ニューヨークで20年以上の経験をもつベテラン広告マン、マーク・ダフィ氏(54)がつづる、辛口エッセイ。これを読めば米広告業界の裏側がよく見えてくる? 今回のテーマは「ブランデッドコンテンツ」。
ーー「コンテンツ」は、セクシーな業界用語の仲間入りを果たした。セクシーすぎて、もう何もかもが「コンテンツ」になりたがっている。ニュースも、広告も、マーケティングも、ネコさん動画も、ポルノも、インフォグラフィックも、白い紙も、ブルックリンもなどなど。
で、そもそも「ブランデッドコンテンツ」とは何なのか?
このコラムの著者、マーク・ダフィ(54)は、広告業界辛口ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人。米大手Webメディア「BuzzFeed」で広告批評コラムを担当していたが、2013年に解雇を通達された、業界通コピーライター。
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ここ数年、ニューヨークで開催される「アドバタイジングウィーク」で、「コンテンツ」という言葉がいったい何兆回、口にされ、ツイートされたことか……。正直「広告」という単語よりも使われたことだろう。米ドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』で、ケビン・スペイシー演じるアメリカの大統領も、この言葉を使ったほどだ。
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そして「コンテンツ」は、セクシーな業界用語の仲間入りを果たした。セクシーすぎて、もう何もかもが「コンテンツ」になりたがっている。ニュースも、広告も、マーケティングも、ネコさん動画も、ポルノも、インフォグラフィックも、白い紙も、ブルックリンもなどなど。
で、そもそも「ブランデッドコンテンツ」とは何なのか?
業界団体すら定義できない
まず「ブランデッドコンテンツ」という単語自体は、2001年に生まれたもののようだ。その2年後、「ブランデッドコンテンツ・マーケティング協会(Branded Content Marketing Association:BCMA)」なる組織が結成された。なぜかって? それはマーケティング業界のプロたちが、この世でもっとも好きなのは、暗いコンファレンスルームでお互いの口から放たれた言葉をホワイトボードに延々と書き続けることだからだ。
ならば、ほかでもないBCMAならブランデッドコンテンツの的確な意味を知っていると思うだろ? いやいや、残念ながらヤツらも全然わかっていない。Webサイトにはこう書いてある。
「BCMAとは、ブランデッドコンテンツが何か、何でないかを定義して、その効果をリサーチと独自のツールで測るのにもっとも適した場所である」
ああ、実に昼行灯な連中だ。「それ」が何かを定義するのに「もっとも適した場所」だと? じゃあ実際、定義しているのか? いや、してないだろ?
ウィキペディアも惨敗
お次はウィキペディア(Wikipedia)の説明を見てみよう:「広告の一種で、広告と記事の境目をあいまいにする。ブランデッドコンテンツは、いわばふたつのジャンルのフュージョンで、記事として配信することを前提に作られている」。
うん、これも間違いだ。ただ業界用語である「フュージョン」(融合)の使い方は褒めてやろう。けど、これはどっちかというと「ネイティブ広告」の定義だ。さらに言うと記事やWebサイト、印刷出版物だけがブランデッドコンテンツとは限らない。
カンヌの「エキサイティング」な定義
カンヌならうまく定義できるかもしれない。なんたってブランデッドコンテンツは、世界最大級の広告祭「カンヌライオンズ」の部門として3年前からあるからな。そしてこれがカンヌ流の定義だ:「ブランドによるオリジナルなコンテンツの創造または自然な融合」
おいおい、曖昧にもほどがあるぞ。そのカンヌライオンズで2015年6月、難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)の研究への寄付をうながす「アイスバケツチャレンジ」が金賞を受賞したが、……あれはブランデッドコンテンツだったのか? 私なら「信念の行動」とでも呼ぶのだが……。ほらっ、泥棒カンヌよ、新しい部門を作ってやったぞ。
2015年のカンヌライオンで、ブランデッドコンテンツ部門の審査員長を勤めたのは、ニューヨークの大手広告代理店BBDOのワールドワイドチーフクリエイティブオフィサーであるディビッド・ラバーズ氏だ。彼の定義はこうだ:「私にとってのブランデッドコンテンツとは商品なしでは存在できないアイデアである」
わぁお。なんて深くて、エキサイティングで意味不明なお言葉。定義にはなっていない。
「BuzzFeed」CEOもてこずる
ニュースサイト「BuzzFeed」のCEOであるジョナ・ペレッティ氏なら、すでに空で言えるほど明快な定義を持っているはずだろう。
「ブランデッドコンテンツとは『ネイティブ広告の一種で、人々がシェアするさまざまなプラットフォームのために作るコンテンツである』」だとさ。ちょっと待てよ、ブランデッドコンテンツがネイティブアドの一種だって? それは違うな。
Webサイト「コンテイジアス(Contagious)」の投稿ブログ「ブランデッドコンテンツってマジなんなの?(WTF is branded Content? It’s complicated) 」でいくつかの定義があるが、すべて間違っている。そのなかのひとつは、上に書いたBCMAの認定を受けている。
「ブランデッドコンテンツとは消費者から見て、ブランドとの関連性がわかるようなコンテンツである」。
「つまり広告だよね、オーウェルくん」
いいねぇ、消費者に責任を押し付けるとか。けっ、臆病者めが。ただ、ブランドとの関連性が微細すぎて消費者に伝わらなかった場合のことを考えたことあるかね?
ビッグフュエル(Big Fuel)の創業者アビ・サバール氏の定義は、私が見たなかで最悪だ。彼によると「商品重視」な伝統的な広告に比べ、ブランデッドコンテンツは「人重視のストーリー」らしい。完璧なほどにまで間違っている。
ここまでひとつも的確な定義がないとは……。だが心配ご無用。最後に私から唯一100%的確なブランデッドコンテンツの定義を紹介しよう。「ブランデッドコンテンツとは……つまり、広告である」。どうだね? 新語好きでジョージ・オーウェル的なおバカさんども。
Mark Duffy(原文 / 訳:柳沢大河)
Image by 上野 菜美子(Original Image from Thinkstock)