リモートワークは、職場空間の未来なのか?:「福利厚生」面からの再考

厳しく管理されたオフィスにおそるおそる戻りはじめる企業がある一方、すべての従業員が再び同じ場所で働く将来が見通せないなかで、社屋を売却し、対面の人間関係を紡ぐ何か別の方法を模索する企業も出てきた。

高い利益を出しているテクノロジー企業のなかには、ソフトウェア開発のギットラボ(GitLab)、Webアプリの連携を支援するザピア(Zapier)、SNSアカウントの管理運用ツールを提供するバッファ(Buffer)など、コロナ渦以前からリモートワークを標準とする企業もある。人間関係の構築や問題解決のために、このような企業では家族同伴の社員旅行に何十万ドル(何千万円)という多額の経費をかけている。

サピアでは現在、17のタイムゾーンで300人以上のリモートワーカーが働いている。社員旅行は年2回。1回の旅行の企画に1年をかける。これまでにカリフォルニア、ワシントン州、フロリダ、トロントなどを訪れた。旅行先での活動は仕事とチーム作りと余暇で、仕事の時間にはあらかじめ議題を決めず、参加者が自由に討論する「アンカンファレンス」や、ソフトウェア開発を短期集中的に行う「ハッカソン」が中心だ。これまでに「フォーマッター・バイ・ザピア(Formatter by Zapier)」のような機能や「ザピア活用ガイド」などを作成した。共同設立者のウェイド・フォスター氏によると、余暇には「マフィア(Mafia)のような宴会ゲームに興じたり、カラオケ大会を催したり、マウントレーニアでハイキングをしたり、スキーをしたり海で泳いだり」するという。

一方、バッファは2015年にその勤務形態を完全リモート化した。社員旅行は都市滞在型、リゾート型、田園生活型に分けて開催している。2015年の旅行先はケープタウン、シドニー、タイで、社員ひとり当たりの旅行費用として約5000ドル(約52万円)を支出した。2018年に9回目の旅行先としてシンガポールを選んだ際、あらかじめ「よくある質問(FAQ)」をオープンな文書として公開し、定期的に更新したところ、出発までに24ページ分の情報が集められた。最高経営責任者(CEO)のジョエル・ギャスコイン氏は完全なリモートワークと社員旅行が会社にもたらすメリットとして、生産性の向上、自由強力な作業関係を挙げている。

両社の経験則によれば、社員旅行の日程は中4日を移動日と予備の休日で挟む形が最適という。また、一部従業員の到着時間をずらすことにより、通常の勤務時間内の待機要員を確保している。

リモートワークは火消しのようなもの

リモートワークはまだ始まったばかりのビジネスの現実だ。テクノロジー企業を中心に、新しい業務プロセスや毎年恒例の社員旅行が積極的に導入される一方で、いまもなおオフィスの再開の是非やその方法を模索している。

「すでにロンドンの各オフィスのマーケティングを始めているが、フルリモートのチームも維持したい」。そう語るのはニュースナウ(NewsNow)のストゥルーアン・バートレットCEOだ。「またの機会があれば、もっと愉しくわくわくするような方法で集まれないものか考えている。たとえば、国内のどこでも、みんなが行ってみたい場所で豪華な食事と会議設備を備えたホテルを借りるのもいい。もちろん、従業員の個人的な事情(多くの従業員には小さな子どもがいる)や移動にともなう二酸化炭素の排出量は考慮に入れる」。

これらテクノロジー企業の多くは、透明性を確保し、他社の参考に資する目的で、自社のリモートワークの状況を一般に公開している。リモート勤務者の管理を支援するシールドジオ(ShieldGeo)は、コロナ渦に見舞われて以降、物理的な社員旅行のバーチャル化に関する考察を文書にまとめて広く公開している。

だが、社員旅行やリモートワークの柔軟性を提供することには落とし穴もある。非常事態としてなかば強制されたリモートワークは、メディア企業にとっては火消しのようなものだ。広告収入の急落に対応するためのいわば方便だ。

「契約書などの綿密な確認が重要だ」

リモートワークコンサルタントで『ヘルシー・ハッピー・ホームワーキング(Healthy Happy Homeworking)』などの著書があるマヤ・ミドルスミス氏は、「半年前なら、この問題についてもっと誠実に考えるリモート企業もあっただろう」と述べている。「危険信号を見落とさないように、契約書や求人票を綿密に確認することが重要だ」。

在宅勤務の準備金として、Facebookのような大手企業は従業員ひとり当たり1000ドル(約10万円)もの大金を支給する。その意図がどれだけ高潔であろうとも、結果的に、企業が本来従業員に対して負うべき責任が免責されてしまう危険はぬぐえないとミドルスミス氏は指摘する。ソフトウェアに不具合があっても、技術サポートを手配するのは従業員の責任だ。身体に合わないパソコンチェアを買ってしまったがゆえに腰痛や腱鞘炎のような健康被害を生じても、治療費を負担するのは従業員だ。

リモートワークは、人事考課を含め、多くの変更をともなう。マネジメントソフトウェアを提供するタイムイズリミテッド(TimeIsLtd)によれば、作業に集中するフォーカス時間の分析はどの企業にとっても最重要課題だという。だが、ほかにも再考すべき点はいくつもある。たとえば、社員食堂の代わりにウーバーイーツ(Uber EATS)のクーポンを提供するなど、福利厚生や諸手当の変更。あるいはトレーニング、勤務時間、コミュニケーションや文書の共有方法など。Facebook、クオーラ(Quora)、オクタ(Okta)をはじめ、リモートワークの管理責任者を新たに雇用する企業が増えているのもなんら驚きではない。ギットラボでリモート部門を統括するダレン・マーフ氏はこのような職責を「最高業務責任者(チーフオペレーションズオフィサー)や最高人事責任者(チーフピープルオフィサー)、あるいは最高文化責任者(チーフカルチャーオフィサー)の進化形」と見ている。

新しい成長痛を経験しながら

さしあたり、求職者にとっての思わぬ障害は、勤務地で仕事を検索する従来の求人掲示板かもしれない。リモートの求人はもっぱら手作業で探すことになる。また、米国企業のなかには、米国在住者にかぎりリモート勤務可とする企業もある。それを物流管理や地域雇用、税金、移民法などの問題を解決するためというのは、必ずしも正直ではないかもしれないとミドルスミス氏は警告する。リモートワークを積極的に進める理由は、無意識のバイアスや多様性の欠如、「我々のような人々」を採用したがる心理と無縁ではないかもしれないと、同氏は言う。

多くの企業が新しい種類の成長痛を経験しながら職場空間の未来を模索する一方、恒久的なオフィスの廃止はたいしたコスト削減にはならない。「リモートワークには間接費がかかる。異文化的要素があるところではなおさらだ」と、ミドルスミス氏は指摘する。「構造的な問題であれ、管理者教育であれ、どれもできないことではない。よりいっそうの管理と配慮が必要になるだけだ」。

[原文:Future of remote work perk: The company – and family – retreat

LUCINDA SOUTHERN(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU