FUTURE OF WORK

エージェンシー 幹部が語る、これからのリーダーシップ:「2021年の復活に不可欠な要素は共感だ」

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新型コロナウイルス感染症のパンデミックが到来し、エージェンシー幹部たちはオフィスのあり方や日々の業務だけでなく、「リーダーシップ」という概念そのものを見直す必要性に迫られている。

今の時代のリーダーシップとはいったい何だろう? ポストコロナ時代のリーダーシップとは? 有名クリエイティブエージェンシーの幹部たちと話をしていると、特定の言葉が何度も出てくる。職場そのものの変化に関する言葉もあれば、コミュニケーション、柔軟性、共感など、今の時代のリーダーシップに関する言葉もある。

2020年はエージェンシーのリーダーシップが、より個人的、より同情的、より人間的になった1年だった。すべての人の生活が一変し、各社のCEOは職場環境を見直すしかなかった。

職場環境やワークライフバランス重視に

デロイト(Deloitte)は2020年12月、96カ国の企業幹部3600人を対象にした調査結果として、パンデミック前の2倍にあたる61%が職場の変革に注力していると報告した。具体的には、かつての優先事項の定番だったオートメーションの最適化などから、人材の強みを軸とした職場づくり、従業員の要求が高まっているワークライフバランスの再強化へとシフトしている。

バドワイザー(Budweiser)、リーボック(Reebok)などの顧客を持つドイチェ・ニューヨーク(Deutsch New York)は、そのために「組織的な柔軟性」を導入。個人にとっての柔軟性とは何かを経営陣と従業員が一緒に考えている。ドイチェにとって、2020年は移行の年だった。IPG傘下のエージェンシーであるドイチェは2020年10月、ロサンゼルスとニューヨークのオフィスをふたつのエージェンシーに分割した。

この大変化のなか、人を中心としたエージェンシーを維持することは容易ではない。しかし、コーヒー・クラッチ(コーヒーを飲みながらのおしゃべり)、ハドル(円陣)などと名付けられた会を毎週開催することで、人と人のつながりを最重視し続けてきた。ドイチェ・ニューヨークのCEO、バル・ディフェーボ氏もセルフケア、回復力、共感、楽観主義などをテーマに、従業員への手紙を毎週書くことにした。

現在の嵐にもまれながら、職場を「港」のように感じ始めた従業員もいる。テキサス州オースティンに本社を置くオムニコム(Omnicom)傘下のエージェンシーGSD&Mのプレジデント、マリアンヌ・マリーナ氏は「行政のさまざまなレベルから発信される混乱した、ときには矛盾した情報にさらされ」、多くの従業員は仕事を「安定した接点」と見なすようになっていると話す。

サウスウエスト航空(Southwest Airlines)、ピザハット(Pizza Hut)などの顧客を持つGSD&Mは経営陣と従業員の関係をさらに強化するため、リーダーのみに限定されていた隔週のクロストーク会議を全社員に開放した。また、現在の世界を覆う日々の苦しさから立ち直る時間を従業員に与えている。「みんなが疲れ果てている。誰もが同じ状況だ」とマリーナ氏は語る。「自分のための時間がもう少しほしいと皆が考えている。そして、その時間が創造性と力の源になる」。

課題を認めてチャンスに変える

ディズニー(Disney)、ブルーエプロン(Blue Apron)などの顧客を持つスタジアムレッド・グループ(Stadiumred Group)のプレジデント、ジェフ・ステルマック氏は「リーダーとして経験してきたなかでもっとも厳しい環境だ」と断言する。クライアントの予算削減、容赦ないコスト抑制、そして「誰も予測できないエージェンシーの未来」。このような状況では、従業員を安心させることが鍵を握る。そして、それらの課題の先にあるのは「本当の意味でチームのやる気を引き出し、創造性、差別化、大胆さを獲得するチャンスだ」。

ホセ・クエルボ(Jose Cuervo)、ペロトン(Peloton)などの顧客を持つサンフランシスコの広告エージェンシー、メカニズム(Mekanism)では、会議の数があまりにも多く、面倒なことになっているというサインをチームメンバーが発するようになった。そこで、社内会議のないディープワーク(Deep Work)という時間帯を毎日設け、絶え間なく続くZoomコールを中断し、自分の仕事に集中できるようにした。CEOのジェイソン・ハリス氏は、このような変更を実行する際は、全従業員の理解と協力を考慮に入れるべきであり、リーダーのニーズだけをくみ取ってはならないと述べている。「彼らに対して『会社のビジョンに追いつけ』と呼びかけるではなく、会社が彼らを導かなければならない」。

カーマイケル・リンチ(Carmichael Lynch)はミネアポリスに本社を置くIPG傘下のエージェンシーで、SUBARU、オープンテーブル(OpenTable)などの顧客を抱える。プレジデントのジュリー・バトライナー氏は、2020年は「気付き、共感、弱さ、思いやりを持って会社を率いる」年だったと強調し、話を聞くための時間、会議のない時間帯など、従業員に焦点を当てた仕組みを導入したと言い添えた。「かつての『普通』はもう戻ってこない。我々はそれを心から受け入れている」。

パンデミックは「変化のきっかけ」

パンデミックは2020年を決定づける唯一の特徴ではなく、エージェンシーを変えた唯一の要因でもなかった。

起亜自動車、Twitch(ツイッチ)などの顧客を持つIPG傘下のエージェンシー、エレファント(Elephant)のCEO、エリック・ムーア氏は、世界中に拡大した社会運動を挙げた。「我々の会社、業界、より広い意味では、我々の社会で、我々が望んでいた変化」のきっかけとなった。

2020年6月、黒人のエージェンシー従業員600人が公開書簡で、構造的人種差別に終止符を打つよう要求したことが業界への警鐘となった。「2020年がつらく苦しい年であったのと同じくらい、我々は明るい面も認めなければならない。また、仕事は場所ではなくマインドセットであり、創造性は物理的な場所とは無関係に繁栄できるということも認めるべきだ」。

エージェンシーのCEOたちにとって、共感は間違いなく、激動の時代の価値観となっており、これからも生き続けるものだ。「2020年、共感を欠くリーダーは苦戦した」と、ムーア氏は語る。「共感はリーダーの主要な条件としてこのままとどまり、2021年、社会的、経済的な復活に不可欠な要素となるだろう」。

[コラム:3つの質問]
回答者-アクセンチュア・インタラクティブ(Accenture Interactive)のCSO、バイジュ・シャー氏

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──業界を超えたリーダーシップの変化にはどのようなパターンが見られるか?

新しいカテゴリーのリーダーが台頭している。ワクチンの完成が間近に迫るなか、我々はパンデミックからの回復を終え、成長に移行したいと意気込む世界中の組織と話をしている。しかし、ほとんどの組織はアプローチと目的、戦略の実行方法を見直す必要があることに気付いている。理由は明確。我々がおこなうことすべての構造、会話の進め方、子供や家族の世話をする方法が様変わりしたためだ。(顧客や従業員と同様に)我々の体験すべてが再考を迫られており、それは組織やリーダーにとって脅威であると同時にチャンスでもある。ビジネスリーダーたちはこれまでと異なる思考、行動の必要性を認識している。そこで問題となるのは、どのように成長へと回帰し、今すぐ付加価値が高まる形に組織を変えていくかだ。

──組織の形を変えるためには何が必要か?

今は皆が霧のなかにいて、戦略的なコンパスがなければ抜けられない状況だ。戦略的なコンパスとは、顧客と従業員への共感だ。過去の戦略的アプローチはもう通用しない。ビジネスにおける共感というコンパスが必要であり、それが顧客体験の勝利につながる。イノベーションはトップダウンではいけないし、組織の片隅に追いやるべきでもない。あなたと私、チームと顧客によるイノベーションであり、そのためには共同制作の概念を見直さなければならない。体験というビジネスは顧客だけのものではなく、組織内にも存在する。従業員の体験も見直す必要があるためだ。

──この点でリードしているのは誰か? 抜き出ている業界はあるか?

我々がおこなってきた調査は、顧客体験のリーダーが技術、データ、人という別々の課題をひとつの課題として結び付けると示唆している。ひとつの方向性があり、そのうえでこれらの課題を結び付けることが極めて重要だ。多くの場合、それぞれの課題を組織の異なる部分が所有しており、それが混乱の原因になる。一夜にして変革を成し遂げることは不可能だが、すぐに全力を投じることは可能だ。まず経営陣が全力を投じ、組織全体に浸透させなければならない。この方針転換はCEOからサプライチェーンのリーダーまで影響する。収益の最大化から目的や体験の重視へと軸足を移すべきだ。その過程で一部の組織、一部のリーダーが台頭することになる。その顔触れは過去20~30年と同じにはならないだろう。ブランドもリーダーも自己改革を求められている。

[原文:‘Leaders who lacked empathy struggled in 2020’: Agency chiefs discuss leadership transformation

TONY CASE(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:分島 翔平)