インフルエンサーマーケティングに投資するエージェンシー勢は、エンドースメントに関する曖昧な倫理の再考を迫られている。2023年6月、米連邦取引委員会(FTC)がエンドースメントのガイドラインをアップデートしたからだ。 F […]
インフルエンサーマーケティングに投資するエージェンシー勢は、エンドースメントに関する曖昧な倫理の再考を迫られている。2023年6月、米連邦取引委員会(FTC)がエンドースメントのガイドラインをアップデートしたからだ。
FTCはこのガイドラインでエンドースメントに関する指標と、インフルエンサーにブランドとの契約を開示する責任を追わせる姿勢をさらに明確にした。これにより、マーケターおよびインフルエンサーは今後、投稿に「#ad」や「#sponsored」といったハッシュタグを付けるに留まらず、スポンサード投稿とオーガニック投稿の差をより明瞭にすることが求められる。
ブランド提携契約および業界商慣行は、これまで徹底的な点検を免れてきたが、今回のFTCの動きにより、エージェンシー勢はインフルエンサー戦略の根幹を見直すことになる。
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2009年以来の改訂
「FTCガイドラインの刷新は起きるべくして起きた。インフルエンサーマーケティングの世界は、開拓時代の無法地帯みたいなものだからだ」と、独立系クリエイティブおよび制作会社のナインティーンス・アンド・パーク(19th and Park)のシニアクリエイティブストラテジストであるデヴィン・ペイトン氏は話す。「いまや何でも収益化できる状態であり、当局はその規制を本格化させている」。
2009年以来の改訂となる今回のガイドラインは、新進のマーケティングトレンドに、なかでもインフルエンサーマーケティングに遅れを取るまいとするFTCの姿勢の現れだ。後者は実際、急速に成長を続けており、2023年度は211億ドル(約3兆円)の価値が見込まれていると、インフルエンサーマーケティングハブ(Influencer Marketing Hub)は予想している。
新たなガイドラインには、製品認識を変えうる消費者レビューの編集、インセンティブレビュー、広告であることを明確に開示する説明文の作成、広告主やエンドーサーおよび関係者の潜在的賠償責任、子どもをターゲットにする広告、そしてこれがおそらくもっとも注目すべき点だが、エンドースメントの定義変更と、その適用範囲のフェイクレビュー、バーチャルインフルエンサー、ソーシャルメディアタグへの拡大が含まれる。違反者には、1件につき最大50,120ドル(約700万円)という高額の制裁金が科される。
緩さがみえた市場
実際、FTCは遅れを取り戻そうと躍起になっているように見える。ますます多くのエージェンシーおよびブランドがいまや、インフルエンサーマーケティングに投資しているからだ。
たとえば、米DIGIDAYの調査では2022年第1四半期、クライアントがマーケティング予算の少なくとも「ごく一部」をインフルエンサーに割いている、と回答したエージェンシーは全体の69%だった。それが2022年第3四半期には79%に跳ね上がり、この高い数字は2023年度の第1四半期も変わらなかった。インフルエンサーマーケティングハブによれば、マーケターの60%以上が2023年度、インフルエンサーマーケティング予算を増額する予定であり、今後のキャンペーンにAIを利用する計画まで立てている。
「クリエーターエコノミーが熟成するなか、クリエーターにはブランドパートナーシップをビジネスとして認識し、規制を理解し、すべてを公正にすることが求められる」と、デロイトデジタル(Deloitte Digital)のマネージングディレクターでソーシャル部門トップのケニー・ゴールド氏はeメールで指摘する。「そしてもちろん、ブランド側にとっては、そうしたガイドラインを理解するクリエーターとの仕事、あるいはオーディエンスが求められる」。
事実、元々のガイドラインだけでは不十分であり、一部のブランドはインフルエンサーマーケティングのいわばグレーゾーンに巣くい、違法コンテンツを直接は配信しないといった手を使って規制の網の目をくぐってきたと、タレントマネジメント会社であるリトルレッドマネジメント(Little Red Management)の創業者でCEOのコートニー・バグビー・ルプリン氏は話す。
「私が覚えているかぎり、とくに大手ブランドとの仕事ではこれまで、ペイドパートナーシップであることを開示しなければならなかったのに対し、小規模ブランドのなかにはペイドパートナーシップであることを示さず、FTCガイドラインに則らずに済まそうとしているところもある。それは厳密には違法行為だ」とバグビー・ルプリン氏は指摘する。
バグビー・ルプリン氏によれば、インフルエンサー/ブランドパートナーシップであることを隠し、広告コンテンツをいかにもオーガニックであるように見せるよう、ある小企業から要求されたこともあったという。「ブランド側はそうやって法の目をかいくぐろうとするが、リトルレッドマネジメントの所属タレントには、FTCガイドラインに則り、スポンサードまたは広告コンテンツであることの開示が法的に必要である点をブランド側に明確に伝えている」と、同氏は言い添える。
正当な事業領域になれることを指し示す
実際、いわゆる「滑りやすい坂」ではある。なかでも知名度の低いブランドはとりわけ、目立たずに行動しやすいため、コメント欄において、広告またはスポンサーのラベルを隠し、オーガニック投稿に見せかけることも可能だ。
だが、インフルエンサーマーケティングにおける不正行為は結局、ブランドと提携相手であるインフルエンサーの双方を苦境に陥れる。中国発のファストファッションブランド、シーイン(Shein)の一件はその典型例であり、劣悪な労働環境、人権侵害、デザインの盗用が問題視される同社とエンドースメント契約を結んでいるのではないかとして、同社のインフルエンサーらは最近、世間から激しく非難された。
しかしながら、今回のFTCガイドラインの刷新は、インフルエンサーマーケティングが今後成熟を続け、法的に問題のない正当な事業領域になれる未来図を指し示しているとも言える。米DIGIDAYが今回取材をしたエージェンシー4社においては依然、仕事の進め方に変化はないが、この先、業界が成熟を続けるなかでブランド/インフルエンサー契約の基準が強化されることも考えられる。
「大半のブランドは信頼を求める。オーディエンスからの信頼を維持するには、各々がいわゆるデューディリジェンスを実施するしかない」と、広告およびデジタルマーケティングのコンサルティング企業であるVMLY&Rのソーシャルメディアストラテジー部門ディレクター、グレイス・ホイ氏は指摘する。「消費者の信頼を取り戻すのは極めて困難であり、それには大きな痛みを伴いかねない」。
Kimeko McCoy(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)