総合コンサルティング企業アクセンチュア(Accenture)内のエージェンシー部門、アクセンチュア・インタラクティブ(Accenture Interactive、以下AI)が、エージェンシーの買収とオフィス開設で急成長している。その背景をCEOのブライアン・ホイップル氏および、競合各社への取材から探る。
エージェンシーは警戒せよ。コンサルティング会社が市場に食い込んでいる。
総合コンサルティング企業アクセンチュア(Accenture)内のエージェンシー部門、アクセンチュア・インタラクティブ(Accenture Interactive、以下AI)が、エージェンシーの買収とオフィス開設で急成長している。2016年には2桁の成長率を達成。世界に1万3000人超の従業員を擁し、人材とオフィス拠点の両面を拡充した。AIによると、世界での合計売上は30億ドル(約3400億円)を超え、アクセンチュア内でもっとも急成長している部門だという。AIのクライアントの過半数は、親会社であるアクセンチュアのクライアントでもある。
「ずっと異常な勢いだった」と、AIのCEOを務めるブライアン・ホイップル氏は振り返る。同氏はかつて、エージェンシーのヒル・ホリデイ(Hill Holliday)やRAPPに在籍していた。
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アクセンチュアの巨大な輪
AIは2016年11月、ニールセン調べで英国内エージェンシー取扱高第3位のカーマラマ(Karmarama)を買収。2017年2月には、ドイツのデジタルエージェンシー、ジナーシュラーダー(SinnerSchrader)を買収すると発表した。過去2年に範囲を広げると、日本のアイ・エム・ジェイ(IMJ)、ブラジルのADディアレト(AD.Dialeto)、オーストラリアのリアクティブ(Reactive)、米テックスタジオのケイオティック・ムーン(Chaotic Moon)などを買いあさってきた。
これらはいずれも、小さな買収なのは確かだ。とはいえ、調査会社ピボータル(Pivotal)のアナリスト、ブライアン・ウィーザー氏は2012年の調査メモで、コンサルティング会社がエージェンシーサービスの構築に着手していることを指摘し、エージェンシーに注意を促していた。当時は、マイクロソフトなどの企業がクライアントへの直接サービスをはじめたころで、エージェンシーはそうした企業への対抗策を強化していた。しかし、ウィーザー氏は、アクセンチュアのようなコンサルティング会社が、キャンペーンを実行するプラットフォームサービスを実際に提供するようになっていると書いたのだ。
そうして、アクセンチュアはいまや、クリエイティブと戦略の機能も追加し、コンサルから広告までグループ内で担う巨大な輪を完成させた。
エージェンシーである理由
すでに強力なメディア監査部門を擁するアクセンチュアにとって、これまで築いてきたマーケティング業界や最高マーケティング責任者(CMO)たちとの関係は、広告分野で役立ってきた。これは、2015年や2016年に同じく盛んに買収を実施したIBMインタラクティブ・エクスペリエンス(IBMInteractive Experience、以下IBM iX)やデロイト・デジタル(Deloitte Digital)といった巨大エージェンシーサービスに対する、アクセンチュアの強みだった。これは事実であり、親会社のアクセンチュアが良好な関係を築いていたCIO(最高情報責任者)からCMOへとメディア予算の裁量が移るなか、AIにとっても成長のチャンスになってきた。
アクセンチュアとは逆に、エージェンシーのアイリス・ワールドワイド(Iris Worldwide)はコンサルティング企業コンサイス(Concise)を買収し、コンサル部門のアイリス・コンサイス(Iris Concise)として編成した。アイリス・コンサイスでマネージングディレクターを務めるアダム・エイブラハミ氏は、こうした動きを大きなトレンドととらえている。コンサルティング会社の取り組みは、垂直統合を通じて、従来のCIOとの関係をさらに発展させることを目指すものだというのだ。
しかし、状況は変わってきている。「CMOたちはエージェンシーから広告枠を買うことに慣れている」と、ホイップル氏は指摘する。それこそが、AIがエージェンシーである理由なのだ。「我々は、コンサルティング企業のようには見えない。いかにもエージェンシー風で、バリスタがコーヒーを淹れるカフェに、スタジオを備える」とホイップル氏。「我々のエージェンシー文化は、アクセンチュアの顧客基盤に恵まれている。そのおかげで、CMOたちに歓迎してもらえるのだ」。
成長してるのは間違いない
ウィーザー氏によると、実際に疑問なのは、コンサルティング会社がこれまであまり積極的になっていない理由だという。現在、エージェンシーの大半が4大持株会社のいずれかの傘下にあるため、買収できるエージェンシーはほとんど残っていない。理由のひとつは実務的なものかもしれないと、ウィーザー氏は推測する。「多くはまだ、これほどの大金を支出できるかどうかに関して、社内でビジネスケースを確立できていないのではないか」。
しかし、ホイップル氏にとって、このペースは遅くない。むしろ驚異的だ。AIは3年間で10件の買収を実施し、買う対象を戦略的に決めてきたという。たとえば、顧客体験が成長の機会になると認識して、フィヨルド・インタラクティブ(Fjord Interactive)を買収し、現在AIの有数の部門になっている。一方で、AIはプログラマティックバイイングのプラットフォームのようなものには手を出さず、ほかのテック企業との提携にとどめている。
アクセンチュアが成長しているのは間違いない。アドエイジ(AdAge)がまとめるエージェンシー年次レポートの2016年版によると、世界の15大デジタルエージェンシーネットワークのなかでAIが1位だった。アクセンチュアはまた、「フォーチュン500」企業で上位100社のうち70社に、AIを通じてサービスを提供しているという。
各競合たちの反応
長い間「眠れる巨人」と言われてきたコンサルティング会社だが、エージェンシーはその潜在的な脅威の可能性を認識しつつある。持株会社の幹部たちにもその動きはあり、IPGのCEO、マイケル・ロス氏はこのライバルを何度も認めている。その一方で、ハバス(Havas)のヤニック・ボロレ氏のように完全に無視している幹部もいる。ボロレ氏は、ハバスの先の収支報告の席で、こうした会社は実際には大きな脅威ではないと述べた。
米DIGIDAYがエージェンシー幹部の匿名の「告白」インタビューで報じたように、コンサルティング会社と大手エージェンシーが現場で衝突している。この幹部は、コンサルティング会社が低い利幅でサービスを提供していると考えていた(おそらく、それができる資金的な余裕があるからだ)。
「我々は、広告持株会社との比較をしていない」と、ホイップル氏は利幅について語る。「似た部分が多いのかもどうかはわからない。それは我々のやり方ではない。利幅は我々がクライアントに創出する価値で決まってくるもので、当社はある意味、独特のビジネスモデルに恵まれている」。
SHAREEN PATHAK(原文 / 訳:ガリレオ)
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