アメリカにおけるエージェンシーの報酬ベースのビジネスモデルは何十年も変化していない。その事実は、業界全体がコスト管理に苦労している大きな要因かもしれない。クライアントは報酬の引き下げや支払期限の延長を求め、プロジェクト単位の関係を好むようになった。エージェンシーはいまこそビジネスモデルを見直すべきなのだろう。
アメリカにおけるエージェンシーの報酬ベースのビジネスモデルは何十年も変化していない。その事実は、業界全体がコスト管理に苦労している大きな要因かもしれない。クライアントは報酬の引き下げや支払期限の延長を求め、長期的な関係よりプロジェクト単位の関係を好むようになった。エージェンシーは、いまこそビジネスモデルを見直すべきなのだろう。
エージェンシーの典型的なビジネスモデルは、クライアントがエージェンシーにサービス料を支払うというものだ。サービス料は、その業務に携わるフルタイム従業員の数、エージェンシーが関わる業務範囲に基づいて決定される。業務範囲の定義はクライアント、エージェンシーによって異なるが、キャンペーンの数、それらのキャンペーンに必要な資産、成果物に基づいて決定される場合が多い。エージェンシーは任務遂行に必要な各部署のフルタイム従業員の数を判断し、クライアントに請求する1時間当たりの料金を算出する。料金には人件費だけでなくエージェンシーの利益も含まれている。
エージェンシーの業務範囲はクリエイティブ、戦略、ソーシャル、体験、ブランディング、顧客体験、デジタル改革、メディア、SEO、パフォーマンスマーケティングとさまざまだが、業務範囲とは無関係に、多くのエージェンシーがこのビジネスモデルを採用している。2014年に米広告業協会(4A’s)が実施した調査では、調査の対象となったエージェンシーの約60%が労働ベースの報酬モデルを用いていた。4A’sのシニアバイスプレジデントとしてエージェンシー管理部門を統括するマット・カシンドーフ氏によれば、同じ調査では、16%のエージェンシーが手数料モデル(クライアントの代理としてメディアを購入し、手数料を受け取る)と報酬ベースの料金体系を組み合わせていたという。
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フォレスター(Forrester)のプリンシパルアナリスト、ジェイ・パティサール氏は「報酬モデルはあまり変化していない。それこそが、エージェンシーがいま直面している問題だ」と話す。「利ざやと締め付けに関して言うと、クライアントや調達組織が行っていることは、エージェンシーがかろうじて人件費をカバーできる程度に、報酬を出し渋ることだ」。
なぜエージェンシーは締め付けられるのか
報酬ベースの料金体系を用いているエージェンシーはしばしば、クライアントから特定サービスに対する月額報酬を受け取る。しかし近年、クライアントはコスト削減に目を向けており、エージェンシーに支払う報酬の抑制や支払期限の延長(90日または120日以上)、プロジェクト単位で契約可能なエージェンシーへの乗り換えを試みている。こうした変化は、すでに利ざやの縮小に直面しているエージェンシーがもはや、毎月安定した売り上げを得られないことを意味する。
キンバ・グループ(Kimba Group)の共同創業者レベッカ・ロソフ氏は電子メールで取材に応じ、「長年にわたって過剰請求が続いた結果、あるいは、過剰請求と認識し続けてきた結果、多くのブランドはエージェンシーと報酬ベースの関係を結ぶことに慎重になっており、クリエイティブパートナーを選択する際、『いろいろ比べたい』と思いはじめている」と分析。「プロジェクト単位の関係は人材の確保が難しい。ただでさえ、ほとんどのエージェンシーは優秀な人材をつなぎ止めることに苦労している。それでも、メディア環境が細分化している以上、エージェンシーはさまざまな分野の人材を確保し、サービスを提供しなければならない」。
パティサール氏は「その結果、エージェンシーは売り上げの不安定化、非常に厳しい利ざや、長い支払期間に直面している」と話す。「彼らはいまや、クライアントから支払いを受けるまでの数カ月間、自らの資金で従業員の給与を支払わなければならない。こうした複合的な要素がエージェンシーにのしかかり、エージェンシーはいま、経済的な問題に取り組んでいる」。
通常、老舗エージェンシーの方が苦労を強いられる。新しいモデルに適応しなければならないためだ。「この10年前後にできた新しいエージェンシーはビジネスモデルも新しく、プロジェクト単位の契約に比較的慣れている」と、パティサール氏は説明する。「彼らは適応し、プロジェクト単位の料金体系に対応している。また、彼らはデジタルメディア、プログラマティック、パフォーマンス、デジタル体験の開発など、より価値が高く、報酬を得やすい能力、分野に秀でている傾向がある。これらは実行を基本とする能力であり、クライアントはそうした能力に喜んで支払う」。
月額ベースの長期契約からプロジェクト単位の契約に移行すれば、エージェンシーが業務に取り組む方法にも変化がもたらされる。カシンドーフ氏は「月額報酬の世界では、担当者が特定の業務に100%の時間を投じ、働いては見直すという作業を最後まで続けていた」と話す。「一方、プロジェクト単位の世界では、特定の成果物に対して支払いが行われる。そのため、効率的かつ効果的に完成させる方法を考えなければならない。なぜなら決められた時間内に仕上げることができなければ、時間単位の報酬の利ざや分を使うことになり、最終的に損失を出す恐れがある。プロジェクトを順調に進めるには、これまでとは比べものにならないほどの精査が必要だ」。
どうしてこのような状況になったのか
報酬ベースの料金体系が浸透したのは、1986年にオムニコム(Omnicom)が創業してからだ。それまでは一般的に、クライアントのメディア購入の15%を手数料として受け取り、エージェンシーはそれでコストを賄っていた。
カシンドーフ氏は「広告を100ドルで販売した場合、クライアントから100ドルを受け取り、メディアに85ドルを支払い、15ドルが手元に残る」と説明する。「同様に、15%の手数料に相当する制作手数料の加算もあった。制作手数料率は17.65%だ」。
もちろん、エージェンシーは当時、制作とメディアの能力を併せ持っていた。パティサール氏は「手数料が変わることはほとんどなく、手数料と引き換えに、さまざまなサービスが提供されていた」と話す。「実質的に、制作と戦略は無料だった。メディア掲載によって利益を得ることができたためだ」。
その後、メディアと制作が分割され、エージェンシーのビジネスモデルは手数料ベースから報酬ベースへと移行した。
カシンドーフ氏は次のように述べている。「エージェンシーはかつて(マーケティングの)一部を担っていた。しかし、CMOの役割がなくなり、CROやCPO、CIOに取って代わったことで、エージェンシーはさまざまな言葉を覚え、これらのマーケターとさまざまな言葉で話そうと努力している」。
Kristina Monllos(原文 / 訳:ガリレオ)