ライフネット生命社長兼COO 岩瀬大輔氏、LINE上級執行役員(コーポレートビジネス担当)の田端信太郎氏、森・濱田松本法律事務所の増島雅和氏が登壇。米国でもインシュアテック(保険テック)企業Oscar Hearth(オスカーヘルス)が評価額27億ドル規模に成長、中国にもアリババ、テンセントなどが出資する「モバイル損保」の「Zhongan(ゾンアン)」が急成長したことを話し合った。
ライフネット生命は10日の記者会見でパネルディスカッション「AI×スマホ×生命保険が実現する未来」を開催し、ライフネット生命社長兼COO 岩瀬大輔氏、LINE上級執行役員(コーポレートビジネス担当)の田端信太郎氏、森・濱田松本法律事務所の増島雅和氏が登壇した。
海外ではフィンテックやそれ以外の分野で、モバイル起点のビジネスが急速に拡大していることなどに話題が及んだ。3者は以下のような趣旨を話し合った。
* 米国でもインシュアテック(保険テック)企業Oscar Hearth(オスカーヘルス)が評価額27億ドル規模に成長、中国にもアリババ、テンセントなどが出資する「モバイル損保」の「Zhongan(ゾンアン)」が急成長した
Advertisement
*デジタル上の決済コストがクレカの料率水準を下回るまでいくと、リアルのトランザクションもモバイルに入ってくる可能性がある
* 金融行政の幹部クラスはフィンテックなどの金融の新しい動きを真剣に検討するが、担当者レベルではモチベーションが持ちづらい傾向がある
岩瀬氏はディスカッションの前にモバイルなどの保険ビジネスのデジタイズの状況に触れた。Oscar Hearthはイヴァンカ・トランプ氏の夫の弟であるジョシュア・クシュナー氏が共同創業者。岩瀬氏はクシュナー氏とはビジネススクールの同窓という。
Oscar Hearthは2016年2月に4億ドルを集め、評価額は27億ドルに達したと報道されている。クスナー氏は自身が運営するファンドで、インド企業のPracto Technologiesに出資するなどこの保険テック領域に注視している。

Oscarのアプリの画面 via Oscar Hearth
Oscar Hearthのビジネスは医療保険と健康サポートであり、膨大な医療に関するデータを集め、安価な病院を紹介すると、岩瀬氏は説明した。「CTスキャンを受けたいというとこっちは◯ドル、あっちは◯ドルでこちらの方が安いと教えてくれる。ディジーズマネジメント(病気のマネジメント)の形で、病気になる可能性を減らす部分までサービス提供する。データをつかって高付加価値の医療に近づいていく」。
岩瀬氏はモバイル先進国の中国でも、ネット保険業が成長していると分析している。「損保のZhongan(ゾンアン)は中国の最大ネット企業2社のアリババ、テンセントが出資している。アリババ、テンセントのコマースやコミュニケーションアプリにくっついており、その都度マーケティングしている」。

アリババ、テンセントという最強タッグが推すモバイル損保「Zhongan(ゾンアン)」 via Zhongan webpage
中国の4大保険会社のひとつ中国平安保険も投資家に名を連ねる。COOのWayne Xuは元Googleプロダクトマネージャー。人材は必ずしも保険業界の経験を積んだものではないようだ。
FTによると、ゾンアンはアリババ、テンセント、中国平安保険がもつ、ECやソーシャル/メッセージング、保険業で培った国内最大級のクレジットスコア(信用偏差値)にアクセスできた。
「この前上海のカンファレンスに参加したが、テンセント関係の人ですごい質問攻めにしてくる人がいた。『ネット生保を準備している』という。2016年2月に認可を受けたばかり。昨年は中国のネット生保元年になった」と岩瀬氏は話した。
ネットエコノミーのカギは決済コスト
田端氏は、スマホ経済が日本で進んでいない理由として決済まわりに課題があると話した。決済コストがクレカの料率水準を下回るまでいくと、リアルでされているトランザクションもモバイルに入ってくるかもしれない、と指摘した。
LINEもLINE Payを運営しているが、日本では決済プラットフォームがとても断片化している。「一般論として、治安が良かったり、店員さんのオペレーションの質が高かったりするため、現金中心主義が浸透している。『どのプレーヤーが市場をどれだけを制している』の段階には至っていない」
「ただ、それも時間の問題で、決済にまつわる摩擦係数が減っていったりするはずだ。いまだと50円のキャッシュバックをペットボトルのお茶を購入した人にするのは無理だが、それもできるようになるだろう」。
日本の金融行政はフィンテックを支持する?
増嶋氏はフィンテックやスタートアップに関する規制・法務、ファンディングなどを解説するブログ「Startup Innovators」が有名。昨年は著書『FinTechの法律』を出した。
「金融ビジネスで考えたときに、ビジネスの価値はどこにあるのか。信用がないと金融ビジネスは成立しない。事務処理が正確に行われるのが最低ラインだが、ITを使うと『速い』というのが加わることになりそうだ」。
これは、機会損失につながる端末操作の手間やサービス間の断絶「フリクション」を解消する「フリクションレス」とイコールだ、という。いわゆる高い顧客体験(エクスペリエンス)を提供することだ。
銀行、証券、インシュアテックでも同様だそうだ。「ユーザーは保険に何を求めているか、というと『別に金が欲しい』わけではない。健康で長生きしたいというニーズがあるはずだ」。
岩瀬氏は増嶋氏に「日本で本当に金融関係のイノベーションが起きるのだろうか」「日本の金融行政がどこまでやってくるのか、金融庁にも在籍したことがある増嶋さんはどう考えるか」と質問した。
増嶋氏は「役所も人の集まり。個人として好きなことと嫌なことがある。幹部の人たちは日本の金融が将来どうなるかを真剣に考え、日本の金融が引き続き強い状態でいるにはどうすればいいか考える。フィンテック、インシュアテックのような部分でも総論として賛成。あんまりやりすぎると金融システムにも副作用が出るか、と考える」と話した。
「省庁の担当者レベルだと新しいことをするモチベーションがわかないかもしれない。新しいことを実現するのにたくさんのハードルがあり、実現した後も問題化すれば叱りを受け昇進に響く。だったら最初からやらないほうがいい。役人だからそうだと思うかもしれないが、サラリーマンでも一緒。ここをどうにかする方法がないか、が悩みだ」と説明した。
あらゆるものを市場に取り込める?
田端氏はスマホがあらゆるものを市場に取り込めるようになっている例として再びUberを挙げた。
「Uberで何が面白いかというと、ダイナミックプライシングだ。夕方にスコールがあったりすると、普通の料金の3倍に上がったりする。需要と供給で正しいとは思い、不満ながら乗ってしまう」。
岩瀬氏は「マクロで見たとき総需要は増えるのかという疑問がある。効率化されている部分と、いままで使わなかった人が使うことで需要が増えている部分と『往って来い』だと思う」と指摘。
Uberのシェアリングエコノミーや労働力のクラウドベース化には「供給者側が酷使されているのではないか」という点はないか、と岩瀬氏が田端氏に質問した。
田端氏は「需要と供給次第では、最低賃金を下回る可能性がある。スマホで(商取引やさまざまなコミュニケーションを進めるよう)になると、皆が供給者、消費者の双方になることになる」と話した。
Written by 吉田拓史
Photo by GettyImage