「電話をトイレまで持っていく」: リモートワークは、いかに新種の「 疾病就業 」を育むか?

「今時間ある?」というのは仕事中によく投げかけられる質問だ。

だが、あるスタートアップ企業でソーシャルメディアマネージャーを務めるアレックス氏は、この言葉に大きな不安を覚えるという。

「まず即座に対応しなければならないという強い焦りを感じる。Slackで自分のステータスが緑になっていないと心配になるんだ。応答が遅すぎるのではと心配する。いつだって対応できるように準備している」と、アレックス氏は語る。

アレックス氏がこうした不安やパフォーマンス恐怖症にかられるのは、昔からだった。だが、コロナ禍のなかで皆と同じく在宅勤務を行っているうちに、この問題は悪化の一途をたどっているという。

「自分が怠けていると思われたくないので、チームのバーチャル交流会にも全部参加しているし、投稿にもすべて反応している。問題なのは、実際の仕事よりもそれに費やしている時間が長くなっていることだ」。

ワーカホリック的思考

「サボっていると思われたくない」心理については、さまざまな人が口にしている。こういったパフォーマンスに関するワーカホリック的思考は何もコロナ禍で始まったものではない。「せわしなくする」文化や「成功者」の朝の習慣、「月曜日が待ち遠しかった」といったスローガンは以前からあらゆる世代のあいだで存在していた。仕事は辛くて当然といった考えも浸透している。だが、その傾向はいま、かつてなく強まっている。もし貴方の一心不乱な仕事ぶりを見ていた上司の目がなくなったらどうだろうか? 週60時間労働の確認すらなくなったら? 「出席」が文字通りの意味ではなく、比喩的な意味になったら?

仕事が自宅に入り込み、自宅が仕事の一部となったなかで、仕事の重要性が減ったように感じる社員も出てきている。自宅では子供の世話や家族、健康、仕事外の生活などにも力を入れる必要があるのだ。ワークライフバランス面でより充実した理想的な生活が実現できるのではという希望もある。プロジェクトを片付けるあいだシチューを火にかけておく、昼食は子供と一緒に食べる、気分転換に散歩するといった生活だ。

だが、現実はまるで逆のようだ(監視ソフトの普及や常時オンになったウェブカメラも、信頼のある人間のあいだで生まれる暖かい環境とはかけ離れている)。

仕事ぶりを認めてもらうために

あるライフスタイル誌の編集者である24歳の女性は、「いつでも対応できるようにしていなければという大きな重圧を感じている」と語る。「Slackで自分に連絡する人がいた場合に答えられるように、トイレにまで電話を持ち込んでいる」。

この編集者は、上司からチーム全体で行うバーチャル交流会や、人事部が提供している『Zoom休憩』にも参加するよう強く要請されているという。「顔を見せるのが良いことだ、という考えが広まっている」と、同編集者は語る。さらに経済的な不安も相まって、米DIGIDAYが本稿でインタビューした全員が、上司に自分の仕事ぶりを認めてもらうために「残業する必要がある」と感じていたのだ。

スタンフォード大学の研究によれば、在宅勤務によって社員も経営者も、生産性は13%向上したという。だが同時に、LinkedInの最近の調査では在宅勤務を行っている社員の86%が「以前よりも頑張るべき」という重圧を感じているという。

リモートワークのあるべき姿

広告エージェンシーのTBWAで文化戦略の実行を担当しているサラ・ラビア氏は「これはリモートワークのあるべき姿ではない」と語る。同氏はさまざまな企業に新しい仕事のやり方と文化をアドバイスしている。「いまの私たちを突き動かしているのはアドラーの言うところの過補償の心理であり、恐怖と不安だ」。

初日から全業務についてリモートワークを導入するサービスを提供しているベースキャンプ(Basecamp)の創業者であり、『NO HARD WORK!: 無駄ゼロで結果を出すぼくらの働き方』の著者、デビッド・ハイネマイアー・ハンソン氏はバーチャルで同僚とのつながりを再現しようとすることの危険性について警鐘を鳴らしている。ハンソン氏が同時に強く勧めているのは、コミュニケーションの方法の改善だ

ある技術マネージャーは「オフィス勤務では、相手と同じ場にいる。お互いのことを見ているのも分かる。だが、これは自責の念のようなものだ。オンラインではこうした情報量が少なく、自分の存在を示しつづけなければならない、自分が誰も待たせていないと確認しつづけなければいけない、と考えてしまう」と語る。

エンゲージメント過剰は危険

ジャクリン・ルール氏は、バージニア州リッチモンドのマーティン・エージェンシーでブランドコミュニケーションを担当している。同氏に対し、ある社員がモチベーションの低下について慎重に伝えてきたという。「大丈夫だと伝えた。自分自身も2日間ほどやる気が出なかったのだ」と、ルール氏。「彼女は、やる気がでないというのはひどく悪いことと考えているようだった」と語る。同氏は「エンゲージメント過剰」は危険だとしている。

ルール氏の同僚、ティナ・チェンバレン氏は人材リソース担当を務めている。チェンバレン氏は、社内では社員のグループや部門の会議、「金曜日の5分間の楽しみ」である「ハッピーアワー」といったコミュニケーションが「非常に多い」と語る。「どうやったら社員のエンゲージメントを高められるか、常に話し合っている」と、チェンバレン氏は語る。「だが同時に、社員には全部に参加する必要はないとも伝えている」。

SHAREEN PATHAK(原文 / 訳:SI Japan)