最近、広告代理店部門の成長が著しいPwCは、そもそも経営コンサルティングが主な業務だ。しかし2014年、デジタルサービスと呼ばれる広告代理店部門だけで、7億5000万ドル(約923億円)もの収益をあげた。いまやアメリカ国内で、4番目に大きい広告代理店になったという。
PwCのデジタルサービス部門には、3000人を超えるクリエイターとデジタルエキスパートが在籍。彼らは、プロトタイプやデザイン、その他のクリエイティブを作成するうえで必要となる、物理実験室を備えた「エクスペリエンス・センター」で働いている。このような社員たちは、31もの都市に分散する、200以上のクライアントを抱えているという。
調査企業ピボータル社(Pivotal)のアナリストであるブライアン・ウィーザー氏は、デロイトやPwC、超巨大コンサル企業のKPMGやアクセンチュアをエージェンシーサービスの「眠れる巨人」と揶揄する。また、これらの企業に「クリエイティブな仕事が出来るわけがない」と皮肉をいうものたちに対して、「この世界における役割を間違えている」と話す。
最近、とある保険企業が、1万6000人の顧客のために保険手続きを合理化するべく、広告代理店を訪れた。プロジェクトを率いる役員たちの話によると、今回のプロジェクトは、高度な技術と多くの人員を要する難しいものだという。
その依頼を受けた広告代理店。プロジェクトに貢献できそうな750人ものスペシャリストを、ちょうどスタッフとして雇い入れたばかりだった。
これが、最近、広告代理店部門の成長が著しいPwC(PricewaterhouseCoopers)の競争優位性だ。そもそもPwCの主な業務は、経営コンサルティングであるが、2014年、同社はデジタルサービスと呼ばれる広告代理店部門だけで、7億5000万ドル(約923億円)もの収益をあげた。
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「Advertising Age」の調査データによると、アメリカ国内では、オムニコムグループのようなホールディングを除くと、単体で4番目に大きい広告代理店になったという。伝統ある広告代理店が立ち並ぶマディソン街とPwCが競い合える要因は、企業規模の大きさだ。
社員規模の大きさで得られるメリット
PwCのデジタルサービス部門には、3000人を超えるクリエイターとデジタルエキスパートが在籍していて、プロトタイプやデザイン、その他のクリエイティブを作成するうえで必要となる、物理実験室を備えた「エクスペリエンス・センター」で働いている。このような社員たちは、31もの都市に分散する、200以上のクライアントを抱えているという。
2013年にPwCに買収され、いまは広告代理店部門の主席エクスペリエンス役員に就任している、元代理店BGTの経営者、デイビッド・クラーク氏は、規模の大きさが及ぼす違いについてこう話す。「小さな広告代理店を経営していたとき、『200人規模なんて、たいしたことではないよ』とよく言っていた。しかしいま、数千人規模の従業員を束ねることになって、その違いがはっきりと分かる。何か問題が発生すると、すぐにヘルスケアやイノベーションなど、さまざまな専門家を呼び集められるからだ。PwCだからこそもてるこの馬力が大好きだ」。
PwCの広告代理店部門も従来通り、クライアントへのピッチを行う。しかし、多くのクライアントは、親会社であるPwCのコンサルティング部門とも取引をしている。だから、クライアントとのやり取りは包括的に行えると、クラーク氏は話す。広告代理店部門は、パフォーマンスごとの請求や、その他のオプションも提供できるのだ。
「買収」で成長するコンサル企業
2014年に正式にローンチされた、PwCの広告代理店部門。この業界では当たり前となった「買収」という方法で、新しく組み込まれた。従来の広告代理店と競うためにも、経営コンサルティング事業を行う企業において、ビジネスを成長させる「買収」はトレンドとなっている。アクセンチュアとマッキンゼーも社内に広告代理店部門を組織。そのなかでも、デロイトは6000人のスタッフを雇用し、15億ドルのビジネスを取り回す。
従来の広告代理店たちは焦りを感じ始めているという。持株会社のCEOたちが、競争の激化に気づき始めたのだ。
アナリストたちは、この買収トレンドを賢い投資だと見ている。調査企業ピボータル社(Pivotal)のアナリストであるブライアン・ウィーザー氏は、デロイトやPwC、超巨大コンサル企業のKPMGやアクセンチュアをエージェンシーサービスの「眠れる巨人」と揶揄する。また、これらの企業に「クリエイティブな仕事が出来るわけがない」と皮肉をいうものたちに対して、「この世界における役割を間違えている」と話す。
業界を飛び越えた人材にリーチ
PwCでは最近、「インパルス(Impulse)」というApple Watchのアプリをローンチした。とある小売業の顧客のために、研究所で開発したものだ。このアプリは、顧客がどの商品に興奮するかを知るために心拍数を計測するものであり、小売業者はこれを通してマーケティングのターゲットを絞り込むことができる。
また、医療業界のクライアントには「ソムニ(Somni)」というアプリを開発。PwCの戦略担当者やクリエイター、デザイナーが一丸となって、医療業界の生理学者、生物学者、データサイエンティストたちとともに、アプリのユーザーがより深く自らの睡眠についての情報を得られるようにした。
人材コンサルタントたちも注目をしはじめている。このような巨大コンサル企業は、クライアントのための貴重な代理店候補となっているからだ。いまやクライアントのほうが、PwCのような大型代理店がどんなサービスを提供してくれるのか、興味を示しているという。
クラーク氏は、買収を繰り返し、1つの大きな広告代理店という組織で働くとき、ビジネスパートナーとのミーティングで面白い出来事が起こるという。「我々、代理店が長髪でタトゥーの入っているスタッフをビジネスミーティングに連れていくと、ビジネスパートナーである相手はハーバード大学で修士号を取得し、ボタン付きのシャツを着ていたりする。部屋のなかは渾然一体となる」。
同氏は続けて、「しかしこれが我々のスタイルだ。右脳タイプの人も、左脳タイプの人とも一緒に働くことで、相乗効果を発揮しているのだよ」と、新星の大型広告代理店としての今後のさらなる成長に期待をしているようだ。
※公開後に一部記事を修正しています。
Shareen Pathak(原文 / 訳:小嶋太一郎)
Homepage image: the Impulse app courtesy PwC