コンサルティング企業が密かにエージェンシーの縄張りを侵害していることは、競争がさらに増えることを意味する。エージェンシーのビジネスモデルは変更を迫られている。一方で、経営コンサルティング企業のプレゼンスが増すことで、プログラマティック広告の現状がどのように変わる可能性があるのかについてはあまり論じられていない。
彼らがやってくる。
経営コンサルティング企業が密かにエージェンシーの縄張りに侵攻していることは、デジタル広告界隈で長らく話題になってきた。なにしろ、アクセンチュア(Accenture)、デロイト(Deloitte)、IBM、KPMG、PwC(PricewaterhouseCoopers)といった眠れる巨人たちは、豊富なデータを伴う安定したインフラと、デジタルメディアサービス配信の強力な実績を誇り、経営幹部レベルのクライアントたちととても近い関係をもっている。仲介者も中抜き問題もない。少なくとも理論上はそうだ。
エージェンシーにとって、これは競争がさらに増えることを意味する。彼らのビジネスモデルはすでに変更を迫られている。一方で、経営コンサルティング企業のプレゼンスが増すことで、プログラマティック広告の現状がどのように変わる可能性があるのかについては、あまり論じられていない。CMOとCTOは一般にプログラマティックにより強い関心を抱いているので、進出する可能性は高い。
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今回は、プログラマティック広告について予想されることをいくつか挙げてみる。
プログラマティックの人材争奪戦が過熱する
経営コンサルティング企業は、それなりの分け前を求めるならば、独自にプログラマティックの人材を強化する必要がある。一例を挙げよう。アクセンチュアは最近、アミア・マリク氏の採用を決めた。同氏は現在、英国の全国紙グループであるトリニティー・ミラー(Trinity Mirror)でプログラマティックディレクターを務めている。マリク氏の役割は、公式にはさほど詳しく説明されていないが、アクセンチュア独自のトレーディングデスクのプレゼンス強化を主導することになるだろう。この例は、内製化アプローチを進めて自社でできることを拡大したいブランドにとって参考になる。そして、エージェンシーがブランドのバイイングを管理できないから、という理由を示すわけではない。
パブリッシャー、ブランド、エージェンシーのいずれにしても、プログラマティックの適切な人材を見つけるのは、近ごろ特に難しくなっている。パブリッシャーのあいだで最近もっとももてはやされている役職は、プログラマティックアナリストだ。彼らは複数のスキルを併せもつ人材で、かつては存在しなかった。
マリク氏はいち早く、プログラマティックアナリストの大規模チームを構築し、研修を実施。このチームは、同氏が所属していた地方パブリッシャーのローカルワールド(LocalWorld)でスタートしたが、買収によりトリニティー・ミラーに引き継がれた。同じことが、今度はアクセンチュアで繰り返されるだろう。
暗部のマネジメント?
経営コンサルティング企業にとって、サプライチェーンマネジメントはお馴染みの分野だ。したがって、彼らが将来デジタルメディアのサプライチェーンに斬り込んでもなんら意外ではない。取り組む問題は山積しており、不正、ブランドセーフティ、ビューアビリティ(可視性)、隠れた技術費、マージンなど。もちろん、これらの問題が解決する可能性は低い。
「コンサルティング企業の透明性は、エージェンシー内部のトレーディングデスクよりも改善されるだろうか? 私は疑わしいと思う。それに、内部の技術構築コストをまかなう必要があるため、マージンは実のところ、減少ではなく増加する気がする」と、インパクト・ラディアス(Impact Radius)のコミュニケーション担当ディレクター、ジュリア・スミス氏は予想。
たとえば、アクセンチュアやデロイトなどが、第3者のツールを利用するのか、社内チームを徹底的に構築した上でアップネクサス(AppNexus)のようなプラットフォームを使うのか、どのような計画なのかはまだはっきりしていない。「もしそのような場合になれば、エージェンシーのトレーディングデスク、デマンドサイドとサプライサイド、データマネジメントプラットフォームなどに現在支払われているかなりの割合の予算は支払われなくなるだろう」と、スミス氏は語った。
複数の広告幹部に共通する悩みの種はまだある。経営コンサルティング企業がプログラマティックに参入するとすれば、利益相反に対処することが必要になるからだ。
「こうしたコンサルティング企業は、一方ではブランドのメディア支出を監査していて、その情報、データ、価格、進行状況などをすべて入手している。他方では、メディア業務(プログラマティック広告)の立ち上げを進めている。これは完全に利益相反だ」と、匿名希望の広告シニア幹部は指摘する。
エージェンシーを飲み込むつもりはない(今のところは)
アクセンチュアとPwCの最高幹部らは、エージェンシー独自のトレーディングデスクをつくる計画はないことを明言。その代わり、彼らが構想しているのは、クライアントが顧客データの活用を改善できるような支援に集中して、社内のトレーディングデスクを構築することだ。これは、長期的にはチャンスがある話かもしれないが、いまのところ、エージェンシーを必要以上に怒らせたいコンサルティング企業はいないだろう。特に英国市場では、エージェンシーの影響力がまだ大きい。
「コンサルティング企業は、デジタルサービスやメディアサービスに幅広く進出できるいい位置につけている。プログラマティック技術の仕組みは彼らにとって好都合であり、既存のトラディッショナルメディアの買い付けよりも、より高度な技術を推進できる」と、あるメディアエージェンシーのデジタル責任者は指摘する。「このオークションでは本質的に、誰でも競ることが可能だ。よりよい技術を構築するか、すでにあるものをパッケージ化できれば、ただちに競争できるようになる。従来のメディアでは無理だったことだ」と、このデジタル責任者は付け加えた。
Jessica Davies (原文 / 訳:ガリレオ)
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