* 数字をみて最適化するという部分は機械が得意。その仕事を任せることで、人はクリエイティブな仕事に集中できる
モバイルトラッキングの急激な進歩
アプリ広告の進化の背景にはトラッキングの進歩がある。グローバルでは最初、端末固有のUDID(Unique Device Identifier:識別子)を活用していたが、端末固有のものなのでプライバシーの問題があった、と林氏は指摘する。
「日本はネイティブアプリからブラウザを挟み、Cookieでトラッキングしていた。ただブラウザを挟まないといけないのでユーザビリティが悪い。このため米国はグレーながらUDIDを使い続けていた。一時的に広告事業者らがUDIDに代わるIDをつくったが、最終的にはAppleがApple広告識別子(IDFA)、GoogleもAndroid広告IDを出した。それまではゲーム系の広告をゲーム系媒体に出すという運用だったが、それからアドテクが使いやすくなった」。
「さらにトラッキング会社が登場した。アプリ広告はインストールしてもらうことが目的。広告事業者がSDKを提供して、広告主のアプリに入れてもらっていたが、広告主側も5個も10個も入れられない。アプリも大きくなってきてバグが出たりする」。
ここでSDKを束ねたトラッキング事業者が現れた。「以前は低質の在庫を提供するアドネットワークと高質の在庫を提供するアドネットワークを比較する術がなかった。しかし、トラッキング事業者は進歩して、インストールの先のイベント、収益、継続率などを捕捉できるにようになった」。
「インストール後」の世界へ
「ポスト・インストールのトラッキングは、1年半ほど前に広告主がトラッキングプラットフォームのダッシュボード上で、各アドネットワークのROIを見れるというところからはじまった。トラッキングの会社からAPIで我々(アドネットワーク側)にも送ってもらえるようになった。広告IDに紐付いているので『この広告IDの人がどれだけ使っているか』がわかる」。
「それまではより低い単価でインストールをたくさん取ることが目的だった。インストール数が増えると、アプリストアのランキングも上がり、それに伴い自然のユーザーを獲得できるという仕組みだった。ただ、それだと中国のユーザーに大量にダウンロードさせるということも起きてきた。それで質重視の広告手法が求められてきたタイミングで、インストールだけでなく継続性や課金につながるかに最適化するプラットフォームが求められた」。
「我々のプロダクトはデータを活用し統計学的にアプローチするもの。一定のデータがないとワークしないので、データを貯めるために最初にテスト配信する場合があり、一定の予算が必要だ」。
ビジネス側もテクノロジーの動きに対応した売り方をしなくてはいけない。「広告業界はリレーションを築いて『出稿してください』という文化かもしれない。我々はアカウントマネジャー3人を抱えるが、もともとエンジニアでロジカルに数字をもって説明する。もともとビジネス側にいた人の方がうまくできる部分はある。しかし、ロジカルに数字をもって説明し、広告主が目的としている数字を達成できていれば、納得してもらえる。そのときの気分に左右される必要もなくなるかと思う」。
インストール後の広告費対効果を調べる
インストール後の状況については時間軸で見ている。システム上は1日目、3日目、7日目、14日目の獲得したユーザーからの売上を獲得費用で割ったROAS(広告費に対するリターン)を設定し、最適化できる。
ゲーム系は測定、最適化がとても明快だという。「ゲーム系はインストール後すぐに利用を開始する。課金も比較的早くするように設計されている」。
しかし、ゲームアプリの顧客がほとんどというわけではないそうだ。「キャンペーン数ではゲームアプリが多いですが、売上でいくとゲームと非ゲームが半々。スマホのアプリ広告だとGoogleとTwitterが1位と2位ですが、Applovinはその次のポジションまで来ている」。

ダッシュボード(Applovin提供)
「運用は基本こちらでやっている。8割はシステムで2割はマニュアル。うまくいくキャンペーンはうまくいくし、うまくいかないものはいかない。うまくいかないキャンペーンに対して、一生懸命やって努力を見せるのが日本企業の方法だが、そういう部分にリソースを費やすと効率的な運営ができない」。
「日本では広告代理店が予算の大半を動かしているので、一定のキャンペーンで実績を出していれば、ひとつふたつうまくいかないものがあっても信頼を落とさない。継続的にキャンペーンを提供してくれる。日本で急激に成長できたのは、代理店で結果を出して営業コストをかけなくとも浸透できた部分がある」。
テレビ、モバイル、スケール
「機械が人間にとって代わるという話になるかもしれないが、ぼくらとしては数字を見て最適化するという部分は機械の方が優れているので、そこは機械に任せて、それ以外のクリエイティブなところにマーケターが時間を使えると考えている」。
これまではテレビ広告からの流入がメインだったが、モバイル広告の割合は確実に上昇している。テレビ広告も当たり外れがあり、その影響が大きいという。「ヘビーにマーケティングを続けているアプリでも、いい成績でインストールを獲れ続けている」と説明する。

「トラッキング事業者は進歩して、インストールの先のイベント、収益、継続率などを捕捉できるにようになった」と語る林CEO=吉田拓史撮影
インストール数が一定数を超えると徐々にパフォーマンスが落ちる可能性があるか、との質問に対しては「グローバルでみても3年程度続けているキャンペーンがあるが(インストールが)獲れ続けている。ユーザーはスマホを買い換えるので、その都度新しいユーザーが生まれている。広告ネットワークなので、束ねている媒体のなかに常に潜在的なユーザーがいる」と説明した。
なぜAppLovinは急速に成長したのか。「マーケット自体が変わると、事業者はその都度、マインドセットを変えないといけない。それは普通は難しい。米本社のCEOがプロダクトとマーケットを理解していた。システムはしっかりしているが、『超イノベーティブなものをつくって伸びている』というよりは、すぐの先のトレンドに合うものをつくりつづけてきた。それが広告主のニーズに合致しているのだと思う」。
Written by Takushi Yoshida/吉田拓史
Photo by GettyImage