「生活者発想 ✕ テクノロジーが データドリブンマーケティング を未来へ導く」: 博報堂 執行役員・安藤元博氏

データを制するものがマーケティングを制す。そう言い切ってもいい時代に突入した2018年、かねてより独自の「生活者DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)」で200社あまりの企業を支援してきた実績をもつ博報堂DYグループが、さらなる攻勢をかけている。

日経新聞本紙でも報じられたとおり、博報堂DYホールディングスは5月25日、各種の生活者データおよび社会データを広く安全に利活用するための「データ・エクスチェンジ・プラットフォーム」の構築を目指し、その設立準備室の設置を発表。続いて7月、市場の創造から顧客の育成までを一気通貫で実現するソリューション群「生活者DATA WORKS™」(登録商標出願中)も発表した。

博報堂DYグループのデータ関連事業を率いる、博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ執行役員 エグゼクティブマーケティングディレクターの安藤元博氏は、データドリブンマーケティングにおける現状の課題を「施策の分断、データの分断、データ連携時の安全性」と、3つにひも解く。一連の同社の動きは、これらに応えるものだという。

「市場の創造とは、新たな価値の創造。それは生活者にとって幸せなものでなければならない」と、安藤氏は語る。自社のDNAとして掲げる「生活者発想」の概念に基づき、生活者と企業とメディアのトリプルウィンが成立する世界を目指す博報堂DYグループの最先端に迫った。

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——博報堂DYグループのデータ関連のニュースが相次いでいます。

もともと博報堂DYグループは「“生活者データ・ドリブン”マーケティング」というコンセプトのもと、2014年に「生活者DMP」の構築を開始し、この4年間で200社あまりの企業のマーケティングを支援してきました。直近で発表した「データ・エクスチェンジ・プラットフォーム設立準備室」や、さまざまなソリューションを束ねつつ一貫した体系として新たに開発した「生活者DATA WORKS」は、これまでの活動の発展形です。4年間の実績を踏まえて、さらに次のステージへ進んだところといえます。

——「生活者DMP」自体、相当のデータ量がありますよね?

はい、国内最大規模のデータプラットフォームと自負しています。数千万規模となる各種の購買データ、100万台以上規模のテレビ視聴ログ、月間約4.8億UBのCookieログ、約9000万のIDFA/ADID、さらに検索データや調査データなどを統合した、大規模なIDベースのデータ基盤を構築しています。

これを単独で活用することもできますし、企業が保有するデータプラットフォーム、最近ではCDP(Customer Data Platform)とも呼ばれていますが、そうした一次情報と私たちが保有する生活者データを掛け合わせることで、潜在的なニーズやポテンシャルユーザーのペルソナまでをより鮮明に捉え、事業の成長につなげることもできます。

私たちはデータの種類・質・量だけでなく、その統合・解析はもちろん、それを用いて市場・顧客のインサイトを読み解き、戦略と戦術を導き出せる数百名のエキスパートからなる専門チームをもっています。それらを活用して、4年間で数多くの“生活者データ・ドリブン”マーケティングの実践事例を積み重ねてきました。

「博報堂DYグループのデータ戦略は、さらに次のステージへ進んだ」

「博報堂DYグループのデータ戦略は、さらに次のステージへ進んだ」

——その間、データ活用を本格化する企業も増えてきました。

そうですね、特にこの1、2年で急速に広がった感はあります。取得できるデータの種類や量も増え続けているので、その点は追い風といえます。ですが、どの企業でも順調に進展しているかというと必ずしもそうではなく、やはり現場ではいくつかの課題に直面しているという声をよく耳にします。

それは主に「施策の分断/データの分断/安全性」の3つです。

データドリブンマーケティングは、データが取得しやすいオンラインの行動データをソースに展開されがちであるため、施策もデジタルに偏りがちです。が、当然ほとんどの業種でマス広告や店頭、販促イベントなどオフライン施策のほうが大きく、オンラインとオフラインの施策が互いに独立して動きがちであるという、施策の分断が起きています。また、特にオンラインでアクチュアルデータが施策の精緻な改善にいかされたとしても、礎となる戦略はいまだにアンケート調査や従来ながらの市場分析がベースになっているために、戦略立案と施策も分断されています。

次の課題は、データの活用に際して、世の中にあるさまざまな第三者データと必ずしも十分に連携できないことです。もちろん、自社の顧客データを整備することは可能です。しかし、自社顧客データはCRMには役立っても、マーケット全体を俯瞰できるデータではないので、新たな市場や顧客の創造の拠り所としては不十分です。一方、世の中には有益かつ大量な第三者データがさまざまに存在し、これを統合的に活用することができれば生活者の全体像をつかめるはずなのですが、現実にはいま、それらのデータの多くは分断されてしまっている。これが大きなハードルとなっています。

——3つ目の「安全性」は、その連携の話に通じますか?

そうなります。2つ以上の有力なデータ間の連携を考える際、安全性の問題は不可避です。加えてこの数年で、生活者の側も「自分のデータがどう使われるのか」「個人情報は守られるのか」と、企業のデータ活用に対する懸念が大きくなっています。

総じて、データドリブンマーケティングの必要性自体は十分に認識され、実行する機運は高まっているものの、課題がいくつもあるので進まないという状況がありました。データ連携の構想や協業の座組みは作れても、本当に実現することは難しい。私たちも2014年の時点でこうした課題を認識はしていましたが、最初から解決策のすべてを準備できていたわけではなく、クライアント企業の皆様の課題に寄り添い実践しながら、技術を磨き、知見を蓄積して、今回の発表に至ったわけです。

——いま、まさに構想が実現可能の段階になった、と。

そうですね。さかのぼると私たちは1981年に生活総合研究所を設立し「生活者発想」を掲げてマーケティングの進化に取り組んできました。個々の人間を、単に特定の企業や商品のユーザーか否かといった一面的な「消費者」として見るのではなく、他商品や他ジャンルを含めた購買の全体像はもちろん、それ以外の顕在・潜在の欲求、価値観に基づく行動も含めて、さまざまに感じ、考え、日常生活を営む「生活者」として360°、まるごと捉えようとしてきたのです。市場の創造には、実は人を包括的に見るそのような観点が非常に重要だと考えています。「一企業と消費者」という関係性だけから見えることは、ごくわずかだからです。

そして私たちは、デジタル、テクノロジー環境が進展したいまこそ、これまでフィロソフィーとして大切にしてきた「生活者発想」をより一層、リアルなものとして実現することができる、と考えています。生活者発想✕データ/テクノロジーが「生活者DMP」「データ・エクスチェンジ・プラットフォーム」「生活者DATA WORKS」へとつながっています。

「生活者、企業、メディアがトリプルウィンになる世界を目指す」

「生活者、企業、メディアがトリプルウィンになる世界を目指す」

——では、冒頭でおっしゃっていた「次のステージ」で実現することとは?

これからのデータドリブンマーケティングは、次の3つの要素を不可欠なものとして動いていきます。

第1に、データを安全かつ統合的に活用できる基盤技術。第2に、その技術に基づいてさまざまなデータを集約し、結果、生活者のリアルな全体像を包括的に扱えるデータプラットフォーム。3つ目は、前述のような施策の分断を解消し、顧客創造から育成までを一気通貫できる統合ソリューション群です。

これらがすべて整備されてはじめて、膨大なデータから市場の創造につながる示唆を見出し、戦略を立案し、戦術へと落とし込んで、実行することができる。そして、この3つそれぞれに対する打ち手が出そろったのが、私たちの現状です。

——なるほど。ではまず、御社の「基盤技術」とは?

独自に開発した「k-統計化&データフュージョン技術」によって、データ活用において大きなハードルとなる個人情報保護への配慮と、データの分断を解消します。データドリブンマーケティングで安全性は絶対であり、そのうえで、データを統合的に使える環境が必要です。ただし個人情報保護を考えると、そもそも一次データを外部に持ち出すことができない場合が多い。そこに機能するのが匿名化技術「k-統計化」です。

「k-統計化」は似た特徴を持つ複数人のデータを使って仮想個人を作る技術です。マーケティングのアプローチ一般においては、氏名や住所などの個人を特定する情報よりも、むしろその人の属性や嗜好性が重要です。そこで、マーケティングの目的上、同じ人と括っても差し支えないIDを統計技術に基づいて統合して「仮想個人」をつくり、扱えるようにしました。

——「仮想個人」ですか。それは連携して問題ない?

一般的な匿名化技術ですと、何か問題があった際に個人を特定される恐れがあったり、データ自体を抽象化してしまい具体的なアクションには利用出来ない、といった問題があります。k-統計化はこうした課題を解消した技術だと言えます。もう1つの「データフュージョン」とは、k-統計化で作った仮想個人のデータや、クライアント企業が持っている顧客データ、当社が持っているアセットなどを繋ぎ、効果的なマーケティングや分析を出来るようにする技術です。この組み合わせ技術は、博報堂DYグループが特許を取得しています。日本の情報法やセキュリティ等の専門家が集まる「情報法制研究所(JILIS)」の報告書でも「k−統計化&データフュージョン技術」は適法かつ有効な例であると紹介されています。

そのうえで、「HUBデータ」と呼んでいる、コンパクトですがデータドリブンマーケティングに必要な質的性質を揃えたデータを中心に据えることで、以下の図のように、そこから複数の有用なビッグデータをつないでひとつの膨大なデータとして扱えるようになります。このような基盤技術によって、格段に進化した生活者DMPの構築が可能になりました。

「生活者DMP」の進化

「生活者DMP」の進化

——では、2つ目のデータプラットフォームとは?

いまお話しした基盤技術による進化に加えて、近々、さらなるデータ基盤の強化のために、データ管理、活用をグローバルに手がける企業との提携を発表する予定です。これが、生活者の多様な像を包括的に扱えるデータプラットフォームです。生活者DMPは今後、より多様なデータホルダー企業や団体と連携する可能性を模索して、データを充実させる予定です。設立準備をすすめている「データ・エクスチェンジ・プラットフォーム」は、それに連なるものとなります。

——そして、統合マーケティング・ソリューション群を提供していくと。

はい。それが、今回新たに発表した「生活者DATA WORKS」 です。

従来の戦略立案~プラニング~施策実行は、「川上から川下」と表現されていたように、一方的にバケツリレーのように流れる形だったと思います。しかもそれらは必ずしも有機的につながっていなかった。たとえば戦略的に設定されたターゲットが、実施時にそのまま反映することができない、というようなことは日常茶飯事です。施策の結果が戦略にフィードバックされることも十分ではなかったり、されたとしても時差が激しかったりした。しかし、デジタル時代のマーケティングにおいては、施策の実施の瞬間に新たなデータが生まれ、それがビビッドに戦略に跳ね返り、そこで進化した戦略はダイレクトにメディアプラニングや各種施策に結びつく。すなわち「マーケットデザイン」と「メディアデザイン」が相互に密接につながっているべきです。2つの輪が歯車のように組み合って、両輪で相互にぐるぐると回っていくようにならねばなりません。

冒頭で課題としてお話ししたように、戦略と戦術、オンラインとオフライン、顧客創造とCRMなど、現在のマーケティングにおいては各所に分断が生じています。世にある多くのデータドリブンマーケティングのソリューションも、たとえばオンラインでの顧客獲得、テレビとデジタルの統合プラニング、デジタルから店頭への送客など、それ単体としてはある程度機能するかもしれません。しかしそれが個別の施策にとどまっている限りマーケティングを進化させ大きな成果につなげることはできない。それらをすべてシームレスにつなぎ、ある地点で得たデータを狭い範囲での効率向上にとどめず顧客や市場の理解、戦略構築と新たな施策開発といった全方位に活かしていくことで、顧客の創造~育成が一貫してできるようになる。それこそがデータドリブンマーケティングのあるべき姿であり、いまこの瞬間にもデータが生成され、それを活かすことができる、デジタル時代のマーケティングだと考えています。生活者 DATA WORKSのソリューション体系は、このようなマーケティングの理想を実現すべく開発されました。

「生活者DATA WORKS」の概念図

「生活者DATA WORKS」の概念図

——そのソリューションは、どのくらいあるのですか?

クライアント企業の業種、目的、場面等に応じて組み合わせて使えるソリューションが約60種あります。ダッシュボード~ROI解析やモデリング~戦略の策定からマスメディア・オンライン・店頭等の施策実施まで、マーケティングにかかわる多くの機会を一連のものとして扱える体系となっているのが特徴です。いくつか例を取り出すならば、検索行動から潜在顧客を見出す「クロスワードターゲティング(CROSSWORD TARGETING)」や、意識データ×行動データによる分析および配信ソリューション「クエリダ(Querida)」、大規模購買データを活用したターゲット設定と広告配信を可能にする「ポスアド(POS-AD)」、テレビ視聴ログデータを活用してテレビCM効果を最大化する「アトマ(Atma)」など、博報堂DYグループ独自の多岐にわたるソリューションを揃えています。

“生活者データ・ドリブン”マーケティングの全体像

“生活者データ・ドリブン”マーケティングの全体像

——最後に、今後の展望をお願いします。

テクノロジーの進化にともなって、できることの幅はもっと広がって行くでしょう。「生活者発想」に基づくマーケティングの理想を実現すべく、それらをどんどん取り込んで、博報堂DYグループの「“生活者データ・ドリブン”マーケティング」は今後も発展を続けていきます。

私たちが目指す未来は、データの安全性を厳格に担保しながら顕在および潜在の欲求を含めた生活者の真の姿をまるごと捉え、価値を生む――生活者、企業、メディアそれぞれにとっての価値の創造がなされる、トリプルウィンの世界。決して特定の誰かの利益のために安全が犠牲になってはいけないし、逆にリスクをおそれるあまり利便性の向上や価値創造の機会の芽を摘むようなことがあってもいけない。言うまでもなく新しい市場の創造とは、企業にとっての利益機会であると同時に、生活者にとって未だ見ぬ価値が経済社会に生み出されることです。進化していくデータ活用が、生活者がまだ手にしていないハピネスをうみ続けるものになるように、尽力していきたいと思います。 

 

digiday2018_1725_fin▼安藤元博
博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ 執行役員 エグゼクティブマーケティングディレクター
 
1988年博報堂入社。以来、主にマーケティングセクションに在籍し、50を超える企業の事業/商品開発、キャンペーン開発、グローバルブランディングに従事。2010年より、博報堂DYグループの「統合マーケティング」のハブとなる組織を率いる。
ACCマーケティングエフェクティブネス、カンヌライオンズ国際クリエイティビティフェスティバル(メディア部門)等の審査員を歴任。著書『マーケティング立国ニッポンへ―デジタル時代、再生のカギはCMO機能』(共著)(日経BP社)等。東京大学大学院・学際情報学府修了(社会情報学)。

 

Sponsored by 博報堂DYホールディングス

Written by 高島知子
Photo by 渡部幸和