デロイト(Deloitte)やアクセンチュア(Accenture)のような大規模な経営コンサルタントはそれ自体がエージェンシーになってきているなか、業界最大手のインターパブリック・グループ(Inter Public Group)傘下のクリエィティブエージェンシー、R/GAはそれとは逆の動きを見せはじめた。
デロイト(Deloitte)やアクセンチュア(Accenture)のような大規模な経営コンサルタントはそれ自体がエージェンシーになってきているなか、業界最大手のインターパブリック・グループ(Inter Public Group)傘下のクリエィティブエージェンシー、R/GAはそれとは逆の動きを見せはじめた。同社の業務改革部門はシーメンス(Siemens)やウォルマート(Walmart)、またESPNといった大手企業に対し、顧客体験や企業の成長戦略に関するコンサルティングを行っている。
「我々の目的は従来型のコンサルティングを崩壊させることにある。アドエージェンシーのいくつかはコンサルタント企業になりたがっているが、実際にそれができているのはごくわずかだ」と、R/GAの業務改革部門エグゼクティブ・ディレクター、アンドリュー・ランポータン氏は語る。「我々のクライアントのほとんどはCEOか、マーケティングとは直接関係のない経営幹部レベルの責任者だ」。
たとえば、最近、ランポータン氏のチームはアメリカで日用製品を販売する企業に対し、eコマースビジネスの機会や消費者のエンゲージメントへの理解を深めるサポートを行った。彼のチームはビジネス分析やトレンド分析を駆使し、試験的なプログラム(顧客向けの新規サービスや体験)の立案と運営を支援。さらにクライアント自身がそれを継続して運営できる能力を身につけられるように促した。
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コンサル企業の弱点
ボストン・コンサルティング・グループ(The Boston Consulting Group)で10年間勤務し、2015年8月にR/GAに入社したランポータン氏の考えでは、コンサルタント企業が抱える大きな問題は、容易にビジネス分析を行って200〜300ページにも渡る資料を作成できるにも関わらず、その評価データを実際に活用するのが苦手なことだ。
「経営コンサルタントはいわゆる思索家だが、我々はそうであると同時に実行できる力をもっている」と、彼は語る。「我々は物事を定量的な感覚で見つつも、体験を創り出すことに結びつけている」。
R/GAのコンサルタント業務に関する料金体系は、サービスを時給で換算するこれまでの一般的なモデルとは異なり、営業成果に応じた額を請求する仕組みだ。たとえば、ある案件で6人が6カ月間働く必要がある場合、エージェンシーが利益をあげるために何が必要かを決定するまでの時間は計算されるが、提供するサービスそのものは完全な費用対効果ベースで請求していると、ランポータン氏は説明する。
また、大手のコンサルタント企業にはない、もうひとつのアドバンテージは、R/GAのチームが多くの専門分野に幅広く通じていることだと、彼は付け加える。「たとえば銀行関係者が革新を起こすには、金融サービス業以外の業界の人間と話すことが重要だ」と、彼は語る。
エージェンシーとコンサルタントの融合を模索している企業はR/GAだけではない。たとえば、フランスの大手広告代理店グループのピュブリシス(Publicis)は、2016年11月に行ったグループの再組織化にあたり、コンサルタント能力を有するサピエントニトロ(SapientNitro)とメディアエージェンシーのレイザーフィッシュ(Razorfish)を合併した。また、360iもコンサルティング部門を抱えている。
エージェンシーのあるべき姿
概して、コンサルタント企業がCEO、COO、CFOや組織の役員をターゲットにしている一方、エージェンシーによるコンサルティングのターゲットはCMOである。アメリカの大手調査機関フォレスター・リサーチ(Forrester Research)のシニアアナリスト、アンジャリ・ヤクンディ氏によると、これまでのコンサルタントは幅広くビジネスやプロセスへの影響に目を向けている一方、エージェンシーのアプローチはブランドや顧客とより密接に繋がることで機能しているという。しかし、もっとも重なり合っている部分は、顧客体験に重きを置いたコンサルティング業務であり、それがコンサル企業と代理店が競い合っている分野でもある、と彼女は語る。
とはいえ、経営コンサルタントの仕事の幅は広く、エージェンシーがそれと対等に競うのは困難だ。結局のところ、規模の大きいコンサルタント企業や会計事務所は、ほかのどの業界よりもグローバルな経営幹部レベルでのコネクションをもっている。そして、そのビジネス規模、人材や提供物が大きいが故に、コンサルタント企業はある意味どんなことでもできる。説明責任が1カ所にまとまっていることは、クライアントにとって魅力的だと、米アイソバー(Isobar U.S.)のバイスプレジデント、デーブ・ミーカー氏は語る。
しかし一方で、「昨今のエージェンシーは、(クライアントに対して)『私たちが提案しているメキシコの2つの工場とオーストラリアのコマースプラットフォームの仕事を承認してくれれば、いくつかのマーケットにある2つのマイクロサイトとメディアに関する別の仕事を提供します』と要求してくるような大きなコンサルタント部門を抱えているかもしれない」と、彼は語る。「競争力をもつためには、エージェンシーは本当に優れていなければならず、さらに自身の能力と中心となるサービスが、ほかと差別化されていなければならない」。
サービスは量より質
ランポータン氏にとって、コンサルティング能力をクリエイティブショップに統合することに関する最大の挑戦は、ビジネスコンサルティングにおいて正しい技術と経験を有する人材を見つけることだ。クリエイティブと協力でき、また彼ら自身が解決策を見出すことに積極的である必要がある。
「そのためにはある一定の『リスクを冒す欲求』が必要であり、経営コンサルタントの成功者の誰もが持ち合わせているものではない」と、彼は語る。
また、PwC(PricewaterhouseCooper’s)のデジタル部門が32のオフィスで、合計1万4000人もの従業員を抱えている一方、R/GAの業務改革部門には全世界を合わせてもたった50人のビジネスコンサルタントしかいない。だが、ランポータン氏はエージェンシーのコンサルティング業務に楽観的な見解を示している。
「大きな経営コンサルタント企業は幅広く仕事をこなしているが、だからといって我々に競争力がない、ということはない。量より質だ」と、彼は語った。