2016年4月に発表された、アクセンチュア株式会社(以下、アクセンチュア)による株式会社アイ・エム・ジェイ(以下、IMJ)の株式過半取得。その後、3カ月の時間をかけて、株式過半取得は完了。両社の協業は、この夏から本格化していく。まったく出自の異なる両社の協業=結婚は、いかにとり行われ、運営されていくのか?
IMJの上席執行役員兼CEOの竹内真二氏と、アクセンチュア インタラクティブ統括 マネジング・ディレクターの黒川 順一郎氏に、今回の経緯や協業のプロセス、そして業界内で目指す価値について語ってもらった。
エージェンシー業界の統合と再編は、もはや対岸の火事ではない。
企業のデジタル化が進み、ビジネスをエンドトゥーエンドで見直す必要が出てきたことに、端を発するこの動き。昨年までは、国外におけるニュースが大半だったが、年明け以降、国内でも矢継ぎ早に大きなニュースが相次いでいる。
そのひとつが、2016年4月に発表された、アクセンチュア株式会社(以下、アクセンチュア)による株式会社アイ・エム・ジェイ(以下、IMJ)の株式過半取得だ。
いかに協業するのか?
かたや、世界120カ国にビジネスを展開し、社員数37万人を超えるグローバルなコンサルティング企業。もう一方は、国内において20年以上、最先端のデジタルソリューションを提供してきたデジタルマーケティング企業だ。発表当時、両社による新しいパートナーシップの構築は、大きな驚きと期待をもって報じられた。
その後、3カ月の時間をかけて、アクセンチュアによるIMJの株式過半取得は完了。両社の協業は、この夏から本格化していく。
しかし、「見た目から変えていくのではなく、まずは実務レベルでの融合を進めている」と、IMJのCEO(最高経営責任者)竹内真二氏。また、実際の協業を行う、アクセンチュアのデジタルマーケティング部門、アクセンチュア インタラクティブを統括するマネジング・ディレクターの黒川順一郎氏も、「よくあるM&Aではなく、もっと近い感覚での融合、『結婚』に近い感じだ」と語る。
まったく出自の異なる両社の協業=結婚は、いかにとり行われ、運営されていくのか?
競合より前に進めた
ここ数年大きな流れとなっていた、コンサルティング企業や会計企業による、エージェンシー業界への参入。しかし、本格的な協業体制を確立する今回のケースは、国内においてはほとんど例を見ない。そこで、まず気になるのは、双方の社員の反応だ。IMJの竹内氏に、それを問うと、「多くの社員は協業後の変化について、楽しみにしている。好意的な意識をもっているようだ」という。
「もしIMJではない、ライバルエージェンシーがアクセンチュアと組んでいたら、常に動きを気にすることになっていただろうと思う」と、竹内氏は続ける。「我々は、競合から2歩も3歩も前に進めた。社員たちは、今後そういう環境でキャリアを積んでいけることの価値を感じてくれている」。

「両社の社員全体で共通認識をもつことを大事にした」と竹内氏。
IMJ社内では4月の発表後、社員とミーティングを何度も行い、あえてアクセンチュアの黒川氏から話しかける機会をたびたび設けた。協業によって、仕事の幅が大きく広がること、それによって新しいスキルセットを身につけることで、結果的に個人のキャリアに活きることを、社員に伝え続けた結果だ。
共有している方向性
一方、アクセンチュア社内の反応は、当初、「何をしていくのかよく分かっていなかった感じがあった」と、黒川氏は語る。なぜなら、巨大な母体とは異なり、アクセンチュア インタラクティブ自体は数百人規模の組織のため、600人を擁するIMJの方が圧倒的に大きいからだ。「どうなってしまうのかと不安に思う社員もいたようだ」と、黒川氏は振り返る。だが、その後、結構な頻度で双方の社員が交わっていくなかで、それも杞憂だったことを知ったという。
「双方、社員のモチベーションや性格が似ている。だから、融合しやすいはずだ」と、黒川氏。「さらに、IMJ社員のプレゼンテーション能力はスゴい。双方の社員が参加した総会でのプレゼンテーションを見て、なかなかアクセンチュア社員にはないスキルだと思った。そういう刺激も含め、社員同士の雰囲気は、実際とてもいい」。
クライアントが望んでいることへ真摯に向きあったとき、アクセンチュア社員はIMJ社員と組めば、さらにいろいろなことが出来る。そんな状況が構築されたことで、双方の社員とも同じ方向性を共有していることを黒川氏は確信した。それは、デジタルで一気通貫したサービスを構築するために、クライアントやユーザーなど「幸せにしなければいけないレイヤーがいくつもある」ということだ。
パーフェクトな組合せ
また、社外からの反応についても、非常にポジティブなものが多かったと、竹内氏は振り返る。「クライアントからしてみたら、まさに頼める仕事の幅が広がるということで、好意的な反応しかなかった」。
アクセンチュアの黒川氏も「アクセンチュアだけで活動していたときは、声がかからなかった仕事の依頼が、協業の発表以降は『両社の組み合わせだから』と声がかかる」と、付け加える。「一番象徴的な言葉は、『パーフェクトな組合せ』といわれたことだ」。

「顧客ニーズの変化に応えるとき、IMJとの協業が一番自然だった」と黒川氏。
今回の協業は日本初の取り組みであり、2社でクライアントが求めるニーズのほぼすべてをカバー出来るようになったと自信をもっている。クライアントとの会話のなかでも、その期待は大きいようだ。
あえて一緒にしてない
すでに開始されている協業体制の構築について、苦労した点は特になかったと、竹内氏は語る。しかし、新社名や新しい共同の社屋といった双方の社員が環境面で融合するかどうかという点は検討段階なのだそうだ。とはいえ、すでに双方の社員はプロジェクトごとに物理的に近くで仕事をしている。「苦労した点は特にないが、システムや仕事のやり方について、合わせていくべきものと、別でいいものを明確にしていった」。
また、竹内氏が今回発見したことは、アクセンチュアの仕事がかつてのIMJの仕事と比べると、まったく規模が違ったということだ。「我々の力を合わせれば、もっといろいろできる」と、竹内氏。「アクセンチュアはトレーニングの機会がしっかりしている。スキルを磨きたい社員にとって、良い環境がすでにあった。彼らがもともと培ってきた仕組みのなかでの合理的なやり方、システム、評価、組織、チーム編成の仕方が、すごく勉強になる」。
黒川氏も同様に、協業における組織運営について先を見据えているという。「一足飛びにすべてを融合させてしまいたいと、たまに考える。だが、双方の社員のモチベーションを維持しながら自然とあるべき形にもっていくのが良いので、強引に組織や仕組みを融合し、それありきで進めるのはこのケースにそぐわないと思う。そのちょっとした逡巡が、今回の協業における苦労といえるかもしれない」と笑った。
協業することの意味
デジタルマーケティングの領域は、単なるマーケティング活動にとどまらず、役員や経営者の判断を要するような課題解決を求めるニーズが増えてきた。クライアント側の要望が変革してきたなかで、そのニーズに応えるためには複合的なスキルを組合せないといけない。しかも、そのニーズは、クライアントの文脈のなかで短期間で劇的に変わることもある。
これまで、IMJの対応領域はサイトおよび、その運用システムを構築するところまでだった。つまり、その後に必要となるクライアントの社内組織を、どう設計すれば良いのかというニーズに対して、同社のノウハウでは充分に対応できないもどかしさがあったと、竹内氏は語る。「組織論や経営のアジェンダの整理の手伝いができるサービスが必要だと強く感じた」。
一方で黒川氏も、コンサルティングとしてクライアントの課題を解決し、成功へ導くことにフォーカスしたとき、デジタルもカバーしないと、要望に応えることが出来ないと判断。そこで、IMJと協力することを選んだという。「マーケティングアジェンダから経営のアジェンダにシフトしてきている。コンサルが入ってくるということは、つまり経営の部分への介入が必要になってきたということではと思う」。
いま求める人材とは?
そうした背景を踏まえ、デジタル事業の伸び率は著しい。たとえば、アクセンチュアにおいても2015年の第4四半期、グローバル・デジタル・エクスペリエンス・サービス・プロバイダー(global digital experience service providers)として、米広告関連メディア「アドバタイジングエイジ(Advertising Age)」のランキングでトップを獲得している。
「我々がその領域に進出してから、アクセンチュア全体の売上において、デジタルの増加率が圧倒的だ。社内でも、アクセンチュア インタラクティブ事業の伸び率がトップになっているのは、クライアントの要望を反映した結果だと見ている」と黒川氏。「このスピード感では、ゆっくり人を育てる採用方法では間に合わない。しかも、アクセンチュア インタラクティブに必要な人材のタイプはクリエイティブ、マーケティングなど多岐に渡る。そういうわけで、今回の協業はいくつかある選択肢のなかでも、一番自然な選択だった」。
竹内氏も、いまは人が必要だと話す。「スキルセットが個別に異なるのは当然だ。一番重視しているのは、新しいことに対してワクワクでできること。入社時点でのスキルの高さはあまり重視していない」。デジタルマーケティングの領域は、いまだ未踏のジャングルだ。まさに新しい産業革命といえる。「そういう変革を楽しめる人であれば、ぜひ門を叩いて欲しい」。
今後のデジタルビジョン
この春、大手代理店の名を冠したデジタル特化型企業の新規設立が相次いだ。いままで、マスを相手にビジネスを行ってきた彼らであっても、デジタルに対するニーズが大きくなっていることの表れだろう。そんな、一見ライバルとの差別化について問うと、黒川氏はもともと収益構造が違うと主張した。企業変革そのものを目指すか、メディアを売るビジネスか、というビジネスの違いがあるという。
「彼らがコンサルに特化するといっても、それが対決する形になるとは思わない。なぜなら、考え方も違うし、なかにいる人も違うから。確かにコンペで競合することもあるかもしれないが、案件によっては協業することもあるだろう。それに、そもそも提供するソリューションが違うため、あまり意識したことはない」。
敵対すべきライバルとして捉えていないのは竹内氏も同様だ。「スティーブ・ジョブスがいったように、『好きな女の子に対して、ライバルが花を10本送ったら、お前は15本送るのか?』ということだ。差別化を意識しているわけではなく、顧客の課題解決のためのケイパビリティを持ちたいだけ」。
今後数年で、両社が目指す姿は、クライアントのビジネストランスフォーメーションを促せる企業だと、竹内氏は語る。「デジタルにとらわれず、クライアントのビジネスをグローバルスケールで変革するお手伝いができるようになりたい。『我々のチームと組まないと、デジタルマーケティングの世界最先端のことはできない』というような集団になっていたいと思う」。
▼竹内真二氏(左) カリフォルニア州Claremont McKenna College卒業後、日本に帰国。リーマン・ブラザーズ証券会社、モルガン・スタンレー証券株式会社を経て、2012年6月、株式会社アイ・エム・ジェイ入社。2013年より取締役CFO、代表取締役兼CEOを経て、2016年7月より上席執行役員社長兼CEOに就任。
▼黒川 順一郎氏(右) アクセンチュア株式会社 デジタルコンサルティング本部 アクセンチュア インタラクティブ統括 マネジング・ディレクター。早稲田大学卒業後、国内SIerを経てアクセンチュアに入社。業界を横断し、多数の企業に対するIT戦略、デジタル戦略、デジタルマーケティング戦略、顧客体験/サービスデザインを中心としたコンサルティングサービスに従事。
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Written by DIGIDAY[日本版] 広告制作チーム
Photo by 渡部幸和