従業員をオフィスに復帰させるにあたって、企業の幹部が考えるべきことはたくさんある。たとえば、「ハイブリッドな職場」とは具体的にどういうものなのか、従業員の予防接種に関する方針はどうすべきかといったことだ。しかし、おそらく最初に解決しなければならない問題は、「誰がこの計画全体を指揮するのか」ということだろう。
従業員をオフィスに復帰させるにあたって、企業の幹部が考えるべきことはたくさんある。たとえば、「ハイブリッドな職場」とは具体的にどういうものなのか、従業員の予防接種に関する方針はどうすべきかといったことだ。しかし、おそらく最初に解決しなければならない問題は、「誰がこの計画全体を指揮するのか」ということだろう。
オフィスの再開を指揮する担当者は、企業によってさまざまだ。CEOが陣頭指揮を執っている企業が多いものの(特に中小企業はそうだ)、人事部長や最高人材活用責任者が監督役を務めているところもある。また、比較的規模の大きい企業では、ロジスティクスを管理するためのタスクフォースを結成しているケースもある。
誰が指揮を執るにせよ、未知な部分が多いこのような大規模プロジェクトに取り組んだ経験がある企業は、ほとんどないだろう。
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全員が役割を果たすのが理想
ボストン・コンサルティング・グループ(Boston Consulting Group)でアソシエイトディレクター兼スマート環境グループ責任者を務めるクリスティ・ウルシー氏によれば、ベストなシナリオは従業員全員が何らかの役割を果たすことだと話す。たとえば、CEOがハイブリッドワークやリモートワークのルール、それにオフィス環境の変更に関する最終判断を下し、人事部が職務内容を管理する。オフィスマネージャーが物理的な面から職場環境を検討し、IT部門がテクノロジー面からこの新しい環境の実現に責任を持つといった具合だ。
「1年以上にわたって、主にリモートワークで業務を行ってきた企業にとって、元のオフィスワークに切り替えることは大がかりな作業になるだろう」と、ウルシー氏は指摘する。「これほどの規模での切り替えを余儀なくされた経験はないため、リーダーはポリシーを柔軟に変更し、テストと学習を繰り返す必要がある」。
ウルシー氏は、ほとんどの従業員がシフトチェンジに90日程度の期間を要するだろうと推測している。
デジタルマーケティングエージェンシーのウェブスペロ・ソリューションズ(WebSpero Solutions)では、CEO、人事マネージャー2名、シニアスタッフ2名の計5名で構成されたチームがオフィスへの復帰を主導していると、CEOのラフル・ビジュ氏はいう。同社は、従業員をオフィスに復帰させるために、3つのステップから成る計画を立てた。そのステップとは、まず復帰に関する意見を聞くために、従業員とコミュニケーションを取ることだ。次が、復帰への不安を和らげるメンタルヘルス関連のリソースを提供すること。そして最後が、適応するための時間を確保することだ。「従業員にとって、勤務時間の柔軟性を失うオフィスへの復帰は、若干の困難を伴うことだ。我々はオフィスのドアを再び開けているが、従業員に対しては、ゆっくりと時間をかけ、準備ができたときに復帰するよう求めている」と、ビジュ氏は語った。
復帰のアプローチはさまざま
米DIGIDAYが本記事のために複数の企業を取材したところ、各社のオフィス再開責任者が立てている計画は、従業員の安全と安心を確保するという点では共通しているが、その中身は多岐にわたっている。また、オフィスを正式に再開する時期も企業によってまちまちだ。
たとえば、Netrixでは、パンデミックがらみの規制が解除されつつあるなか、ガイドラインに従ってオフィスを再開しながら、リモートワークという柔軟な選択肢も提供する予定だと、同社でオフィス再開を指揮する企業開発担当バイスプレジデントのドン・ペンランド氏は述べている。同社の計画では、幹部は2021年5月1日から週3回オフィスに戻ること、チームごとにオフィス勤務日を設定すること(たとえば、営業部門とマーケティング部門は月曜と水曜、エンジニアリング部門は火曜と木曜に出勤するなど)、さらに全従業員にワクチン接種の「インセンティブ」を与えることなどが含まれている。
また、パンデミックのさなかに本社をまったく新しい場所に移転した企業もある。エージェンシーのマッドウェル(Madwell)はその1社だ。同社では、新オフィスを立ち上げて以来、カルチャー・アンド・ピープル(Culture and People)チームが従業員のオフィス復帰に全力を注いでいる。共同設立者でCCOのクリス・ソイカ氏によれば、このチームが衛生面や安全面の規定から定員の管理やスタッフの予防接種まで、あらゆることを監督しているという。
一方ソイカ氏は、デザインチームや同社の製作会社と直接やり取りをしながら職場環境作りを進め、CFOがプロダクションチーム、建築士、建設会社と連携して、オフィスの機能を完全に復活させるべく取り組んでいる。「オフィスに戻る計画を立てるには、スタッフ全員の力が必要だ」と、6月中旬の再開を目指しているソイカ氏は話す。「オフィスは我々にとって、常に力の源泉だった。「オフィスが再び活気を取り戻すことを楽しみにしている」。
慎重な姿勢を見せる企業も
このように、オフィスの再開に関する話題や再開スケジュールを定める企業は増えているが、その一方で慎重な姿勢を崩さない企業もある。
ボストンに本社を置き、eメールマーケティングとオートメーションサービスを手がけるクラヴィヨ(Klaviyo)では、「チームの安全を守ることを最優先にしているため、再開を急ぐことはない」と、最高人材活用責任者でオフィス復帰計画を指揮するジェニー・ディアボーン氏は述べている。同社は最近、15の質問から成るアンケートを従業員に送って意見を求めたところだ。ディアボーン氏とチームは、感染率と入院率を常に注視しているほか、ビジネスの目標、チームの効率、ロジスティクスの問題なども考慮している。「感情ではなく、データに基づいて判断するのが、我々のアプローチだ」。
SaaS企業のアイドゥー(Eyedo)も、「数カ月以内に、少なくともハイブリッドモデルでオフィスを再開する計画」だと、創業者兼CEOのロナン・イェミニ氏は話す。そのために、タスクフォースを結成して復帰計画を管理しているという。
一方、分析企業のピアノ(Piano)では、完全な再開スケジュールは決まっていないものの、すでに多くの従業員が安全な場所でハイブリッド型のスケジュールに従って働いていると、COOのクウェリ・ワシントン氏は述べている。
デジタルマーケティングプラットフォームのセンドインブルー(Sendinblue)は、世界各地に複数のオフィスを構えているため、単一のオフィス再開計画を立てるだけではうまくいかないと、CEOのステファン・シェベスタ氏はいう。ただし、北米のオフィスは「比較的はやく」再開できると同氏は見込んでいる。
「復帰計画ではすべての従業員の安全確保を第一優先としている。したがって、ゆっくりと慎重に進めていくつもりだ」。
TONY CASE(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:村上莞)
ILLUSTRATION BY IVY LIU