在宅勤務の台頭により、どこにいても仕事ができるようになった。締め切りが守られ、請求金額が支払われ、Zoomの背景が仕事にふさわしいものである限り、一部の上司にとって、地理的な場所はほとんど意味を成さなくなっている。
在宅勤務の台頭により、どこにいても仕事ができるようになった。締め切りが守られ、請求金額が支払われ、Zoomの背景が仕事にふさわしいものである限り、一部の上司にとって、地理的な場所はほとんど意味を成さなくなっている。気温が26度を超え、太陽の光が降り注ぐマイアミのような場所がパンデミックなかのホットスポットになったのはそのためだ。
その結果、かつてニューヨーク、サンフランシスコといった産業の中心地と(アイデンティティ、精神面で)密接に結び付いていた企業が、本質的にはどこにも属さない企業になった。
「すべてがビデオ会議で完結する」
ナイキ(Nike)、ルルレモン(Lululemon)などのブランドを顧客に持つエージェンシー、アンコンカード(Unconquered)の共同創業者で最高クリエイティブ責任者、ジョナサン・ハンソン氏は「チームメンバーがどこで仕事をしているかは重要ではないと思う」と話す。アンコンカードはニューヨークに本社を置き、ハンソン氏もニューヨーク在住だが、従業員は全米に散らばっている。都市での暮らしは「私個人のアイデンティティに影響するが、ビジネスには影響を与えない」とハンソン氏は断言し、アンコンカードは「物理的な都市ではなく、明確なブランド価値に基づいてつくられた。その結果、私たちは何者で、何をしているかを本当の意味で理解しながら、より幅広い人材を確保できている」と補足した。
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デンマーク、コペンハーゲンに拠点を置くマーケティングエージェンシーの団体で、スカンジナビア航空(Scandinavian Airlines)やスウェーデン、ストックホルム地下鉄を顧客に持つノース・アライアンス(North Alliance)の創設者でエグゼクティブチェアマンを務めるトーマス・ホージボル氏は「パンデミックは、グローバル化の新たな感覚をもたらした」と指摘する。「今やすべてがビデオ会議で完結する。国際的なブランドはもはや地元の人材にこだわる必要はない」
人材の分散がチームに困難をもたらしたこともあるが、最終的に、チームは人材の多様性を受け入れ、「場所は必ずしもニューノーマル(新しい普通)をニューリマーカブル(new remarkable:新しい注目)に変えることへの障壁にはならない」ことに気付いたという。
スタートアップは少し事情が異なる
スポーツウェアメーカーのアルファ(Alpha)などを顧客に持つスノー・エージェンシー(Snow Agency)の共同創業者でCEOであるダニエル・スノー氏はニューヨークのマンハッタンからハドソン川を渡ったニュージャージー州エッジウォーターに仕事部屋を持ちながら、場所がほとんど重要ではないことを体現している。パンデミック中、スノー氏はマイアミに拠点を移し、現在、オフィスの開設も計画している。「多くの人がそうであるように、我々はそれぞれの自宅で働き、孤独と今後についての不安を感じていたが、それをプラスに変えることができた」。
ソフトウェア開発企業フィンジェント(Fingent)のプロセス、技術革新担当シニアバイスプレジデントを務めるディープ・プラカシュ氏は「テクノロジー企業はほかの多くの企業と異なり、リモートワークでもうまくいくというのが正直なところだ。これは数年前から多くの人が主張してきたことで、ただパンデミックが変化を加速させただけだ」と語る。
ただし、創業から間もない企業の場合、話は大きく異なる。「スタートアップはテクノロジーの中心地に本社を構えることを強く望んでいる。より多くのベンチャーキャピタリストがいて(そして会うことができ)、オンライン会議が浸透した今でも、資金調達が容易になるためだ」とプラカシュ氏は説明する。また、巨大テクノロジー企業の近くにいることもスタートアップの利益になる。Googleなどの巨大テクノロジー企業はシード期のスタートアップに投資したり、人材を提供したりすることで、「スタートアップが大きく飛躍する」手助けをしてくれる。
そのような訳もあり、Zoom会議では「これ以上ないほど満足感を得られる」井戸端会議の代わりにはならないとプラカシュ氏は嘆く。
「差別化できるのは仕事や価値観」
パワー・デジタル・マーケティング(Power Digital Marketing)はサンディエゴに本社を置き、ニューヨークとロサンゼルスにオフィスを構えるデジタルマーケティング企業で、ビヨンド・ミート(Beyond Meat)やペロトン(Peloton)が顧客に名を連ねる。多くの企業がそうであるように、現在、従業員はあちこちに散らばっている。それでも、最高ブランド責任者のサラ・ブルックス氏は、確かに人々はオフィスや同僚から切り離されているが、地理的な多様性は今後の強みになると考えている。
「『正常』に戻ったとき、もちろん遠隔地の従業員にも門戸を開くつもりだ。これまで大都市に拠点を置いてきたエージェンシーの人材獲得が有利になり、全米のプロたちと仕事ができるようになる」。ニューヨーク、ロサンゼルスといった産業の中心地が人材の供給源であることに変わりはないが、大都市に拠点を置かなければならないという考えはこの1年でほぼ完全に消え去ったとブルックス氏は補足する。
英国ロンドン郊外の町ハイウィカムに本社を置くSEO企業コンバーティドクリック(ConvertedClick)の創業者でディレクターであるデーブ・ニルソン氏も「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は我々にいくつかの貴重な教訓を与えてくれた。場所がもはやアイデンティティの旗手ではないことに企業は気付いた」と述べている。ニルソン氏によれば、この1年で多くの企業が財務的に圧迫され、ロンドン都市圏のような賃料が高い場所からの移転を余儀なくされているという。結局のところ、それで問題ないとニルソン氏は考えている。
「場所というアイデンティティはもはや通用しない」と、ニルソン氏はいう。コンバーティドクリックはジャガー(Jaguar)などのブランドを顧客に持っており、「アイデンティティを形成するのは仕事や価値観だ。顧客と有意義な関係を築き、優れたサービスを提供すれば、どこにいても自然と影響力のある存在になる」。
TONY CASE(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:長田真)