これまで「全体像を見ずに数勘定しかしない」という悪評がついてまわりがちだったマーケティング調達部門だが、こうした評判を覆そうという取り組みも行われている。マーケティングチームは効果的な広告のニーズと価格のバランスを模索している。調達部門の役員もこれを支援すべきだというプレッシャーは高まっているのだ。
これまで「全体像を見ずに数勘定しかしない」という悪評がついてまわりがちだったマーケティング調達部門だが、こうした評判を覆そうという取り組みも行われている。
マーケティングチームは効果的な広告のニーズと価格のバランスを模索している。調達部門の役員もこれを支援すべきだというプレッシャーは高まっており、評判を回復するための取り組みに結びついているのだ。とりわけ、間に合わせのような形で作られたわけではなく、経営陣に話を通すことができるような調達部門でこうした動きは顕著となっている。
「当社では、調達機能が広い範囲で変化しつつあり、マーケティング調達に対する認識も多少変化しつつある」と、ある世界的な広告主のマーケティング調達担当者は匿名を条件に明かした。「幹部レベルでの可視性を実現している。またコストの削減以外にも、イノベーションやチーム同士の連携、ビジネスパートナーといった価値も注目するようになった」。
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企業が成長するためのマーケティング調達
マーケティング調達部門のなかでも特に経験豊富なリーダーは、マーケターのメディア購入にどれくらいの付加価値をもたらせるかを主張するようになっている。メディアの調達は、適切に実施すればコスト削減以上に増収と認識を変えるためのツールとして機能しうる、それによって大きく業績を伸ばせるという主張だ。
「重要な点として、調達部門の影響力が増したことでバニティメトリクス(虚栄の指標)ではなく本当の品質を非常に重視するようになった。これによってとりわけデジタルメディアにおいて大幅な無駄の削減が可能になる」と指摘するのがデジタルメディアコンサル企業のデジタル・デシジョンズ(Digital Decisions)のCEO、ルーベン・シュラーズ氏だ。
メディアエージェンシーのハーツ&サイエンス(Hearts & Science)はここ数年間、1000インプレッションあたりのクオリティコストという指標を提唱しているが、これをクライアントの調達部門役員へ売り込んだ結果、採用する企業が増えた。同社はクライアントの調達チームに対し、競争力のある価格と効果的な広告のニーズのバランス改善のためのツールとしてこの指標を提案している。
「メディアエージェンシーには、調達部門との取り決めに基づくインセンティブの獲得方法に関する課題が多く残されている。とりわけ価格対効果に関連する課題は多い」と語るのがハーツ&サイエンスの最高データ責任者のメーガン・パリウカ氏だ。「クオリティCPMを導入することで、この関係性に変化が生じる。効率性を高め、無駄を削除できる指標だ」。
コスト以上の指標を目指して
エージェンシーにコスト削減を要求すると安いメディアを提供されるため、より幅広いビジネスニーズに応えることができないと理解している調達部門役員も存在する、と語るのが英国広告主協会ISBA会長のフィル・スミス氏だ。「成長したいのであれば節約すべきではない。業界全体で、成長に向けた取り組みの注目度は高まっている」と、スミス氏は語る。
これによって、調達部門役員がコスト削減をやめるわけではない。だが、これまでのようにマーケティングサービスで単一のコスト指標ばかりではなく、調達部門の役員とマーケターの双方が成功の度合いとして捉えうるような測定方法への採用が進んでいくのだ。マーケティングと調達部門の役員がそれぞれ組織内の別の箇所に報告しているような組織では、双方が同意できるような指標を見つけるのは容易ではないかもしれない。たとえばディアジオ(Diageo)のグローバルマーケティング調達チームはマーケティング部門に属しているが、ユニリーバ(Unilever)は今年、パーソナルケア、ホームケア、食品カテゴリごとに3つの独立したマーケティングチームを立ち上げている。
「調達分野には、エージェンシーの料金や時間あたりの料金、料金表などを重視しているリーダーもいまだに存在している」と指摘するのがWFA(世界広告主協会)のグローバルマーケティング調達マネージャーを務めるローラ・フォーセッティ氏だ。同氏は、個々のサービス提供者がビジネスにどう影響を及ぼすかよりも、コスト面で選ぶほうが容易だからだと指摘する。
「本当に重要なのは、ビジネス全体を俯瞰し、マーケティングやメディア支出をただの商品や前年度より削減できるコストではなくビジネスへの投資と捉え、その投資がもたらすリターンを高めて最適化しようと努めることだ」と、フォーセッティ氏は主張。「当協会のメンバーの大半はこれについて理解している。だがその実現方法を把握しているメンバーは限られる」。
慣れ親しんだ方法からはなかなか離れられない
調達がコストベースではなく価値ベースになるには、広告主はマーケティング予算だけでなく予算のパフォーマンスを測定しなければならない。たとえばアディダス(Adidas)はインフルエンサーでこの取り組みをはじめた。同社の調達部門役員がインフルエンサーのCM契約をまとめ慣れているのもそのためだ。もしこの重要なパフォーマンスデータがなければ、調達部門の役員は良くないとわかりつつも慣れ親しんだ方法に逆戻りしてしまうだろう。近年、アパートン・ワン(Aperton One)やティナ・フィージェント(Tina Fegent)など、こうした知識を提供するコンサル企業が台頭した。これらコンサル企業は、調達チームに向けて、エージェンシーやマーケティングサービス企業に尋ねるべき適切な質問に関するアドバイスを行っている。ほかにも、広告業務についてより良く理解するために自分たちで業務をこなす調達部門役員も存在する。
「昨年、マーケティングエージェンシーでコマーシャルディレクターとして半年間業務を行った。非常に大変な仕事だったよ」と、匿名のグローバル調達ディレクターは明かす。「流行の服を着て、コーヒーなんかを飲んでいる派手好きな人たち、というだけでないことはすぐに分かった」。
エージェンシー役員にとってこういったコメントは非常に嬉しいものだろう。だが、マーケターと同様に、調達部門役員も言動が一致しないのは珍しいことではない。
セブンスターズ(The7Stars)のメディアエージェンシースタートアップ、バウンティフル・カウ(Bountiful Cow)創設者、ヘンリー・ダグリシュ氏は「コストを削減して成長をより良いものに見せる以外に、成長を高めると見なされている調達手段を見たことがない」と言い切る。最近、同エージェンシーがピッチで大規模メディアネットワークと争うケースがあった。こういった場合、価格で競争するのは不可能だ。結果としてバウンティフル・カウはアカウントを獲得した。だが、ダグリシュ氏は大規模ネットワークエージェンシーの行動を見て、広告主にとってエージェンシーにかかるコストのほうが大事なのだと気づいたという。
ダグラシュ氏によると、この大規模エージェンシーはマージンの内訳について明確にする契約を拒否した。同エージェンシーがこの契約のさまざまな要素について異議を唱えたのを見たダグラシュ氏は、一部の広告主は自分たちの資金のマージンの内訳を把握できなくても気にしないことを思い知らされたという。「こうした調達担当役員にとっては、社内チームにエージェンシーへ2%のマージンを払うとだけ報告できるほうが、ビジネスケースとなりうる透明性のある5%のマージンよりもありがたいのだろう」。
Seb Joseph(原文 / 訳:SI Japan)