このコラムの著者、マーク・ダフィ(56)は、広告業界辛口ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人。米BuzzFeedで広告批評コラムを担当していた業界通コピーライターだが、2013年に解雇を通達された。今回のテーマは、コレボレーションで制作される広告のつまらなさについて。
このコラムの著者、マーク・ダフィ(56)は、広告業界辛口ブログ「コピーランター(コピーをわめき散らす人)」の運営人。米BuzzFeedで広告批評コラムを担当していた業界通コピーライターだが、2013年に解雇を通達された。趣味のホッケーは結構うまい。
世界で3番目に大きな広告ホールディング企業ピュブリシスグループ(Publicis Groupe)は、彼らが有するすべてのエージェンシーにおいて、2018年の広告賞レースへの参加を禁止すると先月のカンヌで発表した。だが、これは「注目してくださぁい!」と叫んでいるプロモーションに過ぎない。外向きのPRとしては一時的に注目を集められるかもしれないが、内部的にはそれより大きなダメージを負う(というか、広告の賞は意味がないので、すべてのエージェンシーがピュブリシスの真似をして止めれば良い)。
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それと同時にピュブリシスは、全社的なAIプラットフォーム「マルセル」をローンチする計画を発表した。マルセルは創業者であるマルセル・ブルースタイン-ブランチェットの名前からきている。業界全体はそれに対して「えっと……それ何?」というリアクションで応えた。
ピュブリシスの言い分
CSOであるカーラ・セラーノ氏の(曖昧な)説明によるとマルセルは、ピュブリシスの8万人のスタッフが「さまざまな方法でつながり、共同クリエーションをし、シェアをする」助けとなるらしい。
CCOのマーク・タッツセル氏によると、マルセルは「アイデアに無限の可能性を与えるジャンプ台である」という。何じゃそりゃ、である。
「あらゆる部門間の壁を取り壊すだろう」というのは、グローバルビジネス開発責任者のローレン・ハンラハン氏。そしてCEOのアーサー・サドーン氏に至っては、マルセルは人材をプロモーションすることができ、仕事を奪うようなこともなく、そして業界を変えてしまうと宣言している。良く変わるのか、悪く変わるのかは見どころかもしれない。
ぶっちゃけ「乱交アイデア」
ここまで読んでピンときただろうか。
ワタシの考えはこうだ。マルセルはクリエイティブの仕事を「クラウドソーシング」するためのツールだ。クリエイティブをクラウドソーシングするとどうなるか。クリエイティブ分野においてコラボレーションを行うことになる。それによって生まれるのは、インターネットもポリティカリーコレクトなんて言葉もなかった時代に、我々が(汚い言葉で申し訳ない)「乱交アイデア」と呼んでいた仕事だ。
「乱交」クリエイティブの結果から生まれる広告は、どうしても考え過ぎな、臆病な、薄まった広告になってしまう。この事態は何度も見てきたし、「グループによる広告」を制作するプロセスに何度となく関わったことがある。そして毎回必ず、間違いなく、クソのような広告を生み出してきた。
「考えるな、グループで考えろ」は、最近の多くのテック系、コンサルタント系の広告エージェンシーのモットーにピッタリなんじゃないだろうか。
クリエイティブの共産主義
いま、ピュブリシスのような「伝統的な」広告エージェンシーも業界における重要性を失うことを恐れて、これまでの2人制のクリエイティブチーム(コピーライター/アートディレクター)を段階的に廃止しつつある。そして、アカウント、戦略、ソーシャルといった肩書のスタッフへクリエイティブの判断に意見を出させつつある。
そうして、「皆で一緒にクリエイティブ!」という世界の出来上がりとなる。この新しいプロセスを「共同クリエーション」(上のセラーノ氏の発言を参照)なんて呼んでいる。そうしたら皆がアイデアの発案者になれるだろう(同時に誰のものでもないアイデアなんだが)。これによって成功した広告の手柄は皆のもの、失敗した広告の責任は誰のものでもなくなる。これは最高のシステムだと思わないか。
ピュブリシスがマルセルを導入させていくと同時に、社内には「戦争は平和である、自由は屈従である、無知は力である」のポスターが見られるようになるのかもしれない(ジョージ・オーウェルの小説『1984年』に登場する独裁政党のスローガン)。広告についてのエッセイであまり政治的な話はしたくないが、このクリエイティブにおける共産主義は、素晴らしい大胆なアイデアを殺す。
「すべての都市にある公園で探してみたが、委員会(グループ)を称える彫刻はひとつもなかった」。反コラボレーションを訴えるこの引用は偉大なアイデアが個人から生まれていることを指摘している。しばしば間違ってデービッド・オギルヴィによるものだとされるが、実際はイギリスの作家G.K.チェスタートンの言葉だ。彼は「パラドックスの王子」として知られている。
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「自身の表現」を実行すべき
オリジナリティがあり、大胆なアイデアが作られるのは「個人的な」経験からだ。これをジョン・ヘガーティ卿は「自身の表現」と呼んだ(ジョン・へガーティは大手広告代理店BBHの創業者)。1982年以降にヘガーティと彼のBBHによって作られた偉大な広告を見るといい。それを新しいデジタルエージェンシーがグループで「ブレインストーミング」をして作った「コンテンツ」とやらと比べてみてほしい。
それでも広告を中学校のグループ科学実験にしたがる、めでたいデジタル連中がいるから困る。応用心理学の研究によると、コラボレーションは平凡な、二流の結果につながる。二流のスタッフを励まし、パフォーマンスの良いトップクラスのイノベーターたちのやる気を無くす。その結果、トップクラスのスタッフが会社を去ることになる。
仲良しコラボレーションの世界へようこそ、だ。
Mark Duffy(原文 / 訳:塚本 紺)