ファッション動画マガジン「MINE BY 3M」を運営する株式会社3ミニッツは、興隆するデジタル動画専門パブリッシャーの代表格だ。同社は自社媒体で培ったノウハウを活かし、コマース事業およびエージェンシー事業も展開する。3ミニッツの松田昌賢氏と、Facebookの長谷川晋氏に、デジタル動画の可能性について伺った。
デジタル動画はようやくキャズムを超えた。
いまや、全世界で20億人のユーザーを抱えるFacebookのニュースフィードが、動画に対応したのは2015年。そして、ライブ動画に対応したのは2016年だ。以降、スマートフォンを利用して、誰でもいつでもどこでも、視聴者としてだけでなく、配信者としても動画コンテンツを楽しめるようになった。そうした動きへ対応するように、テキストが中心だったデジタルメディアの動画への転向が進む。
日本においても、デジタル動画を専門にしたパブリッシャーが増えている。月間1億回再生を誇るファッション動画マガジン「MINE BY 3M」を運営する株式会社3ミニッツは、その代表格のひとつだろう。3ミニッツは自社媒体で培ったノウハウを活かし、コマース事業およびクリエイティブエージェンシー事業も手がけている。
クリエイティブエージェンシーとしての3ミニッツの代表作のひとつが、フェイスブックジャパンの依頼を受けて手がけた、ブランディング動画「Your Story Your Facebook」だ。7月23日の「親子の日」に公開された、Facebookを通じた親子の絆を描く、この約2分のドキュメンタリー動画は、すでに11万回再生され、大いなる感動を呼んでいる。
今回、3ミニッツ代表取締役社長兼CEOの松田昌賢氏と、フェイスブックジャパン代表取締役の長谷川晋氏に、動画によるブランディングの可能性について伺った。
——動画ブームが加速しています。どんな実感をお持ちですか?
松田昌賢氏(以下、松田):スマートフォンの普及により、ユーザーのモバイルシフトが起き、コミュニケーションの中心がモバイルになっていきました。それに伴い、ビジネスの世界でもコミュニケーション手法がテキストからビジュアルへ進化したと思っています。
ビジネスにおける動画活用は4つの領域があると考えています。1つ目は動画を使った「広告配信」。2つ目は、ユーザー目線の動画を活かした「動画メディア」の運営。弊社が運用する「MINE BY 3M」のようなものですね。3つ目は、テレビや映画のようにリッチな「動画コンテンツ配信」。AbemaTVやNetflixなどが代表例です。最後に4つ目は「コミュニケーションツール」。FacebookやSnapchatなどのソーシャルプラットフォームです。これで、ようやく動画の主要プレーヤーが出揃ってきたと思います。
長谷川晋氏(以下、長谷川):実際、Facebook上で動画は、1日80億回再生されています。Instagramも、もともとは写真共有アプリでしたが、いまは動画の投稿が去年に比べて4倍近くに増えています。モバイルシフトによって、あらゆるプラットフォームにおいて、動画がコミュニケーションのど真ん中に来ている状態がもたらされたと思います。
松田:それに加えて、ブランドの動画利用も増えてきていますね。早いブランドだと2年前から動画を使ったマーケティングをはじめていました。従来はテレビの文脈でやってきたところを、ネットに置き換えたらどうやったらいいかの試行錯誤がはじまっています。そして、しっかりしたブランドの動画をデジタル向けに作ることは、いま我々のビジネスの中心です。世の中的にもそれがトレンドとして、新規参入事業者が立ち上がっていると思います。

「テレビ文脈ではない、ネットならではの動画が重要」と語る松田氏
——動画のマーケティング利用もすでに、一般的になりました。
長谷川:人と人のコミュニケーションがテキストからビジュアルに、ビジュアルから動画になったということは、ビジネスと人の繋がり方も、人と人の繋がり方の変化とシンクロするのは必然です。そのほうが当然ながら結果も出るでしょう。
松田:基本的にはパブリッシャーやブランドがどうしたいのかよりも、ユーザーの動きにあわせて適応するべき。メディアのあり方も同様で、ユーザーの変化に合わせて運営方法も変わってきています。そういうところを我々は捉えていかないといけないと思っています。サービスの基本は、ユーザーありきですから。
長谷川:それに応じてクリエイティブのあり方も変わってきています。テレビCMに何千万円とかけて作り込んだ渾身の一作と、デジタルのシステムで自動的に作れるクリエイティブとの中間に、かなり大きなビジネス機会があると思います。渾身のクリエイティブを一作、時間をかけて作るのではなく、ちょっとライトでありつつも、クリエイティブのツイストを織り交ぜたデジタル動画をいくつも作り、効果検証をしていくということです。
——「Your Story〜」では、フェイスブックは広告主でもあります。
長谷川:はい。今回は、きちんとFacebookのミッションを伝えられるような動画を作りたいという思いがあり、キャンペーンを実施しました。僕らのミッションは、コミュニティ作りを応援し、人と人がより身近になる世界を実現すること。人の繋がりもいろいろありますが、スタート時点のコアは家族ですよね。それに立ち返ったときに、家族の目線で見た繋がりを伝わりやすい形にしてみようと思ったのです。
また、Facebookだけではカバーできないケイパビリティを持つパートナー様との協業も大切だと思っています。Facebookだけでやりきれることは限られている。僕らはグローバルと日本にコミュニティを運営しているプラットフォームなので、動画というトレンドにユーザーがシフトしていく流れに、企業をシンクロさせる必要があります。しかし、僕らだけではやりきれない。そこで、いろんな知見やケイパビリティを持っている会社と組んで、一緒にエコシステムを作りたいと思い、今回は3ミニッツさんにお声がけさせていただきました。
松田:ご依頼をいただいたとき、普通のマーケティング課題ではなく、サービスの根本に関わるテーマだったので、すごくチャレンジングだと思いました。同時に3ミニッツだからこそ、ご提案する価値はあると思いました。

フェイスブックジャパンのオフィス内に描かれた3ミニッツのロゴ
——なるほど。そこで3ミニッツは、どのようなご提案を?
松田:まず、グローバルと日本でFacebookの使われ方に乖離があることを知りました。具体的には、日本だとビジネスアカウント利用が多くて、個人アカウントでも身近な繋がりについての投稿よりも、周りにどう見られるかを意識したビジネス的な投稿が多かったんです。
長谷川:そうですね。ビジネスにおいて生まれるコミュニティも我々が応援したいコミュニティのひとつですが、Facebook上で生まれる、人と人の繋がりのうち、今回は個人での繋がりの部分をより伝えたいと思いました。
松田:そこで、「1対多のコミュニケーション」として使うことを意識されがちなところを、あえて「1対1のコミュニケーション」に焦点をあてる企画にしました。今回のブランディング動画に登場した家族は一般ユーザーの中から公募し、実際にFacebookを活用して繋がっている親子のリアルな関係をストーリーに起用しています。
動画制作のポイントは、2つあります。まず、1つ目のポイントは、2分10秒の限られた尺で全部説明し切ることはせず、観てくれた視聴者に考えてもらう演出にしました。たとえば背景。この親子はどういう関係なのか、はじめは一切説明していませんが、動画内のセリフや印象となるカットを通じてわかるようになっている。2つ目のポイントは、動画の中に起承転結をつけるために、ギャップをしっかりつけたことです。前半と後半で少しトーンを変えたり、事実をどのように明かしていくかなど工夫しています。
——ストーリーテリングの工夫がポイントなんですね。この提案における3ミニッツの強みは?
松田:もともと、弊社は自社で運営するメディア事業とコマース事業のノウハウをもとに、インフルエンサーとリアルイベントを組み合わせた総合的なデジタルプロモーションを得意としています。そこで培った消費者の心理状況やユーザーの投稿心理、配信するプラットフォームに適した動画フォーマットに対しても、最先端の知見が溜まっていることが強みだと思います。
長谷川:そうですね。クリエイティブの出来は、一個人としてもクライアントとしても満足しています。なかでも個人的にすごく良いなと思っているのが、本物であることとか、リアルであることです。インターネットって匿名の世界からスタートしていますよね。そこにリアルなIDを持ち込んだのが、Facebookのユニークな所です。本物の人たちとの繋がりが、インターネットを通じてもできる。だから、僕らからのメッセージ発信も本物であり、リアルでなければいけません。
公募して、本当のストーリーを分かりやすく、伝わるようにするというのは、すごく僕らの会社としてのスタンスというか、プラットフォームの特性にマッチしている。また今回、動画に登場する親子の住む場所が大分と東京と、距離が離れていることが大きなテーマでした。人口減少などの特有の課題を抱えている地方都市においてこそ、人との繋がりというニーズが高まっていると感じます。地方生活者と都市生活者との繋がりを維持したいが、どうやって良いかわからないと。
人生のライフステージに変化があったり、帰ることを考えてみようかなと思ったときなど、地元との繋がりが維持されていればいろんなことが実現する、そこにはニーズがあります。距離が離れていてもバーチャルを通して、リアルな人との関係性を維持できることを伝えたいのです。このように距離を越えてバーチャルでの人と人とのつながりを可能にすることで日本のコミュニティに対して貢献していきたい所もすごくメッセージとして合致しています。

「今回の動画では、しっかりメッセージを伝えられた」と語る長谷川氏
——なるほど。ちなみにKPIは設定していたのですか?
長谷川:特に売上を意識した施策ではないので、ビジネス的なKPIは設定していませんでした。ですが、反響は大きかったです。直近で再生回数は11万くらい。キャッチーな内容なので、自分自身に重ね合わせていろんな複雑な思いにかられた人もいれば、海外の人にははじめて日本の親子の関係について触れて新鮮だったというリアクションもありました。
松田:私たちも、数字を伸ばすことよりも、Facebookを通じた人と人との繋がりの良さを丁寧に伝えることに集中しました。生活者のWebメディアやネットサービスの接し方、利用形態はどんどん変化しています。しかし、過去10年ほど遡ってみても、ネット上にある情報の生産量は上がっていますが、生活者の消費量はあまり変わっていません。つまり、普通に生活している人からすると、情報が物凄い勢いで氾濫しています。そのため、メディアの作り手としては正しい情報をきちんと丁寧に伝え、ブランドとファンの絆を築いていく必要があると感じています。
他方では、世界に目を向けると、ブランドセーフティ、アドフラウド、ビューアビリティの問題が深刻化しています。数字ありきではなく、きちんとユーザーとコンテンツに向き合っていくことが大切だと考えています。
——今後、動画のビジネス利用は、どうなるでしょう?
長谷川:ユーザーがモバイルや動画にシフトしていくなかで、まだまだマーケティングやビジネスのやり方自体を動かせていない企業はたくさんあると思います。今後のビジネス成長を考えると、そこが肝になります。僕自身も以前事業会社でそこをどうしようかと長年考えてた経験があります。いろんなニーズを聞きながら、プラットフォームとして企業のベストパートナーになれるような存在になりたいですね。
松田:デジタル動画を活用したプロモーションは増えてきているものの、ブランディングのために実施をしているところはまだ少ないと思います。獲得型の動画広告やネタ的なバズ動画ではない、ブランディングのための動画活用は増えていくでしょう。3ミニッツとしては、ブランドとファンの絆をつなぐコンテンツを作り、いろんなプラットフォームで発信していくことで、ブランドのマーケティングパートナーとなっていきたいです。
▼松田 昌賢(左)
株式会社3ミニッツ 代表取締役社長兼CEO
東京大学工学部卒業後、戦略コンサルティングファームのA.T.カーニーを経て、2012年グリー株式会社へ入社。2015年4月より執行役員、経営企画部長としてグリーグループ全体の戦略統括、グループ会社4社の取締役等を歴任。2017年2月より3ミニッツ代表取締役社長に就任、グリー執行役員スタイルメディア事業本部長。
▼長谷川 晋(右)
フェイスブックジャパン 代表取締役
京都大学経済学部卒。消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブルで「パンパース」、「ジレット」のブランドマネージャーを経たのち、シンガポールにて「ブラウン」や「SKⅡ」などのリージョン責任者に従事。その後、楽天株式会社でグローバルマーケティングの責任者を経て、上級執行役員としてグローバルおよび国内のマーケティングとブランディングを統括。2015年10月よりフェイスブック ジャパン代表取締役に就任。
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Written by 広告制作チーム
Photo by 渡部幸和