企業のバックオフィス業務のクラウド化は、データ化という側面がある。金融や財務のデータ化は何をもたらすのか。クラウド会計ソフトfreeeは入力の自動化を強みにユーザーベースを拡大している。投資会社での投資アナリスト、Googleではアジア・パシフィック地域における中小企業向けのマーケティングの統括と、金融とテクノロジーの両面の経歴を歩いてきた、freee・CEO佐々木大輔氏にフィンテックの将来について聞いた。
企業のバックオフィス業務のクラウド化は、クラウドに豊富なデータが蓄積されることを意味している。この豊富なデータを活用することで、企業に対し新しい種類のサービスを提供することが可能になるかもしれない。
クレカ決済サービス「Coiney(コイニー)」では、決済プラットフォームがクラウド上に載っている状況を取材した。今回取材したクラウド会計ソフト「freee(フリー)」は中小企業を中心にユーザーベースを拡大しており、今後は蓄積したデータを活用した金融関連ビジネスも視野に入れている。
freee・CEO佐々木大輔氏は投資会社での投資アナリスト、Googleではアジア・パシフィック地域における中小企業向けのマーケティングの統括と、金融とテクノロジーの両面の経歴を歩いてきた。近年のフィンテックというトレンドについて「投資銀行業務以外の部分はデータになっていく。ゆくゆくはデータ分析を行う人さえいなくなり、人間がすべきことは『何かに情熱を持って取り組む』ことになるかもしれない」と語っている。
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――freeeのデータはどう価値が高いでしょうか?
データの価値に関しては経済活動、取引に関するものであるかが重要だと思う。それに関するデータは、そのERP(企業資源計画)、会計システム、人事管理や販売管理からかなり正確に「このビジネスは、誰と、いつ、どういう内容の取引をしている」という情報が取れるようになる。入力自動化はほとんどされています。だからこそ、ここで変な修正が入っているのが「怪しい」と。
よくこれを与信スコア(信用情報をもとに企業また個人の信用度をスコアリングする)に使おうとすると問題になるのは、不正入力というか、粉飾決算をやっているじゃないかという話が出てくる。誰が入力したかまで見られるわけです。銀行の残高とちゃんと一致しているか。
だから、そういった意味では、経済活動を正しく把握できるし、もしそこに不正があるんだったら、大体わかる。ERPのデータとしては、結構すごいものでしょう。
――とても価値のあるデータだと思います。他社とのデータと交わればもっと良いデータになると思います。
交ざらないとは思いますが、ただ、API連携はすごく積極的に進めている。いまでもfreeeとAPIでつながっている会社、プロダクトはいっぱいあるし、今後は「全部が全部freeeを使ってなくてもパートナー製品を使っている」という売り方もどんどん伸ばしたいと思っているので、ここでもデータは増えていくだろうと。
あとはfreeeのユーザーさん同士の取引を簡単にすることも進めています。要は、いままでビジネス同士で取引しようとすると、請求書発行して、今度、受け取り側は請求書を受け取って、支払って、支払い確認して、入金管理する。両側で忙しかった。
freee上で「発注」のようなボタンを押しておけば、Amazonのマーケットプレイスで物を買うみたいに、簡単に決済もできるし、帳簿まで両方のクライアント側でしっかり付くと。お互いに取引するメリットがどんどん広がるので、freee上での取引がどんどん増えていくでしょう。いまはまず、freee上から請求書を相手に送ると、受けた請求データが全てそのまま帳簿にできる形で入ってくる。
――素晴らしいですね。
ここに決済とかの機能を付けていきたいと思っていますが、そうなると本当にAmazonマーケットプレイスみたいな感じで、物が取引できるという、そういう仕組みになっていく。
――決済事業をするのは、法律的なハードルとかはないんですか。
それは、もちろん最初は銀行振り込みとか、クレジットカードとか、そういうのを使ったものになっちゃう。
――バンキングがオンライン上に入ってくれば、より滑らかになるというビジョンはあるのですか。
重要なことは、銀行がAPIを提供すること。これは、例えばヨーロッパだと、もう銀行はAPIを提供するって義務になっています。だから、やっぱりそういう動きを日本も進めていくべきだし、あと、すでにイノベーティブな銀行はAPI提供に向けて動いているので、それができるようになると、そのfreee上の中から決済するとか、別にfreeeじゃなくても、いろんなスタートアップができるようになるんですね。これはすごくイノベーションの切り口としては重要かなと思っています。
――将来的な話ですが、デジタルマネーが流通すれば、とても滑らかになりますね。
ものすごく滑らかになりますね。それがもし普及したとすれば、freee内での取引も多分簡単になる。あるいは、すごくfreeeがプラットフォームとして進化したときに、何か独自の通貨を作る可能性もありますよね。いろいろ検討しなくてはいけないのですが。
――コンパクトな会社がクリエーティブになるというビジョンですね。
要は大企業が安定していると、大企業の創意工夫が生まれなくなる。だから、やっぱり、小さい会社がどんどん常に競争を仕掛けている、それが結構強い状態になってないと、世の中全体が良くなっていかないと思っています。日本は、この小さい会社が増えるっていうようなことがまだまだ甘いし、中小企業と聞くと「なんか大変そうだな」という感じじゃないですか。
「中小企業のほうがかっこよく仕事しているよ、うらやましいよね」のような、そういう世界にしていかなきゃいけない。それがもう完全にクラウド上に置くってことでできるようになると思います。大企業になると、情報システム部門が難色を示すという形で、なかなか進まないと思います。
――そうすると、多分、スタートアップがある程度大企業をテイクオーバーしていくような状況が生まれてくる必要もあるってことですね。
それは必要あると思います。日本のスタートアップの状況に関しては。その逆も必要でしょうね。積極的にM&Aが行われるっていうところ。やっぱりこれがないと、起業家自体も増えてこない。
freee・CEO佐々木大輔氏(撮影:吉田拓史)
全部が全部IPO(新規株式上場)できるビジネスではないし、あとは、小さなIPOって、結構危険だと思います。その後、なんか目的を見失ってしまうみたいなケースも多いと思うので、むしろ、早い段階でM&Aされていくことも重要だと思います。ずっとプロパーしかいませんという会社に、異分子が入ってくる。それが当たり前になれば大企業も変わる。また全体として良くなっていくんじゃないかなと思います。
――ブログを拝見して、金融って人間とのトラクションの部分が少ないから、全部データになるとありました。金融のデータ化はどこまで行くでしょうか。
ある程度行くと思いますよ。特に入力に関しては、ほとんど必要ないっていう世界。基本的には、いわゆる投資銀行部門以外は全部データになるんじゃないですかね。
――M&Aとか人の介在がいるものは残る。
そういうもの以外は基本すべてじゃないですかね。決済にせよ、融資にせよ。融資も、大型の何十億という案件は人の手で管理されるかもしれないけれども、でも、数千万円までは、多分、全部データで「人も介さずにできる」ということは起こると思う。リアルビジネスがより重要になります。金融は水みたいなものになる。
――海外展開しますか?
クラウドERPは英語圏にしかほとんどないんです。アジアがいいかなと思っています。
中国にもクラウドERPはない。強いて言えば、タイだけはある。ただ、中国は時間かかるっていうか、ある意味、一瞬かもしれない。
インターネット上の会計ソフトを利用することは、インターネットを政府に監視されている以上、すべて政府に見えるということ。二重帳簿が当たり前のカルチャー
、そういう意味では、クラウド会計ソフトを使う以上、いっぱい納税をすることになる。それを政府を強制して、義務だって言っちゃう可能性ってあるんですよ。それによって税収増えるんで。ある意味、いまないけど、一気に来るかもしれないのは中国です。それに中国は、電子決済比率がとても高いので、どんどん透明性高まっていくかもしれません。
――中国はモバイルファーストですね。スマホで使えるほうがいい。
もちろん。モバイルのアプリを提供していますし、これで完結する人はいます。よくこのクラウドの会計ソフトなんて、高齢の人には難しいよねとか言われるますがが、最近は、パソコンは難しくて使えないけど、スマホアプリだけで使うっていう、そういう高齢の方とかっています。
――大企業とかにスケールさせる考えはありませんか?
中堅の企業まで広げようと思ってるんですけど、大企業は違うかなと思っていて。大企業にはコンサルティング的に売っていかなきゃいけないみたいな世界ですし、カスタマイズして提供しなきゃいけない。販売の仕方とか、プロダクトの作り方とか、全部変えましょうという話になってくるんで。あくまでスモールビジネスの発想で、使えるERPを提供します。それは、中堅企業ぐらいにも当てはまる。
――佐々木さんのようなビジョンの方にはなかなか出会えない。
でも、普通じゃないですか。やっぱり既存の銀行サービスに対するフラストレーションとかは、さらに海外のほうが強いと思う。日本はこういうものでしょと受け入れちゃっているけども、海外のほうがさらにいまの銀行サービスって、ウーバーとかエアビーに比べて使いづらいよねっていう、より明確だと思います。
――アメリカの若い人は、やっぱりもうアプリで金融に触るが普通らしいんですけど、ただ、お金払いたがらないんです。そこら辺が事業者サイドにとって課題かもしれません。
他の収益源が見つかるはずです。米クレジット・カルマ(Credit Karma)とかも、クレジットスコアは以前は有料でみんな取っていたものを無料にして、その代わり、その人の財務状況は全部分かるので、それに合ったローンだとか、クレジットカードだとか、あとはポイントシステムとか、そういうのを提案してアフィリエイト(成功報酬型広告)で収益化します。ただ、そのアフィリエイトも高額なので、結構大きなビジネスになっている。
僕たちのビジネスの収益も、変わる可能性はあると思います。要は、金融サービスの提供のようなものの比率がやっぱり高まると思うんですよ。
――得たデータによるサービスですか。
そうです。データを使った融資は、うちのビジネスにしていきたいと思っています。将来的には。ただ、だからと言って、会計ソフトが無料になるかっていうと、そこも難しい話で、BtoBの前には無料のものって、何かあったときに訴えられなくなる。BtoBはあんまり無料だから使われるっていうことでもないのかな。
――金融サービスで利益を出すとするならば、許認可の部分がありますね。その辺も検討されていますか?
その辺りはやっぱり重要な部分なので、銀行代理業とか、そういう免許とかの仕組みがあるんですけど、でも、各銀行に対して一つずつ取っていかなきゃいけません。いろんな銀行とやろうとすると、すごい手間が掛かる。インターネットは想定されてない仕組みなので、そういう仕組み自体ももうちょっと変わっていかなきゃいけないとは思います。
Written by 吉田拓史
Photo by r2hox (Creative Commons)