広告業界の長時間労働常態化は、いまに始まったことではない。だが、昨年の大手広告代理店の過重労働問題が世間を騒がせた結果、働き方の改革が強く求められている。しかし技術の進化にも関わらず、担当者の長時間労働は続いている。そんな現状に対して提案する、AOLプラットフォームズ・ジャパン株式会社小西雄一郎氏の寄稿コラム。
本記事は、AOLプラットフォームズ・ジャパン株式会社にて、自社DSPのオペレーションや広告最適化のためのコンサルティングを行う、小西雄一郎氏による寄稿コラムとなります。
広告業界の長時間労働常態化は、いまに始まったことではない。だが、昨年の大手広告代理店の過重労働問題が世間を騒がせた結果、働き方の改革が強く求められている。
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なかでもインターネット広告業界では、アドテクノロジーの進化とともに運用型広告が市場を席巻しつつある。すでに純広告と呼ばれる枠売り予約型広告のシェアよりも、運用型広告のシェアの方が大きいのは周知の事実だ。しかし技術が進化しているにも関わらず、日本では担当者の長時間労働が続いているという現状がある。
「運用型広告」の落し穴
なぜなら、まだまだ人的オペレーションに依存しているためだ。とにかく作業量が多い。運用型広告を扱う広告代理店等が、子会社や地方にオペレーションのみを行う拠点を立ち上げ、人員増加を図っているほどである。
ディスプレイ広告ではすでに自動入札が標準装備され、以前と比べて入札調整作業に時間はかからなくなった。だが、オペレーションに時間を取られる理由は、まだほかにある。設定した目標を達成するため「いかに細かく配信設計できるか」を重視し、最初から細かいターゲティング設計やトラッキングにこだわりすぎるというケースが、まだまだ多いことだ。
その理由には、広告配信を細かく分けて管理し運用することで、パフォーマンスの良いセグメントが「運用者にとって」分かりやすいということが挙げられる。クリエイティブ、時間帯、リーセンシーなどのABテストをして、パフォーマンスが悪い広告セグメントを止める。また、パフォーマンスが良い広告セグメントは露出を拡大していく。この作業にどれだけ人の手をかけられるか、運用できるかということを重視するのが「運用型広告」と言われる所以だ。
場合によってはうまくいく。とはいえ、人間の主観で制約を与えて広告を配信した結果、パフォーマンスが出ず、広告配信を停止するしか選択肢が無くなってしまうケースもある。
セグメント分けの弊害
SEMで数万のセグメントグループを作ったように、ディスプレイでは配信面×オーディエンス×クリエイティブ×除外ユーザー設定×デバイス×時間帯……と、いかに細かく設計できるかが重要、とする傾向が見られる。加えてリターゲティングにおいてはダイナミック広告の配信が主流になり、商品フィードデータの管理も加わってきている。
広告効果測定ツールを導入している場合は、クリエイティブ単位×配信手法単位×……と何千、何万のトラッキングURLを設定し、管理するケースもあるだろう。複雑化する構造に人的オペレーションが追い付かない。現に私も体験してきたひとりである。
広告主への報告がしやすいという点も理由のひとつではないだろうか。セグメントを明確に分けると、セグメントごとのパフォーマンスについて説明しやすいからである。当然ながら報告レポートもさまざまな視点での抽出が必要となり、ますます複雑で手間がかかる状況になっている。これは、広告主側の社内で報告を受ける関係者が、複雑な配信内容を理解するのに時間を取られるといった弊害をも生むことになる。
さらに、こうした問題を解決するためにレポート作成支援ツールが登場しているが、運用者にとっては複数のUIを操作管理しなければならない別の苦しみが生まれる事態となっている。人間が管理する能力には限界があり、許容範囲を超えれば人為的なミスが起こりやすくなるのは、当然の流れだろう。
機械学習という解決策
こうしたなか、広告を配信エンジンの機械学習に任せる「オートクルーズ」という手法でパフォーマンスが上がったという事例が徐々に増えてきている。「オートクルーズ」は、広告パフォーマンスに大きな影響を与える指標を網羅し、人では管理しきれない途方もない数の組み合わせに対して配信結果を学習しながら最適化することによって、人による運用よりもパフォーマンスの良い組み合わせを効率的に見つけることができるという考え方だ。
機械学習の仕組みを理解してコントロールすることにより、人的オペレーションを減らしても、セグメントを細かく設定した場合と同等、またはそれ以上の広告パフォーマンスを出すことができる。事例も増えてきており、広告運用の複雑化に悩んでいる広告主には、試してみることをおすすめする。
広告運用を請け負う広告代理店にとっても、過度な人的オペレーションを軽減する「オートクルーズ」は、労働時間の短縮及び労働生産性の向上に直結するというメリットがある。
働き方改革をテクノロジーで
ディスプレイ広告で配信するクリエイティブにおいても自動最適化が進んでいる。最適化のために大量のパターン数のクリエイティブを入稿、管理し、ABテストをこまめに実施するケースはまだまだ多いが、Googleレスポンシブ広告に代表されるように、クリエイティブの生成もUI上で簡単にできるようになった。
バナーの過度な量産、大量入稿、管理に時間を割く必要が無くなる日も近い。
働き方の改革が求められるいま、労働生産性の高い運用者、広告代理店及び新しいテクノロジーの導入に理解のある広告主が、広告パフォーマンスを出せる時代が早々に来るだろう。
Written by 小西雄一郎
Photo by GettyImage