THE CONFESSIONS

「すべては利益のため」:人手不足と燃え尽きに苦しむ、あるメディアバイヤーの告白

エージェンシーの社員にとって、今年は例年以上に休暇を取得しにくい年になっている。

各エージェンシーの社員は、コロナ禍に端を発する財務面の危機に追われており、複数のポジションで社員数を減らしている。そんななかあるメディアバイヤーによると、この人物が務める大手エージェンシーでは、深刻な燃え尽き症候群に陥る社員が多くいるという。

業界人に匿名で本音を語ってもらう「告白」シリーズ。今回は、あるメディアバイヤーが抱えるストレスと、リソース調達が困難な現状、そして、この人物がエージェンシーの仕事を離れようとしている理由を訊いた。なお、以下のインタビューは内容を明瞭にするため、若干編集している。

――今年は、エージェンシー社員にとって休暇を取りにくい年になっていると聞いている

確かに、有給休暇を消化できない状態が続いている。特に今年の初旬は多忙だった。仕事は多いのに、コロナ禍に対応するためのチームすらないという具合だ。同じような状況に置かれていた人は多いだろう。そんななか休暇を取ることはできない。対応しなければならない仕事が残されているなら、誰かが対応する必要がある。

――なぜチームすらなかったのか?

パンデミック以前に入った大量の案件に対し、コロナ禍を想定した人員配置をしていなかったからだ。かつ、パンデミック直後はチームを新設することもできなかった。また、価格やリソース調達、マージン、利益といったスプレッドシート上の数字を基礎に仕事を進める、この業界の仕事の仕方にも問題がある。特に、リソース調達は広告主にとって非常に重要な要素だ。というのも、リソース、つまりコストを削減すれば、利益が増えてKPIを達成できるし、マーケターたちのボーナスも増える。スプレッドシート上でこうした調整を行うのは容易だが、そこでは社員の実質的な負担が考慮されていない。

――つまり、リソースの確保を困難にしているのは、クライアントの予算不足が要因だと?

それもあるが、問題なのは広告主の多くが費用対効果を重視し過ぎている点にある。たとえば、利益が10万ドル(約1040万円)なのに対し、チームのメンバーを100%配備するのに5万ドル(約520万円)かかるとしよう。もし広告主の調達部門が通常以上の利潤を求めている場合、100%に満たない数のメンバーで調達を済ませて、利益率を高めようとする。そうすると、5人でやる仕事を2人か3人でやることになる。仕事はそれでもできるが、3人のメンバーで5人分の仕事をしていることは考慮されない。場合によっては、1人で5人分の仕事をすることすらある。すべては、広告主の利益のために行われていることだ。

――個人の体験としてはどうか?

燃え尽きた感がある。精神面への影響のせいで、業務にも支障が出ているほどだ。私も人間なので仕方がない。

――コスト管理が厳しくなって久しいですが、このトレンドはコロナ禍によってさらに加速したか?

間違いなく加速した。利益が出た企業、損失が生じた企業双方あるだろうが、いずれにせよ我々はビジネスを継続していかねばならない。その際、厳しい状況のなか利益を担保するために、一番簡単かつインパクトが大きい手段が人件費の調整だ。これは、企業にとってもっとも大きなコストのひとつでもある。今年は昇給も昇進もなく、がっかりした人は多いだろう。これは業界を問わず、あらゆる企業で共通していることだと思う。特にエージェンシー業界は、すべてがリソース調達からスタートするため、その影響は極めて大きい。

――御社では今年、休暇の少ない社員に対してボーナスや昇給はあるのか?

ない。ただし例外として、若い社員に関しては何らかの対応が実施されているようだ。というのも、彼らの人件費は低い。10万ドル(約1040万円)からの昇給と、2万ドル(約210万円)からの昇給では、後者のほうが安上がりになる。それだけのことだ。

――休暇が取得できないことで、仕事のパフォーマンスに影響はあるか?

仕事の質は完全に低下している。いまは仕事を「やらされてる感」が強い。エージェンシーに勤める誰もが、そのように感じているのではないか。ファーストフードの厨房でアルバイトをしているのと変わらない。求められているものを届けて、それで終わり。5人必要な仕事をひとりだけでやらされれば、どれほど優秀な人でもいずれ仕事の質は低下する。

――仕事に与える影響について、もしできるなら、広告主の調達部門に何を伝えたい?

何もいうことはない。彼らには年末にボーナスが支給されるが、私にはボーナスはない。他人の給与についてあれこれいってもどうしようもない。スプレッドシートでは分からない要素は非常に多いが、クライアントはそんなことは気にしていないだろう。同情はしてくれるかもしれないが、本当の意味で理解してもらうことは不可能だ。むしろ、自分たちがエージェンシーという立場にないことを、喜ぶかもしれない。嫌な話だが、それが彼らのスタンスだろう。

――ただ、もし本当にクライアントの調達部門が心配していたとしたら、何を伝えたいか?

いまのような状況で、優れたパフォーマンスを維持するのは不可能だ。いずれすべて破たんする。物事には投資すべき最適なコスト金額があり、それだけの理由もある。エージェンシーや価値あるメディアに対し、見合った支払いを行わなければ、価格に関する議論や価格競争が激化していくだろう。価格を第一に考えてしまうと、質は疎かになる。そして携わる人の精神的な健康やボーナス、キャリアといった要素も考慮されなくなるだろう。なぜなら広告主はそうした要素は自分たちに関係がないと考えているからだ。

――今後、改善が見られなければ、エージェンシーの職を離れることもありえる?

給与や労働時間、ストレスといった面で、メディア企業や広告主サイドがより良い条件を提示してくれる場合は実際多い。周りでも、エージェンシーを離れるケースが続出している。これは、エージェンシーの仕事に付加をかけている、リソース調達に端を発する現象だ。エージェンシーの経営幹部は、いかに人材が重要かを話す。しかし本当にそう考えるのであれば、なぜ毎日のように転職する社員が出ているのだろうか?

――実際に転職するつもりは?

その可能性はある。エージェンシーはビジネスモデルを改善しなければならない。いまのビジネスモデルは、根本的にコモディティ化している。それが自分たちを蝕んでおり、かつ状況は年を経るごとに悪化している。エージェンシーで専門的な役割を担う人材の質は劣化する一方だ。優秀な人材はすぐに、ほかの業界に行けば好条件の待遇が得られることに気付く。単純に報酬とのトレードオフというだけだ。私はエージェンシーの仕事が好きだ。仕事のバリエーションが豊富で、退屈しない。仕事は単調ではなく、常に新鮮で、技術面でも大きく進歩した。しかし、それでも限度がある。

――あなたはなぜエージェンシーにとどまっているのか?

私がいまもエージェンシーで働いているのは、コロナ禍で転職の機会が限られているからだ。多くの企業が財政的に厳しい状況にあるなか、どこの企業のCFOも、資金を使いたがらない。収益や利益率が予測できないし、それ以外の要素も予測するのは難しいからだろう。しかし、コスト削減は簡単に実施できる。

[原文:‘It’s all in the name of profit’ Confessions of a media buyer on short-staffed burnout during the pandemic

KRISTINA MONLLOS(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)