DIGIDAYの連載シリーズ「広告後の人生(Life after Advertising)」では、業界で長い時間を過ごした元アドマンの話を共有している。今回は広告代理店ドーナー(Doner)のチーフクリエイティブディレクターを辞め、NPOを立ち上げたロブ・ストラスバーグ氏に話を聞く。
DIGIDAYの連載シリーズ「広告後の人生(Life after Advertising)」では、業界で長い時間を過ごした元アドマンの話を共有している。彼らは、おそらく少しは摩耗しているが、大部分は無傷の新しい夢を抱き、新しいキャリアを築きはじめている。
ロブ・ストラスバーグ氏(49歳)は25年にわたり広告業界で辣腕を振るった。10年間はクリスピン・ポーター+ボガスキー(Crispin Porter + Bogusky)のクリエイティブディレクターとしてフォルクスワーゲンやミニといった大手ブランドを手がけ、9年間はデトロイトに拠点を置く広告代理店ドーナー(Doner)で活躍し、チーフクリエイティブディレクター兼共同CEOにまで上り詰めた。
だが2017年1月、ストラスバーグ氏は広告業界をあとにし、妻トレガーとともにNPOのハンブル・デザイン(Humble Design)を始めた。ホームレス保護施設を出て新たな生活をはじめようとしている人々の住居に家具を提供する非営利団体だ。そんなストラスバーグ氏に広告業界を辞めた理由や、ハンブル・デザインを立ち上げたいきさつを聞いた。
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――広告業界を辞めることにした理由は?
広告業界では、自分はいま世界を変えている、と実感できる機会は少ない。私は幸運にも、そういう感覚を得られるキャンペーンにいくつか関わることができたけれど、できれば毎日そう感じたかった。それと、かなり長いこと他人の会社で働いてきたからね、自分の会社を自らの力で支えて、どこまで行けるのかをこの目で見られるのは、とても楽しいよ。
――ハンブル・デザイン誕生のいきさつは?
2009年、私はドーナーに転職が決まり、妻と一緒にデトロイトに引っ越した。そこのNPOで妻がボランティアをはじめて、あるホームレスの女性と友だちになった。妻は彼女に住居を見つけてやり、それから、いらない家具があったら、寄付していただけないだろうかと言って、近所をたずねて回った。すると、たくさんの人がいろいろな物を持ってきてくれるようになって、ひととおり揃ったあともそれは続いたから、ほかのホームレスにも同じことをしてみようと、妻は思い立った。それからは3カ月ごとくらいかな、寄付していただいた家具でうちのガレージが一杯になると、それをまとめて誰かの住居に運び入れる、ということをした。で、その年の終わりには、そういうことをしている人がいるらしいという噂が広まって、保護施設の順番待ちリストに100世帯が名前を載せるまでになったんだ。
――それから?
どうせやるなら、あちこちの慈善団体に金を提供するのではなく、自分に投資してみようと決めた。倉庫を手に入れて、人を数名雇い、持続可能なビジネスモデルを模索したんだ。その結果がハンブル・デザインで、これまでに900世帯の住居に家具を提供し、当初からあるデトロイトの本部は現在、毎週3世帯に手を貸している。
――ハンブル・デザインの今後の展望は?
事業拡大を慎重に、かつ責任を持って行なえるよう、現在、全米マネジメントチームの発足に取り組んでいる。目的はブランド化にある。最終的には、世界70カ国以上で住居問題に取り組む団体ハビタット・フォー・ヒューマニティ(Habitat for Humanity)の、家具&日用品版を目指している。2017年3月にインテリアショップCB2の力を借りてシカゴにオフィスを開いたし、先月にはマイクロソフトと慈善財団シュルツ・ファミリー・ファンデーション(Schultz Family Foundation)の協力を得て、シアトルにもオフィスを作った。デトロイトにももうひとつオフィスを構える計画があり、サンディエゴにも間もなくオフィスができる。
――広告業界での経験はハンブル・デザインにどのように役立っている?
ナショナルブランドと仕事を進めるノウハウに関しては、業界時代に身につけたスキルが大いに役立っている。家具類が揃った住居を家族が見られる日、通称「デコ・デイ(deco day)」には、ブランドの方々にも来てもらう。我々はそれに料金を課し、その代わり、彼らが真摯な面を見せられる動画やウェブコンテンツを制作する。これまでにローカルブランドはもちろん、バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)やフォード(Ford)、Uホール(U-Haul)といった数々のナショナルブランドとも事業を行なってきた。
――広告業界について、懐かしく思うことは?
創造性に満ちあふれる閃きだね。「決勝ホームラン」と個人的には呼んでいたんだけど、戦略にぴたりとはまる独創的なアイデアがぱっと浮かんで、早くクライアントに持っていきたくてうずうずしてくる。勝ちを確信するあの感覚は何ものにも代えがたい。
――広告業界について、懐かしく思わないことは?
代理店を率いていると、すべてが完璧に進んで欲しいと思うようになる。ひとりの顧客も逃したくなくなるし、従業員全員のキャリアが花開いて欲しいと思う。でも残念ながら、広告業界はまさにジェットコースターで、浮き沈みが激しいから、才能のある人が必ずしもキャリアを築いていけるわけじゃない。リーダーに付きもののあの傷みは、もうごめんだね。ハンブル・デザインでは、そういうものと無縁でいられるんだ。
Ilyse Liffreing(原文 / 訳:SI Japan)