AI、人工知能が話題になっている。広告業界でも多くのエージェンシーたちが、AIや認知テクノロジー部門をはじめた。しかし現時点では、マーケティング分野への真の影響は、まだまだ限定的なものに留まっているようだ。
AI、人工知能が話題になっている。広告業界でも多くのエージェンシーたちが、AIや認知テクノロジー部門をはじめた。しかし現時点では、マーケティング分野への真の影響は、まだまだ限定的なものに留まっているようだ。
人工知能という言葉は、最近ではマシーンラーニングと同意義で使っている人も多い。しかし、このふたつは同じではない。データを使って機械に学習させ、効率的に作業をさせるという広範なコンセプトに対して付けられた名前が人工知能であるのに対して、マシーンラーニングはテクニックである。アルゴリズムを使ってデータを処理し、学習し、予測する。それが人工知能、AIを訓練するということだ。エージェンシー・エグゼクティブたちはマシーンラーニングはAIの部分集合であるという。
「AI無しでマシーンラーニングを行うことはできるが、マシーンラーニング抜きのAIは無い」と語ったのはエージェンシー、ワンダーマン(Wunderman)のAIサービスのグローバル・リーダーであるロビー・ミニコーラ氏だ。
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現時点では、AIを広告とマーケティングに応用することのほとんどは、マシーンラーニングを指している。1点から5点という評価で(5点がもっとも影響を与えているとして)、我々はエージェンシー・エグゼクティブたちにAIが与えている影響についてアンケートをとった。分野は広告クリエイティブ、eコマース、データ・アナリティクス、そしてメディア・バイイング。全体としては、マーケターたちの仕事をAIが奪うという事態はすぐには訪れないというのが彼らの考えだ。むしろ仕事をより効率的にするツールであるという認識を持っているという。
「オートメーションが成熟すれば我々はそれを大々的に受け入れるだろう。人員の代わりにするために使うということはしないだろう」と、アイソバー(Isobar)の米国オペレーション・バイスプレジデントであるデーブ・ミーカー氏は言う。
データ・アナリティクス [評価:3点]
データ・アナリティクスはマシーンラーニングとAIの中核となっている。広告インプレッションにおける詐欺行為を、クリック・スルー率や広告が表示された場所といったデータに基いて検知することがその例だ、とミーカー氏は言う。「人間にとってはすべてを読むのは不可能な量のデータだった」。
ポッシブル(Possible)のグローバル最高データ責任者であるジェーソン・カーメル氏は、彼のデータアナリスト75人編成のチームは回帰分析と自然言語処理を使ってソーシャルメディア上の人々の会話の文脈を浮かび上がらせることをしばしば行うという。たとえば、あるユーザーが「ノスタルジア」という単語を使うとマシーンはそれが「喜び」と「悲しさ」が混ざった感情であると理解するという具合だ。
「我々は52の混ざった感情を持っている。そして機械がこれらの感情を特定する方法を構築した」と、カーメル氏は語る。またアルゴリズムを使って人々のオンライン購買行動を理解することもテストしている。学校で必要な文房具などを購入した消費者がなぜブレンダーも購入するのか、という内容だ。
「AIの影響は大きくなるだろう。しかし現時点ではまだまだ初期段階だ」と、彼は言う。
メディア・バイイング [評価:2点]
AIはアドテクにも侵入している。広告ターゲット能力のおかげでメディアバイイングへの影響は大きい。AIのおかげで個々人のデータを非常に細かいレベルで広告主が理解できるようになった。また、コムスコア(comScore)、Google、マイクロソフト、位置データ、購買データといった類のデータに基いて、あるユーザーがブランドのプロダクトに興味があるかどうかを特定することもできるようになった、とパブリシス.サピエント(Publicis.Sapient)のデータ・AI部門グローバル責任者であるジョッシュ・サットン氏は言う。
「マシーンラーニングを使ってデータポイントをつなげてみれば、かなり正確なプロフィールを作り出すことができる。たったひとつのデータソースでは、こうはいかない。しかし、まだ初期の段階ではある」と、サットン氏。
さらに彼が付け加えたのは、AIのおかげで広告主たちはダイナミックなクリエイティブを行うことができるようになった、という点だ。異なる広告コピーやフォーマットをたった数秒でテストすることができる。昔であればA/Bテストを数週間かけて行う必要があったのだ。しかしサットン氏は、AIがデータアナリストの仕事を奪うことは、今後5年以内には起きないだろうと考えているようだ。
eコマース [評価:2点]
ユーザーと会話をするテクノロジーは、AIにおいて非常に重要であるとミニコーラ氏は考えている。彼女のチームは、ブランドが直接もしくは間接的にデータを集めてマシーンラーニングと認知テクノロジーを活用することでデジタル・アシスタントフレームワークを生み出すサポートをしているという。このアシスタントはカスタマーサービスとして使ったり、プロダクトの一部として活用するという。多くのブランドが利用しているチャットボットはその例だ。
ブランドはまたマシーンラーニングを使ってベストセラーの可能性を探っていると、ミニコーラ氏は言う。リテーラーが白いズボンと青いズボンを過去4年間売ってきたとする、ブランドはマシーンラーニングを使って過去のセールスデータから、紫色のズボンが来年売れるかどうか予測する、といった具合だ。
広告クリエイティブ [評価:1点]
エージェンシーのなかにはAIを使ってクリエイティブを作るものも出てきた。例えばトヨタが今年行った広告キャンペーンに、サッチー・アンド・サッチー(Saatchi & Saatchi)ロサンゼルスは50の脚本を用意し、それを使ってIBMの人工知能ワトソン(Watson)に学習をさせ、ロボットが広告コピーのバリエーションを何千も書けるようにしたという。しかし本稿のために取材をしたエグゼクティブたちは、こういったAIの応用はどちらかと言うとPR戦略の要素の方が強いと考えているようだった。AIはまだ人間のクリエイティブの代わりになるほどは成熟していないからだ。
「問題は何か。歌を作るAIを作ることができるか? と聞かれたら答えは『はい、できます』となる。しかし、私が気にいる歌を作ることができるかというと答えは『いいえ』となる」とミーカー氏は言う。「AIはテキストベースの記事を読むことは得意だ、しかしAIを使って映画監督をするといった複雑なことになると、そしてそれを試そうとしたエージェンシーもいたが、うまくはいかなかった」。
カーメル氏もミーカー氏の意見と同じだ。クリエイティブの観点からはAIはどのような種類であっても実際のクリエイティブによって監督されないといけないという。「それなら、クリエイティブが自分で仕事をした方がいい」と彼は語った。
Yuyu Chen(原文 / 訳:塚本 紺)