- トレードデスクは最低落札価格(フロアプライス)を無視し、プログラマティック広告で広告主の入札価格が低くても、条件が一致すればすべての入札を行う新たな方針を9月から取り入れた。
- プログラマティック広告のサプライチェーンにおいて、情報開示という視点でパブリッシャーは不利な立場に置かれているものの、これにより、透明性の向上と業界のクリーン化に寄与する可能性があるという声も。
- 一方で、専門家はこの変更がSSPや再販事業者にとって収入減をもたらす可能性が高く、広告市場全体に波及する懸念も示唆している。
トレードデスク(The Trade Desk、TTD)は9月より、プログラマティック広告の入札でパブリッシャーまたはSSP指定のフロアプライス(最低落札価格)を考慮しない方針を実行している。
インサイダー(Insider)が最初に報じたこの方針に則り、TTDは現在、広告主の出稿要件とオークションにかけられた広告在庫がマッチする限り、広告主側の入札価格がパブリッシャーやSSPの値付けを下回る金額であっても、すべて入札している。
TTDのインベントリー開発担当バイスプレジデントを務めるウィル・ドハティ氏は、「比較的穏やかな方針変更だ」と話し、こう説明した。「今回の変更で、TTDの入札価格の決め方が変わるわけではないが、送信する入札の量は増える。結果的に、パブリッシャーやSSPは、フロアプライスに従えば落札されずに終わるインベントリーにも、追加的な需要があるのだと知ることになる」。
もちろん、懸念もある。フロアプライスに届かない入札にもリーチを伸ばすなら、パブリッシャーやSSPはCPMの上限を引き下げざるを得なくなり、この下押し圧力がCPM全般に波及するおそれもある。複数のアドテク関係者によると、SSPの事業に悪影響がおよぶのは避けられないという。一方で、パブリッシャーへの影響は未知数だ。よいのか悪いのか、はたまたそのどちらでもないのか、判断を下すのは時期尚早と言える。
透明性の名の下に
「フロアプライスを設定することで、いったいどれだけの入札を取りこぼしているのか。パブリッシャーにそれを知る術はない」と、ドハティ氏は話す。「最低落札価格を下回る金額を入札した広告主がいても、パブリッシャーには分からない。そういう需要が存在していることに気づきもしない」。
「これはプログラマティック広告市場を悩ませる透明性の問題の一端だ」とドハティ氏は指摘する。サロン(Salon)、TVトロープス(TV Tropes)、スノープス(Snopes)の最高収益責任者(CRO)を務めるジャスティン・ウォール氏も同じ意見のようだ。
ドハティ氏はこう続ける。「設定されたフロアプライスを下回る価格で入札すれば、取引されないことは分かっている。しかし少なくとも、パブリッシャーは一部の広告主が当該の在庫にどんな値を付けるのか、それを知ることができる。我々は入札価格を変えるつもりはない。しかし今後、パブリッシャーの手元には、これまでは入札に至らなかった案件も含め、すべての在庫を評価するためのデータが蓄積される」。
もちろん、これら新たな入札をパブリッシャーと共有するのはSSPの責任だ。この点について、ウォール氏は「パブリッシャーはプログラマティック広告のサプライチェーンにおいて、自分たちの要求をもっと主張するべきだ」と述べている。一方で、SSPは同じ広告在庫に異なるフロアプライスを設定してくるが、TTDはこれをすべて回避し、自分たちの思うままに入札できる。「一般的に、パブリッシャーはインプレッションの適正価格を知る位置づけにない」と、同氏は指摘する。しかも、SSPや再販事業者がパブリッシャーのフロアプライスに手を加えても、パブリッシャーにこの情報をフィードバックする仕組みが確立されていない。パブリッシャーは非常に不利な立場に置かれている。
しかし、広告主が支払ってもよいと考える価格について、TTDのようなDSPから追加的なフィードバックを取得できれば、パブリッシャーはより多くの情報に基づいて、自分たちの広告在庫の適正価格を見極めることができる。同社の方針変更について、ウォール氏は「パブリッシャーが大きなダメージを受ける決定ではない」と語り、「むしろ、クリーンな業界という正しい方向に向かう第一歩となるものだ」と言い添えた。[続きを読む]
- トレードデスクは最低落札価格(フロアプライス)を無視し、プログラマティック広告で広告主の入札価格が低くても、条件が一致すればすべての入札を行う新たな方針を9月から取り入れた。
- プログラマティック広告のサプライチェーンにおいて、情報開示という視点でパブリッシャーは不利な立場に置かれているものの、これにより、透明性の向上と業界のクリーン化に寄与する可能性があるという声も。
- 一方で、専門家はこの変更がSSPや再販事業者にとって収入減をもたらす可能性が高く、広告市場全体に波及する懸念も示唆している。
トレードデスク(The Trade Desk、以下TTD)は9月より、プログラマティック広告の入札でパブリッシャーまたはSSP指定のフロアプライス(最低落札価格)を考慮しない方針を実行している。
インサイダー(Insider)が最初に報じたこの方針に則り、TTDは現在、広告主の出稿要件とオークションにかけられた広告在庫がマッチする限り、広告主側の入札価格がパブリッシャーやSSPの値付けを下回る金額であっても、すべて入札している。
Advertisement
TTDのインベントリー開発担当バイスプレジデントを務めるウィル・ドハティ氏は、「比較的穏やかな方針変更だ」と話し、こう説明した。「今回の変更で、TTDの入札価格の決め方が変わるわけではないが、送信する入札の量は増える。結果的に、パブリッシャーやSSPは、フロアプライスに従えば落札されずに終わるインベントリーにも、追加的な需要があるのだと知ることになる」。
もちろん、懸念もある。フロアプライスに届かない入札にもリーチを伸ばすなら、パブリッシャーやSSPはCPMの上限を引き下げざるを得なくなり、この下押し圧力がCPM全般に波及するおそれもある。複数のアドテク関係者によると、SSPの事業に悪影響がおよぶのは避けられないという。一方で、パブリッシャーへの影響は未知数だ。よいのか悪いのか、はたまたそのどちらでもないのか、判断を下すのは時期尚早と言える。
透明性の名の下に
「フロアプライスを設定することで、いったいどれだけの入札を取りこぼしているのか。パブリッシャーにそれを知る術はない」と、ドハティ氏は話す。「最低落札価格を下回る金額を入札した広告主がいても、パブリッシャーには分からない。そういう需要が存在していることに気づきもしない」。
「これはプログラマティック広告市場を悩ませる透明性の問題の一端だ」とドハティ氏は指摘する。サロン(Salon)、TVトロープス(TV Tropes)、スノープス(Snopes)の最高収益責任者(CRO)を務めるジャスティン・ウォール氏も同じ意見のようだ。
ドハティ氏はこう続ける。「設定されたフロアプライスを下回る価格で入札すれば、取引されないことは分かっている。しかし少なくとも、パブリッシャーは一部の広告主が当該の在庫にどんな値を付けるのか、それを知ることができる。我々は入札価格を変えるつもりはない。しかし今後、パブリッシャーの手元には、これまでは入札に至らなかった案件も含め、すべての在庫を評価するためのデータが蓄積される」。
もちろん、これら新たな入札をパブリッシャーと共有するのはSSPの責任だ。この点について、ウォール氏は「パブリッシャーはプログラマティック広告のサプライチェーンにおいて、自分たちの要求をもっと主張するべきだ」と述べている。一方で、SSPは同じ広告在庫に異なるフロアプライスを設定してくるが、TTDはこれをすべて回避し、自分たちの思うままに入札できる。「一般的に、パブリッシャーはインプレッションの適正価格を知る位置づけにない」と、同氏は指摘する。しかも、SSPや再販事業者がパブリッシャーのフロアプライスに手を加えても、パブリッシャーにこの情報をフィードバックする仕組みが確立されていない。パブリッシャーは非常に不利な立場に置かれている。
しかし、広告主が支払ってもよいと考える価格について、TTDのようなDSPから追加的なフィードバックを取得できれば、パブリッシャーはより多くの情報に基づいて、自分たちの広告在庫の適正価格を見極めることができる。同社の方針変更について、ウォール氏は「パブリッシャーが大きなダメージを受ける決定ではない」と語り、「むしろ、クリーンな業界という正しい方向に向かう第一歩となるものだ」と言い添えた。
直撃を食らうSSP
本記事執筆のために取材した広告関係者のほぼ全員が、今回の変更で収入減の憂き目にあうのはSSPと再販事業者だという見解で一致している。
メディアバイイングエージェンシーのグッドアップル(Good Apple)で運用型広告担当バイスプレジデントを務めるジョージ・タルノポルスキー氏によると、TTDはSSPに依存する一方、「オープンパス(OpenPath)」のような独自の取り組みを推進しており、これが取引先SSPの売上を脅かしかねず、そこにはすでに「危うい均衡」が存在するという。
「媒体費に大幅なマージンを上乗せする、あるいはほかのSSPの広告在庫を転売するサプライパートナーが、入札価格の引き下げで不利益を被るのは確実だ」と、タルノポルスキー氏は話す。「また、今回の方針変更で、パブリッシャーの広告在庫を直接扱うTTD運営のオープンパスに、より多くのトラフィックが流れることも考えられる」。
メディアコンサルティング企業のメッサーメディアを創業し、プリンシパルを務めるスコット・メッサー氏は、「SSPにとって、この状況は『詰み』ではないが、『王手』であることは間違いない」という。同氏は以前、リーフグループ(Leaf Group)で運用型広告事業を統括していた人物であり、こう続ける。「TTDとしては、パブリッシャーに対して、SSP経由の取引で売上を減らすよりも、オープンパスを使う直接取引なら手取りが増えると言いたいのだろう」。
パブリッシャーへの影響は未知数
しかし、結局のところ、パブリッシャーにはどんな影響があるのだろうか。TTDは「パブリッシャーにとって有利な変更だ」と主張しており、ドハティ氏は「価格設定に関するデータが新たに入手できるのだから、パブリッシャーにとってはメリットが大きい」と述べる。
メッサー氏によると、パブリッシャーにおよぶ影響は短期的には「プラスマイナスゼロ、またはプラス」だという。パブリッシャーがフロアプライスを下回る入札を受け入れるとしても、究極的には販売量が増加するため差し引きゼロだ。一方、オープンパスに乗り換えてSSP(およびその手数料)を完全に切り捨てるなら、プラスとなるだろう。では、長期的な影響はどうか。それは天のみぞ知ることだ。また、メッサー氏の見立てでは、ダイナミックフロアプライシングの戦略や慣行にも若干の影響が出るという。DSPが市場の値動きと連動せず、フロアプライスを無視して好き勝手に入札しはじめれば、「それはパブリッシャーにとってはマイナスだ」と同氏は言う。パブリッシャーの価格交渉力が削がれるからだ。
匿名で取材に応じたパブリッシャー側に立つある広告管理会社の幹部は、「TTDが無視するフロアプライスがSSP設定の価格に限られるなら、パブリッシャーに何ら影響は及ばない。TTDがフロアプライスを下回る価格で入札しても、パブリッシャーが販売しなければそれまでだ」と話す。
一方、自身が経営するコンサルティング会社のライオネスストラテジーズ(Lioness Strategies)で運用型広告とデータ戦略のストラテジックアドバイザーを務めるジャナ・メロン氏は、「結果として、SSPがパブリッシャーに求めるテイクレート(販売手数料)の引き下げにつながるなら、パブリッシャー側のメリットになりうる」と話す。
また、メロン氏は米DIGIDAYの取材に電子メールでこう述べている。「オープンパスのレベニューシェアは極めて低い。パブリッシャーがSSPから引き出しうるもっとも有利なレートよりもさらに低い。パブリッシャーにおよぶ影響があるとすれば、TTDのおかげでSSPのレートが下がるくらいのものだろう。平均的なテイクレートは20%前後だ。仮にSSPがこのレートを15%もしくは10%に下げるなら、パブリッシャーの稼ぎは増えるだろうが、それはフロアプライスとは関係ない」。
[原文:How The Trade Desk’s new sub-floor bidding tactic will affect SSPs, publishers]
Kayleigh Barber and Seb Joseph(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)