Alexa(アレクサ)のほか、Siri(シリ)、Watson(ワトソン)を利用した音声サービスが消費者の日常生活に浸透しはじめた。そんななか、エージェンシーはクライアントのために、音声プラットフォームへの投資を大幅に増やし、これらを介した実用的なサービスを提供することをめざしている。
音声アシストを介したピザの注文など、もはや大したことではない。近いうちに、Amazonの音声認識プラットフォーム Alexa(アレクサ)を使って、次の生理の相談さえできるようになるだろう。
デジタルエージェンシーのレイン(Rain)は、ニカラグアのオフィスで4月上旬の2日間、スタッフと地元の開発者を対象としたハッカソンを開催した。テーマは音声テクノロジーの利用について。このイベントで開発されたAlexaのスキル(Alexaにおけるアプリ)のひとつが、女性が妊娠の計画を立てるのに役立つ生理カレンダーだ。
こうした取り組みを行っているのはレインだけではない。AlexaのほかSiri(シリ)、Cortana(コルタナ)、Watson(ワトソン)を利用した音声サービスが消費者の日常生活に入り込むなか、エージェンシーはクライアントのために、音声認識プラットフォームへの投資を大幅に増やし、これらを介した実用的なサービスの提供をめざしている。
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興味津々なクライアント
音声技術の未来に賭けるエージェンシーは、レイン、マクサス(Maxus)、ヒュージ(Huge)、 ウィーアーソーシャル(We Are Social)、クリスピン・ポーター+ボガスキー(Crispin Porter + Bogusky:以下CP+B)など。各社の取り組みは、社内導入の奨励から、ハッカソンの開催、自社技術の従業員への周知までさまざまだ。ただし、派手な新しいことを追い求めているのではない、と彼らは口を揃える。
「音声アシスタントはまだ、アーリーアダプターの好奇心の対象に過ぎないという程度だが、クライアントがその好奇心を気にかけている限り、この分野の発展は進行していく」と、CP+Bのロサンゼルス支社でエグゼクティブクリエイティブテクノロジーディレクターを務めるコーリー・ショピンスキー氏は語る。
マクサスのイノベーション担当ディレクター、トム・ケルショー氏も、クライアントは非常に高い関心を抱いていると主張。とりわけ、Amazonとの関係が深いクライアントにその傾向が強いのは、ユーザーの買い物の手間を減らせるからだ。「だが、音声アシスタントにかける予算は少ないのが現状。ごく安価で容易に実験できるためだ」と、ケルショー氏は明かした。
レインにおける取り組み事例
レインは2015年、Amazonのスピーカー型音声アシスタントデバイス、Echo(エコー)でキャンベルスープ(Campbell Soup)のレシピを利用できるライブラリを発表。それ以来、音声テクノロジーの分野に多大な注力を注いできた。これまでに、さまざまなクライアント向けにEchoのスキルを開発してきたほか、リバーブ(Reverb)というスマートフォン向けアプリも開発。このアプリでは、EchoのオーナーでなくてもAlexaを利用できる。
ごく最近では、音声利用をテーマとしたハッカソンを開催し、そこで生まれたプロジェクトのうち4つをAmazonに送った。そのなかには、前述の生理カレンダーのほか、公共交通機関を利用する際の条件を比較できるスキルもある。
「『学んでから教えて、繰り返す』という考え方は、レインの企業文化の一部だ」と、同社の創業パートナーであるアンドリュー・ハウレット氏は語る。「ほかの人に教えることで、自分自身の技能と専門知識も向上する」。
各エージェンシーでも続々と
マクサスでは、ケルショー氏がAmazonのオフィス向け音声デバイス、Echo Dot(エコー・ドット)を自分のデスクに置き、スタッフに試してみるよう勧めている。また、社内イベントで定期的にスキルを実験しているほか、専門家を講師に招いて従業員の知見を高めている。
ヒュージは、新興技術全般の応用学習を奨励するため、ハッカソンを定期的に開催。また、会話を介したユーザー体験や音声インターフェースに特化したハッカソンも一度開催した。そうしたプロジェクトの一例として、マーケターが音声を介して関連性の高いマーケティング統計データを入手できるよう開発されたAlexaのスキルがある。
一方、エージェンシーのワンダーソース(Wondersauce)は、技術パートナーとの関係構築を専門とする小規模なチームを編成し、APIに取り組んだり、ハッカソンや会合に参加したりした。このチームは、クライアントの役に立つ現実的な利用事例をエージェンシーのスタッフに教える役割も担う。
ウィーアーソーシャルやCP+Bといったほかのエージェンシーも、音声アシスタントに本格的に投資し、従業員の研修会を頻繁に開催。また、音声テクノロジーを手がけた経験があるUXデザイナーを筆頭に、新たな人材も採用している。ウィーアーソーシャルは2016年12月、Echo向けに独自のデイリーニュース配信を開始し、マーケティング分野の最新ニュース要約版を顧客に提供してきた。
音声サービスの現状と未来
ブランドが関わった音声サービスもある。CP+Bとドミノ・ピザ(Domino’s Pizza)が開発したピザ注文用スキルや、エージェンシーのベイナーメディア(Vaynermedia)とスコッチウイスキーの「ジョニーウォーカー(Johnnie Walker)」が開発したカクテルレシピのスキルなどだ。これらの多くは、いまのところ見かけ倒しのように感じられる。だが、レインのハウレット氏は、この技術が成熟し、真の潜在能力を開発者が引き出すようになれば、実用的なサービスが生まれると予想する。
「『iPhone』の初期のアプリストアを思い出すといい。大半のアプリが見掛け倒しで、くだらないものだった」と、ハウレット氏は指摘する。「だが、音声テクノロジーの精度と効率が引き続き向上することで、ブランドが消費者のために実用的なインタラクションを開発する機会が広がる。その結果、収益機会もあとに続くだろう」。
音声テクノロジーが将来とりわけ大きな影響を及ぼすのは、まず自動車業界だ。それから、ジオロケーション、地図、決済といったサードパーティー製アプリの統合にも影響するだろう。「我々はすでに、こうした分野のいくつかに取り組んでいる。消費者が道路状況から目を離さずに、どんなことができるか、いまから楽しみだ」と、ハウレット氏は語った。
Tanya Dua(原文 / 訳:ガリレオ)