広告費がプログラマティックに流れるようになったいま、データ漏えいがパブリッシャーにとって大きな問題となりつつある。業界人に匿名で本音を語ってもらう。ある独立系の広告エージェンシーのプログラマティックバイヤーに話を聞いた。
広告費がプログラマティックに流れるようになったいま、データ漏えいがパブリッシャーにとって大きな問題となりつつある。業界人に匿名で本音を語ってもらう「告白」シリーズ。今回は、パブリッシャーがいかに不適切な方法でデータを取り扱っているかについて、ある独立系の広告エージェンシーのプログラマティックバイヤーから話を聞いた。
この情報筋によれば、パブリッシャーは自分たちのオーディエンスデータを管理できていないという。なぜなら、パブリッシャーに対する対価を支払いもせず、広告主はユーザーに関するデータをアドエクスチェンジから引き抜くことができるからだ。
以下は、その話をまとめたものだ。なお、内容を明瞭にするため若干の編集を加えている。
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――パブリッシャーは何を誤っている?
ユーザーのデータは彼らが作り出した資産であり、本来であればそこから報酬を得るべきだ。だが、彼らはそうしていない。おかげで、我々エージェンシーはそのデータをあれこれ探りまわって、必要なオーディエンスデータを抜き出すことができる。
――どのようにして?
パブリッシャーは、ユーザーの属性や行動に関する多くのデータをアドエクスチェンジに差し出してしまっている。そのため、我々はインプレッションを少しだけ購入し、アクシオム(Acxiom)やオラクル(Oracle)から購入したサードパーティデータを組み合わせるだけで、独自のオーディエンスセグメントを作成できる。もしパブリッシャーが、ユーザーのデータを自分たちでコントロールし、広告主に直接販売していれば、我々はそのデータを手に入れるために大金を払うことになっていただろう。
――例を挙げるとしたら?
コンシューマーをターゲットとしている大手パブリッシャーのコンテンツは、B2Bの読者にも読まれている。しかし、彼らがそのような読者のデータを利用することはない。アメリカでもっとも一般的なスポーツ週刊誌である、スポーツ・イラストレイテッド(Sports Illustrated)や、GQなどのコンテンツを読むユーザーには企業幹部もいるが、パブリッシャーがユーザーのデータを役職別にまとめることはあまりないのだ。
当社のB2Bクライアントなら、ターゲットオーディエンスにリーチするため、30ドル(約3300円)以上のCPMを支払ってでもそのようなデータを入手しようとするだろう。だが、私はパブリッシャーに30ドルを支払うことなく、エクスチェンジから集めたデータを使って同じようなデータを独自に作成し、そのインベントリ(広告在庫)を10ドル(約1100円)以下の価格で販売できる。
――サードパーティデータには誤りが多いという心配は?
100%信頼できるデータというものは決して存在しない。だからこそ、パブリッシャーがデータを直接売ってくれるのなら、我々はもっと多くの金額を彼らに払うだろう。だが、サードパーティデータを利用すれば、そのオーディエンスセグメントのデータをさらに安い価格で入手できるため、長期的に見れば割が合う。どのセグメントでも、我々はまず試験的にデータを購入してから、大きな予算のキャンペーンに向けてそのデータを売り出す。我々の作成したオーディエンスセグメントが優れたROI(投資利益率)をもたらさなければ、データに手を加えるか捨ててしまう。だが、十分なROIがもたらされれば、データ企業に支払ったお金に見合う価値を得られるのだ。
――パブリッシャーが広告主に直接データを売らないのは、ユーザーのプライバシー侵害に繋がるからでは?
パブリッシャーはそう説明するかもしれないが、それは聞こえがいいからであって、実態はまったく違う。すでに彼らは、読者のデータを手当たり次第に売っている。ただし、サードパーティベンダーを通じてだ。パブリッシャーのウェブページのコードを調べてみればいい。ほとんどのページに、20から30ものアドテク企業のピクセルが仕込まれているのに気づくだろう。これらが、ユーザーの追跡やリターゲティング広告に使われている。このような手法を取ることで、彼らは本来得られるはずの大金をはした金に変えてしまっていると私は思う。
――データ漏えいが問題になっている背景は?
ヘッダー入札が普及し、バイヤーが入札だけでユーザーデータを簡単に入手できるようになって以来、データ漏えいは問題となっている。バイヤーが、オークションで落札するためでなく、パブリッシャーのデータを入手するためだけに入札に参加しているからだ。ヘッダー入札のおかげでCPMが上昇しパブリッシャーは恩恵を受けているが、バイヤーにもメリットがもたらされている。オーディエンスのデータを事実上無料で手に入れることができるからだ。
――問題を解決するにはどうすれば?
アドエクスチェンジでデータを開示する方法をコンサルタントと検討し、あまり多くのデータを開示しすぎないようにする必要がある。また、独自のデータ管理プラットフォーム(DMP)を構築して、パブリッシャー自らが責任をもって情報を管理することが必要だ。そして、データサイエンティストを雇い、どのオーディエンスセグメントにもっとも多くのお金を費やせるのかを判断すべきだろう。
――彼らがそのような取り組みをしない理由は?
ひとつ考えられるのは、技術への投資にお金がかかりすぎることだ。また、多くのパブリッシャーがリソース不足に陥っているという問題もある。そのため、ベンダーに問題の解決を一任する方が簡単なのだ。パブリッシャーがデータを得るために必要としている人材は不足しているし、プログラマティックは非常に複雑だ。そのため、この問題の解決は、昔ながらの営業担当者に新しいアドテク用語を学ばせるほど簡単な話ではない。
だが、より大きな問題は、多くのパブリッシャーが過去にとらわれ、古い販売モデルを維持することばかり考えていることだ。若いメディアバイヤーたちを食事に連れて行くときと同じくらいの労力をデータの獲得に費やせば、彼らは解決方法を見つけ出すことができるだろう。
Ross Benes(原文 / 訳:ガリレオ)