匿名を条件に本音を語ってもらうDIGIDAYの「告白」シリーズ。今回は、映像制作の入札担当の某プロデューサーから話を聞いた。コロナ禍により、同氏の仕事はどう変わったのか? 新型コロナウイルスの陽性率が上昇すると、なぜ同氏の仕事は再び困難になるのか? そして多くの手間を要するようになるのか?
映像制作は今夏、盛り返しを見せた。以来、エージェンシーと制作会社は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大のリスクを下げるべく、撮影現場における安全対策を一新する必要に迫られてきた。そしてそれにより、現場の仕事だけでなく、制作会社の入札プロセスにも変化が起こっている。こうした新たな安全対策にともなうコストを考慮に入れなければならなくなったからだ。
匿名を条件に本音を語ってもらうDIGIDAYの「告白」シリーズ。今回は、入札担当の某プロデューサーから話を聞いた。コロナ禍により、同氏の仕事はどう変わったのか? 新型コロナウイルスの陽性率が上昇すると、なぜ同氏の仕事は再び困難になるのか? そして多くの手間を要するようになるのか?
なお、以下のインタビューには、読みやすさを考慮して若干の編集を加えている。
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──新型コロナウイルスの影響で、制作の仕事はどう変わったのか? 入札やコスト見積も変わったのか?
変わった。以前の撮影では考慮しなかったことまで、いろいろと考えなければならなくなった。撮影現場に入るときや、テックスカウト(技術面の下見・調整)の日には、ほとんどの場合、全員が即時テストを受けている。また「コロナアシスタント」が、プリプロダクションのあいだにPPE(個人用防護具)が追加購入されているか、セットに手洗い場が設置されることになっているかといったことの確認をサポートしている。基本、彼らは制作チームに加わって、これらの対策がきちんと行われているかを確認している。なので、こうしたことを把握する責任は、プロデューサーや制作チームだけが負っているわけではない。もちろん、こうしたことに付随する費用もかかる。
──具体的な額は?
撮影班の人数によって異なる。(予算の)10~15%ぐらいだと思うが、別建てにしているので、正確にいうのは難しい。追加の準備や、手洗い場などに費用がかかっている。なかでも大きいのが、撮影班やエージェンシー、クライアント、タレントなど、関係者全員の検査にかかる費用だ。たとえば、撮影の1日の予算が25万ドル(約2600万円)の場合、撮影班の人数や、準備の規模によっても変わってくるが、「コロナ対策コスト」は2万5000~4万ドル(約260万~420万円)ぐらいだろう。その大部分を占めるのは検査だ。(即時)テストにかかる費用は1回あたり300ドル(約3万1000円)ほどだ。技術者が1人来て検査を行い、それを検査施設に持ち帰る。なので(実際の検査以外に)1日あたり200~300ドル(約2万1000~3万1000円)の費用も別にかかる。
──クライアントがこの追加費用の負担を渋ることは?
どんな予算にも、コストがいくらかかるのかについての疑問はある。たいていは「何か問題が起きた場合、エージェンシー、クライアントが名前を出すことを望むか?」という問いに行き着く。我々の場合、その費用は追加費用として回すことにしている。そして、完全な透明性を確立し、撮影に使われた費用だけをクライアントが負担することを明確にしている。大幅な値上げが行われているわけではない。あくまで「費用=支払う額」だ。
──追加費用のプランニングのほかに、あなたの仕事のどのような点が変わったか?
制作チームはフリーランスで仕事をしている。我々は彼らに絶大な信頼を寄せている。予算内での制作を依頼しているが、同時に全員の安全の確保も念押ししている。もし安全が確保されていないなら、その責任は制作会社が負うことになる。したがって、正しい決定がなされていることを確認するための多くの決定において、より実践的なアプローチをとっている。いま私は、プロデューサー陣との距離を縮め、ともに仕事に取り組んできた人々から少しは信頼があることを実感している。全員が制作プロセスの現状を認識している。
──今年8月、あるアシスタントディレクターがコマーシャルの撮影後、新型コロナウイルスに感染して亡くなった。このことは業界にどんな影響をもたらしたか?
一時期、各組合が全員の検査を求めていたが、エージェンシーもクライアントもそのための費用の負担を渋った。コロナ対策コストのなかでも、それがいちばん高額だからだ。皆でそれを負担するという考えを示したところで、しょせんそれは提案にすぎなかった。制作会社が自腹で払えるような額ではなかった。この悲劇が起きた時、この提案が「撮影班に検査を受けさせないとダメだ。これがその費用だ。支払う必要がある」へと変わった。(アシスタントディレクターが亡くなったときは)誰にとっても事態はいっそう深刻になった。これを受けて、すべての制作会社が足並みをそろえるようになった。
──今、また感染者数が急増している。再び制作が中断されるかもしれないという懸念は?
我々は現状を受け入れながら仕事を進めている。(撮影中止の決断に)大きな影響を及ぼすのは、ロックダウンの有無や、屋内での人数制限に関する規制の有無だ。もうひとつの要因は、撮影現場が屋内なのか、屋外なのかだ。はじめのころ、各所が開放されていたときは、さまざまなことを見極めなければならなかった。そこで撮影できるのか、何人までなら大丈夫なのか、現場にディレクターを派遣できるのか、できたとして、ディレクターを隔離し、さらに2週間、ホテルに滞在させなければならないのか、といったようなことを。こうした業務遂行上の問題のすべてが、1回の撮影に大きな重荷としてのしかかっていた。今はさまざまなことがオープンになったので、ニューヨークやロス、シカゴなどのハブに戻るのが、少し楽になった。とはいえ今後、事態がシャットダウンの方向に進めば、どこなら撮影できるのか(あるいはできないのか)という難しい判断を再び迫られることになると思う。
──ロックダウンが再び起これば、こうした業務遂行上の頭痛の種も戻ってくることをスタッフは認識していると思うか?
今後の状況が作品(と、そのプランニング)を左右する。これが感染者数増加の最大のネックだ。2週間後の世界がどうなっているのかを考えている様子はスタッフに見られない。5月には、このことがもっと大きな問題だった。当時、一部の場所は開放されていたが、その開放にはさまざまな段階があった。とくにストレスが大きかったのは、初期段階のエリアの撮影計画だった。そうしたエリアは、感染者数が増加すると、ひとつ前の段階に戻り、そこでの撮影は中止になって、新しい場所を探す羽目になるおそれがあった。状況は悪いと、はっきりと認識しているスタッフはまだいないと思う。今は仕事が舞い込んできている。再びシャットダウンが起こるかもしれないという考えは芽生えないのだろう。こうして業務は再開されたのだから、スタッフが状況が悪いことを再認識するのは難しいように思える。
[原文:‘Logistical issues’: Confessions of a production exec on how coronavirus safety has changed her job]
KRISTINA MONLLOS(翻訳:ガリレオ、編集:長田真)