マーケター勢がかつてないほどゲーミングに関心を寄せている一方、ブランド勢による同セクターへの投資は、一部の観測筋が2020年と2021年に予想したほど速くは伸びていない。コロナ禍がもたらしたここ数年の急成長期間中に、各々 […]
マーケター勢がかつてないほどゲーミングに関心を寄せている一方、ブランド勢による同セクターへの投資は、一部の観測筋が2020年と2021年に予想したほど速くは伸びていない。コロナ禍がもたらしたここ数年の急成長期間中に、各々のゲーミング専門グループを派生させた大手エージェンシー会社らにとって、2023年はいまのところ、引き続き積極的活動の年となっている。とはいえ、期待値を下げた年でもある。
コロナ禍はゲームおよびゲーミングコンテンツに対する関心の劇的急増を生み、多くのブランドにゲーミングオーディエンスを対象とするマーケティングへの再投資を促した。
2020年から2022年にかけて、大手エージェンシーのいわゆる「ビッグ6」の内、4社が独自のゲーミンググループ――電通ゲーミング(Dentsu Gaming)、ピュブリシス・プレイ(Publicis Play)、ハバス・プレイ(Havas Play)、オムニコム(Omnicom)のレベルアップOAC(LevelUp OAC)――を立ち上げている。米DIGIDAYはこのたび、電通、マーケティングアーム(The Marketing Arm)、ウェーブメーカーUS(Wavemaker US)、スパークファウンドリー(Spark Foundry)というエージェンシー4社に取材し、各ゲーミンググループの2023年度業績を訊ねた。
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業界の成長とマーケティング投資のズレ
総じて、ゲーミング界に関わる大手エージェンシーの代表らは――あくまで、取材に応じた人々の話によれば、だが――2023年は好調だと、米DIGIDAYに語った。景気後退が間近との予測もあるなか、多くのブランドは同セクターへの投資を依然増やしているという。
「大まかに言って、2022年の売上高は2021年に対して200%以上の伸びを記録し、2023年はその2022年の数字をすでに超えている」と、スパークファウンドリーのマネージングパートナーでピュブリシス・プレイのトップであるサイモン・ジョーンズ氏は話す。ただし、具体的な数字は明かされなかった。また、同氏は「著しく伸びたのはゲーミングを受け入れるクライアントの数だ。大半は一度試したら、確実に戻ってくる」と語る。なお、同氏は具体的なブランド名を明示せず、それが新規顧客かリピート顧客なのかの特定も避けた。
実際、こうした前向きな発言が目立つ一方、米DIGIDAYが今回訊ねた大半のエージェンシーは、これが広く業界全体のトレンドであることを示唆する具体的な名前/数字の明示を避け、具体的な顧客名も、各ゲーミング部門の成長意欲を示す雇用判断についても、言及しなかった。
電通はたしかに、社内ゲーミングチームの拡大を明らかにし、ピュブリシスは上記のように収益増に関する数字を共有してくれた。だが、ほかのエージェンシーらは「ブランド勢はいまだ同分野に関心を寄せている」との点を強調するだけで、好調だという戦績の詳細を明かすこともなければ、注目すべき雇用について話すこともなかった。一部の大手エージェンシーの専門家は、ブランド勢によるゲーミングへのマーケティング投資は、同チャネルに存在する機会と同様の速度では成長していないと確信している。
「ゲーミングへのマーケティング投資は、コロナ渦中のそれと、さらには2022年と比べても伸びに勢いがない」と、オムニコムのレベルアップOACに参加するエージェンシー、マーケティングアームのゲーミング部門トップであるサミ・バーネット氏は話す。「私が思うにこれは、コロナ禍前の生活の復活と、現在の経済的負担によるものだ。とはいえ、ゲーミングは今後もブランドのマーケティングの重要なパイであり続けるだろう」。
ノンエンデミックブランド勢が参入
実際、2022年を通じて、インビザライン(Invisalign)やティンバーランド(Timberland)といったノンエンデミックブランド勢が、とりわけロブロックス(Roblox)やフォートナイト(Fortnite)といった没入型プラットフォームを通じて、ゲーミング界に参入している。
大手エージェンシーが小規模の、しかもときにはゲーミング界を主戦場とする、よりフットワークの軽いエンデミックエージェンシーと競わねばならないのは、明らかなマイナス面だ。だが、大手エージェンシーの傘下における他社との提携は、エンデミックな競合他社との戦いにおいて力になっている。
「WPPの一部になることで、パートナー企業への扉が開き、そのアクセスを得たことで、ほかではまずありえないレベルでのクライアントのためのプログラムおよび実行の可能性の扉が開く」と、ウェーブメーカーUSのゲーミングおよびeスポーツ部門ディレクターであるピート・バジェン氏は話す。「ウェーブメーカーがたとえば、エピックゲームズ(Epic Games)の投資者兼パートナーになることは、ほとんど意味を成さない。しかし、WPPがそうすることには大いに意味がある」。
ゲーミング業界へ積極投資の電通
予想を下回る成長速度は必ずしも、悲観的未来図の予兆ではない。事実、前述の大手エージェンシーらは社内ゲーミング部門の人員を徐々に増強し続けている。なかでも電通の動きは顕著で、2022年12月にゲーミング部門トップの座にブレント・コーニング氏を据えた。コーニング氏に加え、電通はゲーム専門のスペシャリストを15人雇用するなど、この2年で500人を超える人々の手にゲーミング事業を委ねており、その結果、同社のゲーミング事業の中核チームの人員は倍増した。
同社はさらに、ゲーミングに精通する幹部も採用している。ゲーミングプロダクツ部門トップのダン・ホーランド氏や、ストラテジー部門グローバルVPのマガリ・ヒュオット氏はその好例であり、電通によれば、大口顧客の内6社を担当するゲーム専任スペシャリストを保持しているという。同社はこのゲーミング専門知識を活用してZ世代へのリーチに努めており、たとえば最近も、ロブロックスのパートナープログラム(Partner Program)の創立メンバーになった。
「クライアントは長期的利益への関心が高く、それがおそらくゲーミングテクノロジーの一部がマーケティングミックスのなかで、然るべき地位を得るのにしばらくの時間を要している理由だろう」と、ヒュオット氏は話す。
電通の専門家らにとってはしかし、この2年程のあいだに起きたブランド勢によるゲーミングマーケティングの関心の高まりは、この先訪れる大きなビジネスチャンスの、いわば味見程度でしかない。同セクターにおいて、大手エージェンシーのなかでも屈指の積極性を見せている同社でさえ、ブランド勢によるゲーミングへの投資は、ゲーミングに対して日々高まり続ける注目/エンゲージメントの量とまるで釣り合っていないと、確信している。
急成長の一歩手前
「ゲーミングに投じられる広告費と、同セクターに注がれる時間および注目とのあいだには大きな乖離(かいり)がある」と、ホーランド氏は断言する。事実、米成人の大半がゲームをしている一方、ゲーミングが占める広告費の割合はわずか5%未満であると、米インタラクティブ広告協議会(IAB)は今年前半に報告している。
2023年度下半期を見据え、大手エージェンシー「ビッグ6」のゲーミング部門幹部らは、ゲーミング界で使用可能な別のマーケティングオプションや広告フォーマットに関するクライアントへの教育にフォーカスするとともに、さらに詳細な効果測定数値やそのほかデータを提供し、ブランド勢がゲーミング界でより安心して活動できるようにしたいと考えている。
「ブランド側のマーケターの大半は、ビデオゲームが重要だということは理解しているが、誰もが脳内スイッチをさっと切り替え、たとえば『来年度の予算作成時に、その多くをゲームに投入する必要がある』とは考えられてない」とバジェン氏は話す。「しかし、我々は必ずそこに到達する。いや、いままさに到達しようとしているのだ」。
[原文:In the agency world, holding companies profess gaming investments, with mixed results]
Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)