「嫌われない広告」というのは、昨今のマーケティング業界において、ホットトピックのひとつだが、「愛される」という視点で発信する業界人は、意外に少ない。株式会社ラバブルマーケティンググループで代表取締役社長を務める林雅之氏は、その「愛される」ということにトコトンこだわってきた人物だ。
「嫌われない広告」というのは、昨今のマーケティング業界において、ホットトピックのひとつだ。だが、「愛される」という視点で、オピニオンを発信する業界人は、意外に少ない。
株式会社ラバブルマーケティンググループ(LMG)で代表取締役社長を務める林雅之氏は、その「愛される」ということにトコトンこだわってきた人物だ。「愛される」という想いは、「ラバブル(Lovable)」という社名にも、色濃く表れている。LMGは、SNSマーケティングエージェンシーのコムニコ(comnico)、MAツールやCRMを基盤とするデジタルマーケティングを支援する24-7(トゥエンティフォーセブン)、デジタルマーケティング人材に特化したキャスティング支援をするハウズワーク(How’s Work)、SNSマーケティングに関する検定資格と講座を提供するSNSエキスパート協会など、多彩なグループ企業で「愛されるマーケティング」を実践している。
「見たくもない広告を見せられるなんて論外だ」と、林氏は自身のポリシーについて語る。「マーケティングされる側が不愉快にならず、むしろ役に立ったり、楽しんだりできるマーケティングにこだわりたい」。
そんな林氏に、LMGの事業コンセプトについて訊いた。
――「愛されるマーケティング」。なぜ、これを事業コンセプトに据えたのでしょう?
5年くらい前、アメリカのボストンに本社を置く、インバウンドマーケティング&セールスソフトウェアを提供する会社、ハブスポット(HubSpot)のブライアン・ハリガンCEOのスピーチを聞いたときに、「create marketing people love」という言葉が出てきました。そのとき、私としては衝撃的だったというか、大きなインスピレーションをもらったと感じたんです。マーケティングという硬質な文脈で「LOVE」だなんて、一見そぐわないなと思いつつも、非常に共感するところがありました。
もともと私は、突撃営業は苦手だし、オフィスに電話がかかってきて、いきなり不動産買いませんかと来るのも嫌いです。郵便受けにたっぷり詰まっているダイレクトメールにもうんざりしています。ただ、それらも、マーケティング活動のひとつなのですよね。
日々、そういった不愉快なマーケティングに囲まれているなかで、「では、不愉快に感じないマーケティングっていったい何だろう?」と考えていたところに出会ったのが、ブライアンのスピーチでした。「マーケティング活動自体が生活者から愛されなければ、これからのマーケティングはダメだよね」。私自身も感じていたことを、そのような言葉でビシッと形にしてくれた。だから、ことさらに共感が深かったのです。
弊社の社名にある「ラバブル」は、このときの衝撃がもとになっています。ブライアン本人から「パクったな」と言われましたが(笑)、あのとき感じた衝撃を大事に持ち続けたいし、その気持ちを社員とも共有したいと思っているのです。

「『ラバブル』という言葉の衝撃を社員と共有したい」
――なるほど。ちなみにマーケティングにおける「ラバブル」というのは、どういう状態ですか?
言葉で定義するのは、ちょっと難しいですね。というのも、私は「ラバブル」というけれど、それを世間では、「生活者視点」とか「ヒューマンセントリック」というのかもしれない。言葉で定義するのは、もう少し研究を重ねたいと思っています。
ただ、生活者にとって、役に立つとか、楽しいなど、そこの視点がすごく重要だと思っています。特にSNSが普及したいまは、不愉快という感情を想起させるマーケティングが致命傷なのは、間違いありません。
――LMGの企業は、SNSだけでなく、人材・教育などにも力を入れています。すべてのコアは、同じ「ラバブル」なのですか?
はい、そうです。SNSマーケティングエージェンシーのコムニコ、MAツールやCRMを基盤とするデジタルマーケティング支援する24-7、デジタルマーケティング人材に特化したキャスティング支援をするハウズワーク、SNSマーケティングに関する検定資格と講座を提供するSNSエキスパート協会など、すべてのLMGグループ企業は「ラバブル」というコアに基づいて活動を行っています。
――「愛」という不確かな言葉は、クライアントには受け入れられます?
正直なところ、「愛」以前に「共感」すら、理解してもらうのは大変でした。
私が、ラバブルマーケティンググループの前身であるコムニコを起業したのは2008年。その当初からSNSを介してコンテンツを発信し、そこに共感を得ることで、企業そのものの好感度を高めるというマーケティングを提案していました。しかし、当時は「『共感』でプッシュして、結局いくら売れるの?」という話になることが多く、苦労したのです。
ただ、いまは、多くの企業に、従来通りのマーケティングではいけないという、危機意識のようなものがあると、感じています。
――よくわかります。ちなみに、「愛されるマーケティング」を実施するための具体的な手段とは?
愛されるマーケティング、ラバブルマーケティングって、とても曖昧な言葉だからこそ、実現するための手段はたくさんあるわけです。そこで、私たちがどんなアプローチをとるべきかを考えるために、マーケティング業界の主だった分野を3つに分類してみました。
ひとつはテクノロジーやプラットフォームを提供する分野、もうひとつは大きな企画やプランニングを行う分野、最後のひとつがオペレーションを実施する分野です。
事業会社は当然、この3つすべてを行うべきですが、私たちは戦略として、オペレーションに注力してやっていくべきだと考えました。なぜなら、ラバブルマーケティングというのは、日々のオペレーションがすごく重要だからです。
One to Oneマーケティングや、生活者とコミュニケーションを行うといった、Day to Dayで積み重ねるやり取りの末に得られるもの――それが、共感や信頼、愛されるということ、つまり「ラバブル」なのです。3カ月1単位のキャンペーンでは、そこまで到達することは、正直難しいですよね。「ラバブル」を実現するには、オペレーションに専門的に特化した組織が、絶対に必要なのです。そして、そんな組織は、世の中にはほとんどありません。
すべてのマーケティング活動を愛されるものにするために、私たちは日本No.1のM.O.S.(Marketing Operating Service)を目指す。世の中にないのだから、我々がやっていこう。そういった気概が、我々を我々たらしめているのです。

「オペレーションに専門的に特化した組織が、絶対に必要」
――オペレーションに特化することで得られる強味とは何でしょう?
まず、知識やノウハウの情報量が大きいことが挙げられます。たとえば、ある会社が、Twitter、インスタグラム(Instagram)、Facebookのアカウントを運用して、SNSマーケティングを実施したとします。単純に見れば、その会社には、3アカウントの運用ノウハウしか残りません。
しかし、私たちは、マーケティングオペレーションサービスを実施することで、さまざまな企業のSNSアカウントを担当するごとに、社内にノウハウが蓄積していきますし、当然それは社内で共有しています。それが、SNSマーケティングのオペレーションという分野において、圧倒的な知識とクオリティを発揮する源泉でもあります。
また、蓄積したノウハウも活用できなければ意味がありません。また、得たノウハウを理解し、使いこなし、発展させる人材の育成も、併せて重要なことだと考えています。
ラバブルマーケティンググループには、SNSマーケティングに関する検定資格と講座を提供するSNSエキスパート協会もありますし、デジタルマーケティング人材のキャスティング育成を専門とする会社、ハウズワークもあります。ノウハウを教育プログラムに落とし込み、採用者の教材として利用し、専門性を発揮する高度人材として育てていく。そういった好循環も、「愛される」をキーワードに、オペレーションという専門性に特化したからこその強味だと、認識しています。
――最後に「愛されるマーケティング」を推進するにあたって、これから取り組もうしていることは?
マーケティングにおいて、オペレーションも重要であるという認識を、業界内にしっかり浸透させたいと考えています。
デジタル広告の運用は、Day to Dayでチューニングしていくのはいまや常識です。プランニングやクリエイティブなどを考える人が上流工程、オペレーションをする人は下流工程といった、オペレーションを軽視するカルチャーがまだ残っています。そんな状況では、オペレーションに携わるマーケターたちのモチベーションが湧かないのは当然でしょう。そうならないような、組織を作らなくてはいけないと思っています。
現在のマーケティング業界は、目立つ仕事をした人だけがハイライトされがちなカルチャーです。そういった環境下で、Day to Dayのオペレーションのような、コツコツ積み重ねる仕事に従事する人に光を当てることは難しい状況です。なので、コツコツ積み重ねる仕事をしてきた人が真っ先に評価されるような、新しいカルチャーを内包した組織づくりが、求められていると思います。
こういった従来のカルチャーのマインドセットを変更することは、これまでのカルチャーを担ってきた組織では実現できません。オペレーションに特化し、多くのスペシャリストを抱える私たちだからこそ、新しいカルチャーを伴った新しい組織を創造していくことができる。それこそが一番の強みだと考えています。
林 雅之(はやし まさゆき)
株式会社ラバブルマーケティンググループ
代表取締役社長
立命館大学法学部を卒業後、三和銀行(現 三菱UFJ銀行)に入行。その後大手半導体メーカーの海外営業担当としてフランス・デンマークの営業拠点開設に奔走。2008年に株式会社コムニコを設立し、代表取締役に就任。日本におけるSNSマーケティングの第一人者として、セミナーやカンファレンスでの講演や書籍出版の実績多数。2014年に株式会社ラバブルマーケティンググループ(LMG)を設立。
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Written by 内藤貴志
Photo by 渡部幸和