ブランド名ではもう売れない、「ミレニアル世代」攻略法:重要なのはマイクロコミュニケーション

本記事は、マッキャン・ワールドグループ傘下のマーケティングコミュニケーションエージェンシーであるモメンタム ジャパン(Momentum Japan)の顧文瑜(こ・ふみゆ)氏による寄稿です。

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7月9日~12日、アジア最大級のインターネットカンファレンス「RISE(ライズ)」が、香港で開催されました。日本では、あまりピンと来ないかもしれませんが、RISEは、ひと言で表すならば、「アジアマーケットに売り込みたい、世界またアジアのスタートアップが一同に会する、スタートアップの饗宴」といったところ。

広告会社といえば、カンヌライオンズやADFEST(アドフェスト)などの広告祭を思い浮かべる方が大多数でしょう。しかし、今回はあえてスタートアップへの視察に行って来ました。そこで出会ったのは近いうちに訪れるであろう、「半歩先の未来」でした。RISEで実際に出会った画期的なサービスを紹介しつつ、ちょっと先の、「半歩先の未来」をご案内します。

「リモート国家」の実現

晴天の霹靂だったサービスが「Vegan Nation(ビーガンネーション)」という、ビーガン(卵や乳製品などを含む、動物性食品を一切口にしない完全菜食主義者)のためのプラットフォームです。なにが画期的かと言うと、Vegan Nationでは仮想通貨を持ち、独自の経済圏を形成しているということ。

インターネットやSNSが活発な時代に、物理的な距離や国境の意味はどんどん薄れています。これまで同じ考えを持つ人たちは、かつてはmixiの掲示板で、いまではFacebookのグループで情報をシェアします。もし、そこに経済活動を発生させれば、ひとつの社会が生まれます。そして、いまでは仮想通貨という形でそれが実現可能なのです。国境に左右されることなく、仮想通貨によって「リモート国家」を実現させたのが、Vegan Nationと言えます。

Vegan Nationが発行する仮想通貨「Vegan Coin」

仮想通貨「Vegan Coin」をはじめとして、さまざまなプラットフォームを展開するVegan Nation

同社の創業者は、「ビーガンは全世界に散らばっていて、身近に同じ考えを持つ人を見つけることは難しい。とくにアジア圏ならなおさらだ。ならば、国境や物理的距離は一度とっぱらって、ひとつの経済圏を持つ、仮想コミュニティを実現させよう。そして、ビーガンというひとつのライフスタイルを持つ人たち同士で繋がろう、という大胆な試みに挑んだ」と、語っています。

Vegan Nationの例を考えてみると、ひとつの国境で区切られた物理的な国家のなかに、思想で繋がっている社会がいくつも存在する、そんな未来が到来してもおかしくないと、予感させます。同じ考えを持つ人同士が、独自の経済圏を持ち、リモート国家を作る。思想やライフスタイルで繋がる未来が、すでに実現しつつあります。

DNAとは究極のカスタマイゼーション情報

さらに、驚いたのがDNAを活用したビジネスの一般化です。簡単なDNA診断は日本でも見かけますが、実際にそれがどう応用されていくのか、あまり想像できませんでした。しかし、RISEの会場ではDNAの情報をもとに、特定の個人に完璧にマッチしたフィットネスのメニューや化粧品、さらには教育カリキュラムまで提供するという会社にいくつも遭遇…。

DNAを活用したプロダクト

個人のDNA情報をもとに、サプリメントや化粧品をカスタマイズするサービス

このように、DNAという「個人そのものを表す情報」に簡単にアクセスでき、またその情報をもとにカスタムプロダクトが作れてしまう時代が、すぐそこまで来ています。そんな時代に、もはや機能やスペック、技術がどれほどの意味を持つのでしょうか。「最新の美白化粧品です」と銘打っても、「いや、その化粧品の成分は、私のDNAにはマッチしないので結構です」と返されたら、どんなビッグブランドでも、ぐうの音も出ませんよね。

フラット化する世界

国境に左右されず、独自の経済圏を持つ「リモート国家」が存在すること、そしてDNAという「1:One」を表す情報にアクセスしながら、サービスが展開されている現実を目の当たりにして、「世界はどんどんフラット化していく」ことを強く感じました。それはインターネットやSNSが登場したときから言われていることですが、それがより明確に、具体的に実現されつつあるのです。

こういった流れは、ミレニアル世代(以下、ミレニアルズ)が持つ価値観と非常にフィットしていると感じています。

ミレニアルズが持つ価値観とは、「フラットな価値観」。

「好きなことで、生きていく」は、いまのYouTubeタグラインですが、これはミレニアルズの価値観をダイレクトに反映しています。一軒家を持ち、家族がいて、いい車に乗って…といった典型的な幸せのイメージはもはや機能せず、それぞれが描く幸せを求める。このような価値観のなかでは、伝統的な社会ヒエラルキーや滅私奉公という概念は、悪しき風習でしかありません。

生存戦略には、ハイビジョンなビジョン

そんなフラットな世界の住人であるミレニアルズに、ブランドやエージェンシーにはどのようなアプローチが必要なのでしょうか。

日本企業では、経営理念が、抽象的すぎることがよくあります。それでも、これまでは有名ブランドというだけで通用してきましたが、それが機能しなくなる日がやってきます。なぜなら、モノそのものに意味がない時代が来るからです。

そんな時代において必要なのは、解像度の高い「ハイビジョンなビジョン」を掲げるブランドの存在です。何をミッションとして、何を成し遂げるのか。そのビジョンを正統性と具体性を持って言えることが、これからのブランドの生存戦略なのです。

ヒューマニティに訴えかける

繰り返しになりますが、ブランドが「to1」の情報にアクセスしながらサービスを展開していく未来では、ブランド名だけでものは売れず、サービスは機能しなくなります。このような時代では、全員の最大公約数をとるマスではなく、「らしさ」やヒューマニティをきちんとすくい上げたマイクロコミュニケーションこそ重要になってきます。

「あなたのことをちゃんと理解していますよ」と、まるでラジオの前のリスナ一人ひとりに語り掛けるようなコミュニケーションが、これからより重要になっていきます。
 
RISEで感じた、「フラットな世界の到来」。この世界では、ミレニアルズたちが居心地良さそうに生きていることでしょう。彼らの攻略法は、なかなか一筋縄にはいきません。けれど、この世代を理解し、何とかアプローチしようともがくことこそが、ブランドの価値観や、コミュニケーションそのものを、生まれ変わらせることに繋がるのかもしれません。

Written by Fumiyu Ko; Momentum Japan
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