「本気にならない彼氏のよう」:連続プロジェクト方式の増加に、エージェンシー業界が困惑

アメリカの企業は近年、効率化と称して、指定広告代理店(agency of record:以下、AOR)への仕事の割り当てを減らし、プロジェクト単位での発注を増やしてきている。だが、その状況にもやや揺り戻しがきているようだ。そして、その結果登場したのが、ふたつのあいだを取った「シリアル(連続の)プロジェクト」と言われるやり方である。

シリアルプロジェクト方式の場合、ブランド側はエージェンシーに、繰り返し発生するプロジェクトを発注できる。エージェンシー側は、どのくらいの期間そのブランドの仕事をするのか、いくつプロジェクトを割り当てられるのかについて大体のところしかわからず、ブランドからAORとして多額の契約料金が支払われることはない。取り決めは非公式に行われることもあれば、プロジェクトの計画について示された正式な契約が結ばれるケースもあるが、契約があってもプロジェクトの報酬や範囲は未確定のままになっている。

アメリカ広告業協会(4A’s)のエージェンシーマネジメント担当シニアバイスプレジデント、マット・カシンドーフ氏によれば、こうした傾向は、ここ半年から1年で中規模ブランドに広まりつつあり、シリアルプロジェクトの発注を受けることがもっとも多いのはクリエイティブエージェンシーだという。

こうしたやり方では、ブランド側はAOR契約料を支払うことなく特定のエージェンシーと継続して仕事をし、ブランドとしての一貫性を維持できる。要するに、AORとプロジェクト単位の発注、両方の良いところを活用できているわけだ。一方エージェンシー側としては、どれくらい仕事が入ってくるかについてはある程度の見通しが立つが、報酬や人員配置に関しては、AORの場合ほど細かく取り決めが行われていない場合が多く、曖昧な部分がある。米DIGIDAYが報じているように、条件は早めに詰めておかないと、後々問題になることもあるだろう。

変化する関係性を示す例

こうしたシリアルプロジェクト方式は、エージェントとクライアントの絶えず変化する関係性を示す例のひとつだと、エージェンシー幹部や業界のエキスパートらはいう。また、ブランドはエージェンシーとの長期的なコミットメントを望んでいないため、こうした発注方式は今年さらに広がるだろうとも言われている。

「より多くのことを、より少ない労力で、よりスピーディに、よりスマートに、より安価に実施したいというのが、現在の傾向だ」と、検索コンサルタント会社のAARパートナーズ(AAR Partners)でプレジデントを務めるリサ・コラントゥオーノ氏はいう。同氏は、インハウスエージェンシーが外部から力を借りるようになった副作用として、シリアルプロジェクトが増えていると見ている。「インハウスエージェンシーは、エージェンシーとして100%自立するようにはできていない。内製化を進めるクライアントが増えれば増えるほど、外部からの手助けを求めるケースも増えてくる」。

シリアルプロジェクトは、内製化とAORをハイブリッドさせたモデルへの移行を表す一側面とも言えるだろう。こうしたハイブリッドな手法は、米DIGIDAYが報じているように、2020年には一層広がりを見せるはずだ。ただ、このシリアルプロジェクトにも、やはりエージェンシー、クライアントそれぞれにとってのメリット、デメリットがある。エージェンシーとしては、トップクラスの人材を短期間のプロジェクトのために確保するのは難しいため、こうしたやり方ではブランドに最高の成果を提供しにくくなるという。

「運命の人、とは絶対言わない」

「継続的に仕事が来ることがわかっている、という意味では、エージェンシーにもメリットはある」と、カシンドーフ氏はいう。「だが、財務予測を立てるのは困難になり、人員配置もやりにくくなるうえ、確実に毎月継続して仕事が来る保証はない(ケースもある)。シリアルプロジェクトは、クライアントとエージェンシーが、強固で継続的な関係を確立するためのひとつの方法ではあるが、完璧な方法とは言えない」。

「全然本気になってくれない彼氏のようだ」と、ある独立系クリエイティブエージェンシーでシリアルプロジェクトを手がけるクリエイティブディレクターは話す。「デートは続けているし、感謝祭には実家に来たり、一緒に休暇に出かけたりもするが、君こそ運命の人だ、みたいな確実なことは絶対に言ってくれない」。

「シリアルプロジェクトは、クライアントとの結婚ではなく、デートを重ねるようなものだ」と、バーンズ・グループ(Burns Group)CEOのジョアン・マッキニー氏は語る。「短いあいだの関係かと思いきや、プロジェクトが進むにつれて関係は深まっていく。AORの場合は、まず結婚してからお互いを知っていくことが多い。シリアルプロジェクトの場合、プロジェクトが追加で発注されるのは、その前に手がけたプロジェクトの結果が評価されており、クライアントからの信頼も高まっていることの表れだ。シリアルプロジェクトが、クライアントとの長期にわたる優れた関係に変わっていくケースもこれまでにたくさん見てきている」。

ひとつの方式では通用しない

また、シリアルプロジェクトは、エージェンシーとクライアントとの関係が変化する過程においては当然のことだと見る向きもある。

「結局のところ、シリアルプロジェクトが長期契約のプロジェクトより本質的に良いとか悪いとかいうことはない」と、米エージェンシー、メカニカ(Mechanica)CEOのテッド・ネルソン氏は述べている。「健全な長期契約関係から生まれる理解や関係の深さが恋しくなることもあるだろう。だが、長期契約を結んでいる場合、緊張感を持っていないと自己満足に陥り、現状に甘んじてしまう場合もある」。

全体として、シリアルプロジェクトの増加は、エージェンシーとクライアントとの関係において、画一的な方式はもはや通用しないと業界全体が認識していることの表れだと、エージェンシー幹部や業界エキスパートは考えている。

「ひとつの方式を当てはめて、それで終わりというのでは、もうやっていけない」と、コラントゥオーノ氏はいう。「報酬の取り決めをする際に、個々のニーズや、プロジェクトの成果に影響を及ぼす可能性のあるさまざまな不確定要素について話し合う必要がある。それには、以前より時間と労力がかかるだろう」。

「結果的に、誰も得しないのでは」

しかし、そう単純な話ではないという声もあがっている。発注方式が変わり、シリアルプロジェクトというやり方が新たに広がったことで、支払いモデルや何らかの長期的計画に関して、ブランドからはっきりした情報を入手するのが難しくなっているというのだ。

「どんどん困難になっている」と、シリアルプロジェクトを手がけている、独立系クリエイティブエージェンシーの幹部は語る。「(シリアルプロジェクトのせいで)エージェンシーは徐々に先の見通しが立たなくなっていく。プロジェクトの範囲や概要にコミットしていないので、何が必要なのかもよくわからない。仕事の全体像がわからないまま、細かくプロジェクトごとに切り分けられてしまうと、ある程度の諸経費を要求したり、予測をして計画を立てたりといったことができなくなってしまう」。

「クライアントからひとつプロジェクトの発注を受けると、良かった、これで次のプロジェクトも発注してもらえるはずだ、と思ってしまう」と、先述のクリエイティブディレクターは語る。「だが実際は常に綱渡り状態で、大きな成果を挙げたとしても、次の保証は何もない。ひとつ成功させて、当然次のプロジェクトが来るだろうと思っていたのに発注されなかったことは何度もある。次を期待できない、この構造的に不確かな状況があるため、クライアントにとって真のパートナーになれないのがつらいところだ。結果的に、誰も得していないのではないかと思う」。

Kristina Monllos (原文 / 訳:ガリレオ)