このコラムの著者、マーク・ダフィ(56)は、広告業界辛口ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人。米BuzzFeedで広告批評コラムを担当していた業界通コピーライターだが、2013年に解雇を通達された。今回のテーマはクリエイティブが陥りやすい「Think Different」のワナについて。
このコラムの著者、マーク・ダフィ(56)は、広告業界辛口ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人。米BuzzFeedで広告批評コラムを担当していた業界通コピーライターだが、2013年に解雇を通達された。趣味のホッケーは結構うまい。
Appleは1997年、いまや伝説的となった「Think Different(シンク・ディファレント)」キャンペーンをローンチした。このキャンペーンが広告クリエイティブたちによって愛されたのには、いくつかの理由がある。キャンペーンではプロダクトを一切見せず、マックユーザーをヒーローのように扱ったのだ(広告クリエイティブのほとんどがウィンドウズPCは使わなかった)。コピーライターやアートディレクターたちはこのタグラインを念仏のように毎日の業務のモットーとして信仰した。
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また、このタグラインは、部下のガラスのように脆い自尊心を破壊しないための便利な表現としてディレクターたちが使いはじめた。部下のアイデアを拒否するときに「クリエイティブじゃない」「普通過ぎる」といったフィードバックの代わりに「違いが足りない(ディファレントでない)」ということで、彼らのガラスの心が砕けることを防いだのだ。「ピンと来ない」という、まったくもって建設的でないフィードバックよりは、多くのクリエイティブの下っ端たちのエゴを救ってきた。
「ディファレント」の良し悪し
広告クリエイティブたちは「ほかとは違う(ディファレント)」「これまでにない」コンセプトを思いつくようにプレッシャーをかけられている。長い歴史を持つプロダクトカテゴリーでは、特にこれは難しい作業となる。多くのクリエイティブたちが新しいコンセプトを考えようと、長年奮闘してきたからだ。
このような環境では大きすぎるプレッシャーのもと、コピーライターたちがブランドのモットーから逸脱してしまった突飛なメッセージを書いてしまったり、アートディレクターたちがまったく意味を成さないクレイジーなビジュアルを出してきてしまうリスクがある。プロダクトとは本来関係のないメッセージやビジュアルをベースにして、消費者たちの興味を引く「借りてくる興味(borrowed interest)」を使ったアイデアを、それも非常にわかりにくいものをクリエイティブが考案してきたりもするのだ。
しかし思い出そう、「良いディファレント」と「悪いディファレント」が存在するのである。
「悪いディファレント」のサンプル
トーヨータイヤのこちらの30秒スポットはヴィトロUSA(Vitro USA)によるものだ。5月頭に公開された。ここでの「借りてくる興味」ロジックは次のようになっている。上質なステーキが消費者が持つクルマを表しているとしたら、最後にステーキを台無しにするスプレー式のチーズは非トーヨータイヤ、ということだろう。
せっかくのステーキ(クルマ)をダメなチーズ(非トーヨータイヤー)で台無しにしてはいけない、というメッセージ……なるほど。もしステーキとタイヤのあいだに何らかの連想が成り立つとしたら、ウェルダンの真っ黒なステーキ(タイヤの色)や噛むと硬い(ゴム)という点くらいだろうか。うん、これこそが「悪いディファレント」の好例だ。
このCMは香港のファーストフードチェーンであるマクシム(Maxim)のものだ。彼らが売る、骨なし海南チキンのこの広告は、昨年12月に公開された。このCMによると彼らのチキンは非常に柔らかく、ジューシーなため、滑り台もスパッと滑り降りてしまうというのだ。滑り台を何秒で降りきったか知りたい人は彼らのFacebookページへ行こう、という仕組みになっている。
このCMの致命的な欠点は、滑り台を滑るチキンが食欲をそそる姿でないことだ。そして、このチキンには潤滑油でも塗られたのだろうか、と想像させてしまうところも食欲が減る一因だ。まったくもって食べたいという気にならない。エージェンシーは香港のSTHK。
Y&Rアルゼンチンによるガムブランドであるトップライン(Topline)の新キャンペーンがこれだ。コピーラインは「キスをストレッチしよう」となっている。「(ある種のデジタル加工が)出来るからって、するべきであるとは限らない」というデジタルアートに関する非常に重要なルールの典型例だ。アートディレクターの思考プロセスは次のような物だったのだろう。「モデルの顔がガムになるってのはどうだ?」おそらく途中で「いや、でも意味が分からないな」と脳の論理を司る部分に反対されたものの、押し切ったのだろう。
「あのさ、これさ、一体何なの」と言いたくなるアートディレクションを南アメリカは、ここ数年生み出してきている。クライアントはこういった「悪いディファレント」広告を承認しないはずだと99%くらいは確信しているんだが、どうなんだろうか。特に同じくトップラインのために2009年に作られたDCNサッチー・アンド・サッチーによるコマーシャルは、「良いディファレント」だったことを考えると不可解だ。
「良いディファレント」とは何か?
では何が「良いディファレント」を生み出すのだろうか。「ディファレント(違う)」部分が直接的にブランドやプロダクトと結びついていないといけない。また、見た瞬間にピンと来るものでないといけない(このフレーズを使って申し訳ない)。最近の良い例だと、タイレノール(Tylenol)の「頭痛チキン(Headache Chicken)」スポットがそれだ。
歴史上最高の「良いディファレント」は何だろうか。それは1989年にまで遡るかもしれない。NYNEXイエローページのキャンペーン「世にあるものなら、載っている」のコマーシャルだ。チアットデイ社(ほかのスポットも見て欲しい)。
楽しみながらビジュアルのダジャレをついつい見てしまう。オチが来る前に自分でオチが当てられるか考えて、映像に引き込まれる。これが「Think Different(違う考え方をする)」だ。ただ「良いディファレント」なだけではなく、大幅にディファレントだったのだ。これほどのキャンペーンは、これ以来作られていない。
Mark Duffy(原文 / 訳:塚本 紺)
Photo from Wikimedia Commons