FUTURE OF WORK

ハイブリッド勤務では、職場での「雑談」効果が失われる?:「それは基本的な生存本能だ」

DIGIDAY無料メルマガに登録しませんか?

平日朝9時にマーケティング業界の最新情報をお届けします。利用規約を確認


世間話、冗談や軽口、あるいは社内の噂(うわさ)話。なんと呼ぶかは別として、こうした仕事の合間に交わされるちょっとした会話が、ハイブリッドな勤務形態では失われるおそれがある。

ボストンにあるノースイースタン大学の教授で、『Gossip: The Inside Scoop』を著したジャック・レヴィン氏によると、職場での雑談には、物事を良い方向に進める力があるという。社会的なつながりや、仕事上の人脈を作る糧となり、生産性の向上にも貢献するようだ。

しかし、職場のメンタルヘルスを専門とする公認心理師のジャン・スミス博士は、世間話は、新しい働き方が広まるなかで、消失するおそれのある社会的技能だと指摘する。また同氏は、世間話は同僚への関心を示し、職場での人間関係を築くのに必要なスキルであり、失われてはならない重要なものだと訴える。

「それは会話に生じる沈黙を埋め、我々を結びつけてくれる」とスミス氏は話す。「世間話や雑談は、コーヒーを淹れるとき、あるいはプリンタの出力を待つ合間などに、ごく自然に交わされるものだ」。

世間話がもたらす効用

実際に多くの人は、職場での無邪気な噂話が嫌いではない。たとえば、誰と誰が付き合っているか、どこそこでクリスマスパーティが開かれるとか、誰それが会社を辞めるらしいが聞いているかといった話がそうだ。

もちろん、悪意のない世間話と悪趣味な噂話のあいだには明確な違いがあり、ふたつを分ける一線をときに越えてしまうこともある。ネガティブなゴシップは、社内や部内に分裂を生み、職場文化を毀損する。

ただ、英国の人材斡旋会社、アンビションズパーソネル(Ambitions Personnel)で、マネジングディレクターを務めるマンディ・ワトソン氏によると、従業員同士の打ち解けたおしゃべりには、彼らの幸福感、健康、働く意欲や帰属意識を高める働きがあるという。

「雇用主は、このような効果を過小評価すべきでない」とワトソン氏は話す。「会社の損益に直接的な影響はないかもしれないが、間接的な影響は確かにある。また、採用以来ずっと在宅勤務が続き、同僚との交流がない新入社員を、職場環境に迎え入れる良い手がかりともなる」。

バーチャルの限界

では、バーチャルで代替すれば良いのではないか? こう考える人は少なくないだろうが、そう簡単ではなさそうだ。

しかし、新型コロナウイルス禍の勃発により世界中でリモートワークが進むと、テクノロジーの扱いをめぐる不手際で、他人に聞かれたくないオフィスの噂話をさらしてしまうなどの失敗談が続出した。

キャリアコーチのルーシー・フリーマン氏によると、コロナ禍によって、本来対面で行われるカジュアルな交流が失われた。当初その穴を埋めたのは、ZoomやTeamsで交わされる、ぎこちなく注意散漫な会話だった。ミュートでないのにミュートだと思い込んで発言する人もあとを絶たなかった。

「当初、この状況は社内で大きな疑心暗鬼を生じさせ、私は人々を安心させるために多くの時間を費やすことになった」と、フリーマン氏は振り返る。「顔の表情ひとつの変化でも誤解を生んでしまう、そんな状況だ。ZoomやTeamsで行われる強制的なコミュニケーションでは、誰もが他人の言動をいちいち気にして不安を募らせる。対面の会議であれば、気になる相手に視線を向けると、こちらを安心させるような笑顔が返された」。

フリーマン氏は、オフィスで交わされていた従来の世間話や噂話が、バーチャルでうまくいくとは考えていない。

「Zoom飲みは、どうしても愚痴大会に陥りがちだ。緊張をほぐしたり、経験を語り合うという目的には適うだろうが、エレベーターのなかで偶然に交わされる世間話のように、自然発生的なものではない。世間話や噂話は、異質な人々の集団で人と人とをつなぐ絆の役割を果たす」。

基本的な生存本能

我々の脳は、生まれつき他者とのつながりを求めるようにできている。『Rise Together: A leader’s guide to the science behind creating innovative, engaged and resilient employees(経営者が知るべき、革新的かつ献身的で、メンタルの強い従業員を育てるための科学)』の著者、サム・メイザー博士は、「物理的であれバーチャルであれ、オフィスに居れば、人は世間話をするものだ」と述べている。

「それは基本的な生存本能だ」とメイザー氏は話す。「人は、仲間はずれにされている、あるいは嫌われていると思いたがらない。仲間はずれにされている、あるいは嫌われていると感じると、脳は自分の安全が脅かされていると判断し、ストレス反応を引き起こす。それは、悲しみ、怒り、妬みなどの感情として表出する。世間話にしろ噂話にしろ、自分自身もそこに加わっている限り、不安やストレスは感じない。もちろん、自分が噂話の的にされれば、精神衛生上、よくない影響があるかもしれない」。

しかしバーチャルな世界では、悪意のない雑談や噂話が、労働者と雇用主のあいだに要らぬトラブルを生じさせることもある。

たとえ何気ない世間話だとしても、それが新製品やリストラの計画、顧客情報などの事業情報を含むものであれば、関わった労働者は、機密保持法やデータ保護法の違反を問われる可能性がある。さらに、人種、宗教、性別、年齢など、個人の特徴に関する話であれば、差別的な扱いと判断されるおそれもあるのだ。

「発言内容は記録に残る」

「在宅と出勤からなるハイブリッドな勤務形態が普及するに伴い、世間話や雑談は、オフィス内での井戸端会議から、Teams、WhatsAppなど、社内のコミュニケーションシステムを通じてのメッセージ交換へと姿を変えた」。ロンドンのロイズ・ウィジー・キング(Royds Withy King)法律事務所のパートナー弁護士であるケイト・ベネファー氏はそう語る。「このようなテクノロジーを活用すれば、発言内容は記録に残る。記録があれば、捨て置けない噂話を耳にした雇用主が、特定の社員を懲戒処分に処するのも容易だろう」。

[原文:‘It’s a basic survival instinct’: Office gossip is vital for relationship building, but could be hindered in hybrid working setups, say experts

STEVE HEMSLEY(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)