メディアバイイングはますますコモディティ化し、差別化が難しくなっている。そうしたなか、メディアエージェンシーのあいだでホットなのが、コミュニケーションプランニングだ。すなわち、データから得られるインサイトを用いて、クライアントがブランドポジショニングやメディアチャンネルの課題を解決できるよう支援する取り組みだ。
メディアバイイングはますますコモディティ化し、差別化が難しくなっている。そうしたなか、メディアエージェンシーのあいだでホットな戦場となっているのが、コミュニケーションプランニングだ。すなわち、データから得られるインサイトを用いて、クライアントがブランドポジショニングやメディアチャンネルの課題を解決できるよう支援する取り組みだ。
この取り組みは、エージェンシー、マクサス(Maxus)のメディアプランナーにとって、コンフォートゾーンからの脱却を意味する。そして、ベーカリーカフェチェーンのパネラ・ブレッド(Panera Bread)、NBCユニバーサル(NBCUniversal)、日用品メーカーのチャーチ・アンド・ドワイト(Church & Dwight)といったクライアントのためにクリエイティブのアイデアを生み出す方法を彼らに学んでもらうのだ。
マクサスのビジネスシフト
「単なるディストリビューション屋にはなりたくない。我々は(グループM[GroupM]のなかで)もっとも若い企業だ。そのため、面白いことや違ったことをする必要がある」と、マクサスの北米事業担当CEO、スティーブ・ウイリアムズ氏はいう。「メディア担当社にクリエイティブについて教えるほうが、その逆よりも簡単なことに気づいたのだ」。
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マクサスは、動画やTVコマーシャルのようなコンテンツ制作に足を踏み入れようとしているわけではない。そうした仕事はいまもクリエイティブエージェンシーの領域だ。だが、メディアエージェンシーのマクサスは、クライアントから見た自社の価値を高めたいと考えている。たとえば、これまでのマクサスは、クライアントからどのようなキャンペーンを展開したいのかを教えてもらい、メディアを適切な価格で購入すればよいだけの存在だった。だが、いまのマクサスがキャンペーンの内容を尋ねることはない。
クライアントは、自社のビジネスをどのように成長させたいのか、どのようなユーザー層にリーチしたいのかをマクサスに伝えれば、あとはすべてマクサスが面倒をみてくれるのだ。そのもっとも成功した例のひとつが、高級化粧品メーカー、クラランス(Clarins)向けの「シワが増える価値がある(Worth The Wrinkle)」というキャンペーンで、マクサスがコンセプトと戦略を考え出した。
コミュニケーション戦略で差別化
「我々はブランドに対し、そのブランドの業界で何が起こっているのかを伝える」と、マクサスの最高プランニング責任者、デビッド・ゲインズ氏はいう。「コミュニケーションプランニングは、業界で革新的な取り組みというわけではない。だが、米国ではこの取り組みを強化する必要がある。クリエイティブとメディアのサイロ化が進んでいるからだ」。
とはいえ、クリエイティブチームからプランニングの仕事を奪おうとしているわけではない。クリエイティブチームにはストーリーのアイデアに集中してもらい、マクサスはそのアイデアを提供する仕組みに集中するというのがゲインズ氏の考えだ。「おかげで、単にリーチをめざすのではなく、行動指標やコンテキストから得られる情報に合わせて戦略を練ることができる」と、同氏は説明した。
コミュニケーションプランニングは、いまやクライアント予算の大きな割合を占めている。かつては、クリエイティブと実践がエージェンシーの仕事だった。だが、いまでは、コミュニケーションプランニング、あるいは「戦略」に注目が集まっている。エージェンシーによっては、ますます多くの分析データを自社のプロセスに取り入れているところもあるようだ。もっとも、こうしたやり方に対しては、単に情報をいじくり回しているだけで何も生み出していないとの批判もある。それでもマクサスは、受注率が2017年には60%に倍増し、コミュニケーションプランニングを取り入れたピッチの勝率も80%に達している。
専門人材の育成・採用方法
マクサスには、270名以上のメディアプランナーと52名のコミュニケーションプランナーがいるが、人に教えるのは簡単な仕事ではない。メディアプランナーは、データを分析するのは得意だが、データから得られた情報を利用してクリアなアイデアを作り出すことには慣れていないのだ。
「これはマクサスにとって大きなカルチャーの変化だ」と、ゲインズ氏は語る。「私はチームのメンバーによくこういう。『週末はどうだった? と、尋ねられれば、みんなそれぞれにどう答えればいいかわかるだろう。それと同じように、データから何がわかったのかをクライアントに伝えられるようになるはずだ』とね」。
トレーニングの一環として行われているものに、読書会がある。1カ月に1度集まって1冊の本を読み、その本から学んだことをほかの人に伝える。また、ゲインズ氏とウイリアムズ氏は、一般社員を採用するための一次面接に参加している。応募者がコミュニケーションプランニングに取り組む能力をもっているかどうかを知るためだ。
「すべてのメディアプランナーが、ピッチの場でコミュニケーション戦略を語ることに、わだかまりがないわけではない。だが、我々は間違いなく仲間を増やしている」と、ゲインズ氏。
本当の差別化要因は社員
エージェンシーは、自社のサービスをいつでもパッケージし直し、コミュニケーションプランニングから人工知能(AI)やビジネスコンサルティングにいたるまで、お金になるものなら何でも提供できる。調査会社ピボータル(Pivotal)のアナリスト、ブライアン・ウィーザー氏によれば、ほとんどの大手メディアエージェンシーが、かなり前からコミュニケーションプランニングサービスを提供しているという。このなかには、主要な戦略製品として提供しているエージェンシーもあれば、「戦略」や「アカウントプランニング」といった別の名前をつけて提供しているエージェンシーもある。
「マクサスは比較的新しいエージェンシーなので、状況は異なる」と、ウィーザー氏は説明する。「ツールやプロセスには差別化できる要素がある。だが通常は、エージェンシーが特定のクライアントに対して差別化しようとする場合、ピッチや説明会に送り込む社員を通じて差別化を図るのが、もっともうまくいく方法だ」。
ゲインズ氏は、本当に差別化するための要因は社員だという意見に同意し、「人々が、『見ろよ、マクサスのコミュニケーションプランニングはすごいな』などということはないだろうが、我々は、もっと深く考え、よいアイデアを生み出せる能力を、会社全体で育てたいと考えている」。
Yuyu Chen(原文 / 訳:ガリレオ)