PwCコンサルティング・パートナーの松永エリック・匡史氏はDIGIDAY[日本版]に対し、PwCは日本でもデジタル領域における企業変革サービスを拡大し、日本国内におけるエクスペリエンスセンター開設を想定に入れていると語った。
コンサルティングファームがいわゆる「デジタル」領域のサービスを強化し、広告会社の領域とオーバーラップすることは業界の大きなトレンドだ。日本でもアクセンチュアのIMJ買収、電通・博報堂DYによる「デジタル」の設立、マーケティングソフトウェア企業の参入と新しいエコシステムがダイナミックに形成されはじめた。
同時にクライアントサイドでは、IoT、AIなどのバズワードに代表されるトレンドのなか、製造業を中心とした日本企業にいわゆる「デジタルディスラプション」に対する危機感が露わになり、企業活動のデジタル変革サービスのニーズが著しくなっている。
PwC(プライスウォーターハウスクーパース)コンサルティングは、2013年にデジタルクリエイティブエージェンシーのBGTを買収したことなどでデジタルに参入。2015年に米フロリダに企業によるエクスペリエンス提供を支援する「エクスペリエンスセンター」を開設した。米アドエイジ誌によると、米PwCデジタルは広告ホールディングスを除けば、上位の「エージェンシー」に食い込んでいる。
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PwCコンサルティング・パートナーの松永エリック・匡史氏はDIGIDAY[日本版]に対し、PwCは日本でもデジタル領域における企業変革サービスを拡大し、日本国内におけるエクスペリエンスセンター開設を想定に入れている、と語った。
エクスペリエンスセンター開設を検討
「PwCデジタルはデザインファームを買収して、それをベースにコンサルティングノウハウを注入することからはじまった」。松永氏は話した。PwCデジタルが世界で展開する「エクスペリエンスセンター」は、企業が強力なエクスペリエンスを生み出すのを支援するための場所。「米国ではエクスペリエンスセンターに企業の経営陣に来てもらって、一定期間エクスペリエンス、デザインについて集中して学ぶ。最終的には一緒に成果物を出すというところまで体験してもらう」。
物理的な距離、時差が気になるときには日本でも同様のサービスを受けられるようにするという。「クリエイティブエージェンシーの機能を成り立たせるための人材はすでに雇い入れている。ただし、人数だけ増やせばいいというものではなく、少数精鋭でやっていきたい」。
松永氏はコンサル企業がエンジニア、デザイナーを抱えて、アプリを1週間でつくるというトレンドは日本でもすでに存在し、アクセンチュアデジタル、デロイトデジタルなどがそのサービスを提供している、と指摘する。「クリエイティブエージェンシーをコンサルティングのなかに組み入れることで意味がある。(クリエイティブが)経営変革と組み合わされ大きなパイに入ることで、お客様にもバリューがある」。企業経営者にコンサルティングを提供する上流サービスへ、デジタルクリエイティブを足すことが変化の早い時代のニーズと合致するようだ。
「従来のコンサル企業らしくない」人材が顧客中心型ビジネスの構築支援するエクスペリエンスセンター
ただエクスペリエンスセンターは日本の慣行になじませる必要があるという。「日本ではエクスペリエンスセンターに社長と副社長が来てもらってというのは考えられない。やはり日本の独自の方法が必要だ」。今年2月には香港にエクスペリエンスセンターが設立された。日本での「デジタル」領域のサービスにはPwCのグローバルなネットワークを活用する。「香港のデザイナーが案件に合っているときは、香港の人とつなげていく。インドに最適なエンジニアがいるならその人とつなげていく」。
海外の場合は買収したデザイン・制作企業のオフィスをエクスペリエンスセンターにし、コンサルティングビジネスと融合させてきた。日本でも買収の可能性はある、と松永氏は語る。「買収という選択肢は日本でも考えているが、買収ありきじゃない。もし自分たちでできるのならそれでいい」。
自分らのサービスが広告代理店業と重なるという認識はない。「広告代理店と広告主という形ではなく、企業の変革を支援するというコンサルティングという形で、価値提供をする」と松永氏は語った。「お客さんがこういうことやりたいとなったら、仮説を立てて、フェイズはこうだとやる。3日間、膝突き合わせて『こんなアイデアがいいんじゃないか』と考える。1週間後にはアプリケーションの形になっていて『これどうですか?』と提案する。200ページの提案書ではなく、お客様と最初から一緒につくっていくようになる」。
最高デジタル責任者の創設
日本企業をデジタル時代に対応できるようにするには、組織変革を行うことが重要だ。横串でデータを管理できる部署や組織情報でデータを一元管理できる機関をつくることがひとつ。もうひとつが、CDO(最高デジタル責任者)の創設だ。「CEOが陣頭指揮を取るのがベストだが、変化が激しいのでデジタル分野に目を光らせるのは難しい。CDOでなければ場合によってはCIO(最高情報責任者)が兼ねたり、CMO(最高マーケティング責任者)の下にその機能を置いたりするのも有り得る」。CDOは情報資産に関する企業全体のガバナンスと有効利用に責任を負っており、データを活用し、リスクを管理し、収益機会を生み出すことに尽力することが求められているという。
日本型のキャリア形成を経た経営者層にとって、急速に発達するデジタル領域に手が届かないケースがままあるようだ。「コンサルファームとしてデジタルに関するノウハウを提供し、CDOを支援する」。
「今後のコンサルティングでは、ストラテジー(戦略)だけでなく、エグゼキューション(執行)が求められる面がある。絵を描くだけじゃない。我々がもたない能力に関しては、最高のパートナーシップを組むことが大事になる。さまざまな能力をもつプレイヤーがひしめくが、各社とのコミュニケーションをうまくやる。昔の大企業は、大企業しか見なかったが、名前も聞いたことのない新興企業が数年後に変化を生み出す時代。パートナーには新興企業も増えている」
センサーが生み出すデータは増大し続け、重要さを増している。「代理店などと連携しており、データソースをもってくることができる。ビッグデータをどう解釈するか。仮説を試行してみて、結果を分析しまた試すを繰り返していくことにしか答えはない」
報酬体系は収益分配型へ
「ギタリストからコンサルタントに転職した」という異色の経歴をもつ松永氏。データ活用の好例としてNetflixがドラマ「ハウス・オブ・カード」で用いた方法を挙げた。「Netflix、Huluはモノをつくっている。天才クリエイターが作品をつくることは続くが、ビッグデータを活用してモノができる時代になった。音楽をさまざまな構造にバラし、トレンドを分析した末に、ヒット曲がつくれる可能性を否定できない」。
日本版をローンチしたばかりの音楽ストリーミングサービス「Spotify(スポティファイ)」の差別化要因はサブスクリプションモデルではなく、データを活用して新しいアーティストを生み出すと差別化になると指摘する。
ギタリストとしてアメリカのバークリー音楽大学に進学した経歴をもつ異色のコンサルタント、松永氏
「映画コンテンツなどでは表情認識と脳波が重要だ。コンテンツプロバイダーはユーザーがコンテンツを視聴しても『つまらない』と感じられていることは関知できない。テレビなどにもセンサーが搭載されており、視聴率よりも深いデータをとれる」。
デジタル領域のコンサルティングサービスを提供する際、企業収益への貢献をどう説明するか。「フィーベースが壊れつつある。レベニューシェア(収益分配)方式の事例が海外で出ている。モノを一緒につくったとしたら、そこで終わりだったが、今後は売るところまで一緒にやる。収益分配方式は勝率を上げないといけない。これまでは予算の関係で最後の部分まで関与できないことも多かった。これからは長く付き合うことが重要になる」。
Written by 吉田拓史
Photo by Wikimedia Commons(TOP画像)