[ DIGIDAY+ 限定記事 ]去る2月20日・22日、エージェンシー幹部がテネシー州ナッシュビルで開催された「DIGIDAYメディアバイイング・サミット(Digiday Media Buying Summit)」集まり、エージェンシー業界の問題について議論を交わした。以下、その要点を共有する。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]エージェンシーが厳しい時代を迎えている。
彼らはいま、ビジネスモデルが抱えるさまざまな課題や、コンサル企業など新たな競合への対応に追われている。またクライアントも、マーケティング機能のインハウス化を推し進めつつある。それだけではない。エージェンシー各社のスタッフによれば、過労と薄給の二重苦はますます深刻化しており、彼らの多くはクライアントやコンサル企業、テクノロジー企業の代わりとなる役割を探しているという。
去る2月20日・22日、エージェンシー幹部がテネシー州ナッシュビルで開催された「DIGIDAYメディアバイイング・サミット(Digiday Media Buying Summit)」集まり、こうした問題について議論を交わした。以下、その要点を共有する。
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「インハウス」に見る明るい兆し
エージェンシーが好むと好まざるにかかわらず、「インハウス」ブームは本物だ。クライアントの大半がメディアプランニングやバイイングなどの機能を自社でうまく持続的に遂行できるかどうかは、いまのところまだわからない。だが、イベント出席者たちは、できるかどうかはともかくとして、業務のインハウス化を試みるクライアントは今後も増える一方だろうという見方を一様に示した。しかし、だからといって、エージェンシーにとってインハウスブームは悪夢にほかならないというわけではない。それに逆らうのではなく、このシフトを逆に利用し、アプローチを順応させることで、新たなチャンスやクライアントのニーズから利益をあげることに一定の成功を収めていると、出席者の多くはいう。
- その最たる例が、クライアントのインハウス化の取り組みに力を貸すエージェンシーだ。「エージェンシーとして我々は、インハウス化に取り組むクライアントに知恵を貸して報酬をもらうというプログラムに着手しつつある」と、ある出席者はタウンホールセッションで語った。このモデルをスケール化することはなかなか難しいかもしれないが、これによってエージェンシーは、いずれにせよ必然的に、進化し続けるクライアントとの関係を維持できることだけはたしかだ。クライアントに提供する価値に自信を持っているエージェンシーなら、こうした短期的なアレンジメントも苦にはならないはずだと、ある出席者はいう。必ずやのちのち、これが利益をもたらすからだ。
- エージェンシーは以前から、メディアバイイングなどのオートメーション化が進むタスクを単に遂行するのではなく、コンサルタイプのサービスを提供する事業へシフトすることを話題にしてきた。しかし、インハウス化への関心の高まりにより、彼らはこれを単に話題にするだけではなく、実際に行動に踏み切らざるを得なくなるかもしれない。そしてこれが、彼らに利益をもたらすことになるかもしれない。ビジネスモデルを変えるのは簡単ではない。しかし、トップに立つのは変化に順応できる企業なのだ。
- リアリティーチェック:理論上、インハウスは理に適っている。しかし複数のエージェンシー関係者が、メディアプランニングやバイイングなどの機能を自社で担うクライアントが、数カ月後には結局、Uターンするという状況について語った。あるエージェンシー幹部は「その結果としてクライアントとのビジネスを拡大してくれるチャンス」と、インハウスブームを形容した。同氏によれば、あるクライアントはメディアバイイングをインハウス化したものの、エージェンシーが実際に何をしているのかをほとんどわかっていなかったことを認識する結果に終わったという。そのクライアントはすぐさま同エージェンシーに協力を再び求め、これまで以上に多くの仕事を同エージェンシーにまかせるようになった。
ポイント:インハウス化はエージェンシーの終わりを意味するわけではなく、別の業務形態への移行を意味する。エージェンシーはクライアントに対する自社の位置づけに留意すべきだ。
ブランドセーフティに現実的になるべきときがきている
サミットの期間中、「ブランドセーフティ」が繰り返し話題にのぼった。ちょうど初日に、コメント欄をめぐる、YouTubeのまた新たな危機のニュースが報じられたことがその一因だ。出席者たちは、クライアントは自社広告を取り巻くコンテンツをますます気にかけるようになっており、自社ブランドが新聞各紙の見出しを飾らないようにすることにも気を使うようになっていることを認めた。が、その一方で、その大半はクライアントに対して、もっと分別のある期待も求めた。たしかに、ネットワーク内のコンテンツの質を維持するために、プラットフォームにできることはもっとある。だが、完全な安全性を保証することなど不可能なのもたしかだ。実際のところ、マーケターはこの現実を受け入れなければならない。
- 「ブランドセーフティの保証などというものはない。そんなものは存在しないのだ」と語るのは、グループ・エム(GroupM)でブランドセーフティチーフを務めるジョー・バロン氏。同氏は、ほかの幹部たちが今回のイベントを通して露呈した心情に同調し、WPPのアプローチを概説した。「Googleが悪いわけではない。我々は臨機応変に事態に対処し、100%の確信など持てないということを受け入れなければならない」と、エッセンスノースアメリカ(Essence North America)の最高経営責任者であるスティーブ・ウィリアムス氏は述べた(ただしGoogleは、エッセンスの主要クライアントのなかの1社である)。
- プラットフォーム自身もすでに、完全にクリーンな環境の保証から次のステージへと進んでいる。そのような保証は技術的に不可能だからだ。バロン氏は次のように話す。「Googleから今週、電話をもらったが、最初にこんなふうに言われた。『申し訳ありません。問題のあるコンテンツを削除するためにできることはすべてやっていますが、これからもある程度は残ってしまうと思います』と」。
ブランドセーフティが問題となる度合いについて考えをめぐらせる出席者もいた。疑わしいコンテンツに広告が数回表示されるぐらいで、ブランドや企業に対する認識、ましてや最終収益に大きな影響がもたらされるということを示す証拠など、彼らはほとんど目にしたことがないという。「すべてはスクリーンショットだ」と、ある出席者は述べた。まずい出稿が、PRの潜在的な頭痛の種以上の大きなリスクになることを示唆する具体的なデータなど見たことがないと、バロン氏も語った。
- ほかの出席者によれば、「安全ではない」コンテンツをめぐる「ドラマ」の一部は徐々に消えはじめているという。不快なコンテンツに自社広告が表示されることを望む者はいない。各クライアント、ブランドごとに受け入れられるリスク特性を見つけることがますます重要になっていると、彼らは述べた。それがどんなスキャンダルであれ、そのなかで毎週、数えきれないほどのブランドが話題にされる昨今、一部の否定的な報道がもたらすダメージは、どのみち徐々に薄れていくのかもしれない。したがって本当のコストは、影響を受けているか否か、予防対策は計画どおりにうまくいったかを、時間を費やして突き止めようとするエージェンシーやクライアントにある。先日のYouTubeコメントスキャンダルについて、クロスメディア(Crossmedia)でマネージングディレクターを務めるアリ・プロンチャック氏によれば、同エージェンシーのあるクライアントが問題の動画のアドインプレッションに支出した額は6週間で7セントだったが、それを突き止めるために何日もの時間を費やしたという。「人的コストが問題なのだ。火の手の有無を調べていたために、チームは最適化や戦略といった方面に時間を割けなかった」と同氏は語った。
ポイント:エージェンシーはブランドセーフティをより実利的に考えるようになりつつある。ゼロトレランスという考え方から進化した、リスクレベルを主軸とする議論が展開されるようになっている。
多くの広告主にとって「ニュース」は「バッドニュース」
ニュースコンテンツへの出稿は、ブランドセーフティと切っても切れない関係にある。出席者たちは、そのメリットとリスクについても議論した。「フェイクニュース」の台頭、対立する政治、データプライバシーやオンライントラッキングなどの話題をめぐり、絶え間なく続くマスコミ報道……これらにより、一部の広告主はニュース関連コンテンツに表示される広告の購入を完全に避けるようになっており、パブリッシャーを大いに悔しがらせている。
- 一部のエージェンシーによれば、単にそれが頭痛の種になるというという理由で、クライアントはニュース関連コンテンツを完全に避けるように求めているという。プログラマティックバイイングに関して言えば、巷にはインベントリー(在庫)があふれている。だったらなぜ、好ましくないコンテンツに広告を表示するリスクをわざわざ取る必要があるのか、というわけだ。「『(ニュースには)手を出すな』という空気がまん延している」と、あるエージェンシー関係者は述べた。「物議をかもす問題のネットは広がってきている。24時間のニュースサイクルは、常にそこに何らかの『ドラマ』があるということを意味する」とまた別の出席者も述べた。もちろん、特定のタイプのクライアントのほうが、この問題とより深く関係している。ある出席者によれば、不適切なコンテンツへの数回の広告表示や、ブランドセーフティとは異なり、概してニュース環境は、見境のない運営を行えば、ブランドにネガティブな影響を及しうると、同氏のエージェンシーは考えているという。
- ある広告主の損失は別の広告主の利益になりうる。一部の出席者によれば、ニュース関連のインベントリーを避けることで、マーケターはチャンスを逃しているかもしれないという。クライアントやブランドが適していれば、予防対策さえ講じていれば、ニュース関連のインベントリーから素晴らしい成果をあげることは可能であり、価格も手頃であると、あるエージェンシー関係者は述べた。だが問題は、テクノロジープロバイダは、いまはまだ、ニュース記事やページの内容や感情の分析に、それほど長けていないということだ。その解決策は、パブリッシャーが広告主のためにコンテンツのタグづけを自分たちの側で行うことかもしれない。「多くの場合、パブリッシャーはライターと力を合わせて、ニュース記事を分類する必要がある。いまのところ作業の大半は我々の側、つまりデマンドサイドで行っている。損をするのはパブリッシャーなのだ」と、あるバイヤーはいう。
ポイント:クライアントによっては、ニュースコンテンツへの出稿が不要なリスクをもたらす場合もあれば、素晴らしいチャンスをもたらす場合もある。いずれにせよ、それに取り組むのは容易ではないというだけの理由で、出稿をあきらめてしまうべきではない。
データプライバシーは頭痛の種だが、チャンスでもある
オンライン広告に対する監視の強化や、欧米で増加するデータプライバシーや保護に関する法律は、デジタルメディアエコシステムのいたるところで頭痛の種になっている。エージェンシーもその例外ではないが、幸いなことにクライアントも同様に混乱している。ワンダーマン(Wunderman)で最高プライバシー責任者を務めるレイチェル・グラッサー氏によれば、クライアントはこの件に対する関心を高めつつあるという。同氏はその要点を次のように述べている。
- マーケターはプライバシーを差別化要因として使いはじめており、成功の兆しもいくらか見えつつある。Facebookなどのプラットフォームが関与するさまざまなスキャンダルや、GDPRをはじめとするさまざまな法律を受けて、消費者が自分のデータに精通するようになるにつれ、その多くは、どのブランドとオンラインでインタラクトすべきなのかについて、より慎重に考えるようになっている。「消費者は、これら企業がプライバシーや透明性の観点から起こしつつある変化に間違いなく気づきはじめている。ニュースレターを申し込んでいるときでさえも。消費者はこのことをより深く理解しはじめている。このシフトは一夜にして成し遂げられるものではなく、時間がかかるだろう。だが、いままさにそれが起こりつつある」と、グラッサー氏は述べた。
- データコンプライアンスを確保したければ、エージェンシーにはさらなる努力が要求される。「契約書が起草されてから、それが現場のアカウントチームに回されるまでのあいだには、ブラックホールがある。行われるべきではないタイミングで、データ共有が行われているかもしれない。あるいは、行われるべきではないタイミングで、個人情報と挙動情報の結びつけが行われているかもしれない。これは簡単ではない」と、同氏は述べた。
- こうした頭痛の種にもかかわらず、データはエージェンシーがクライアントとの関係を育むチャンスになりえる。エージェンシーはしばしば、自身の役割を「コンサルタント」と語る。そしてここが、クライアントが助けを必要とする領域なのだ。「クライアントは情報通になりつつある。関心を持ち、自らを教育するようになっている。何をすべきなのかはわからないが、何かすべきであることはわかっているのかもしれない。これはエージェンシーにとって好都合だ。クライアントが我々の力を必要としているということなのだから」と、グラッサー氏は語った。
ポイント:データプライバシーは面倒で困難な問題だ。しかしだからこそ、エージェンシーは解決の道を探るクライアントに力を貸せる好位置を占めているといえる。
エージェンシー幹部コメント集
「業界全体について言えば、エコシステムをデジタル化し、そのブロックを商品化すれば、こうなるのは必然だ。バイヤーは商品化されたのだ。エージェンシーとして我々は、バイイングは本質的に我々にとっての利点ではないという事実に目を向けなければならない」――エージェンシー幹部(匿名)
「デビューしたばかりのメディアバイヤーは、履歴書に追加できるほかのスキルを、いますぐ探すべきだ」――エージェンシー幹部(匿名)
「好ましくないコンテンツに表示される広告を見た消費者は、両者を結びつけてネガティブな反応を示すということを明らかにしているデータなどあるのか?」――エージェンシー幹部(匿名)
「初任給の額を見て、これでどうやって生活していくんだろうと思う人もいるだろう。これがもたらすマイナスはさまざまだ。親に助けてもらわなければならないからだ」――エージェンシー幹部(匿名)
「ブランドセーフティの保証などというものはない。そんなものは存在しないのだ」――ジョー・バロン氏(グループ・エム/ブランドセーフティ担当マネージングパートナー)
「私のチームはおもにソーシャル関連の業務を担当している。我々にとっていちばん大きな問題は、Facebookがソーシャルのインハウス化を容易にしつつあるということだ」――エージェンシー幹部(匿名)
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Jack Marshall (原文 / 訳:ガリレオ)