パンデミックがきっかけで生まれたリモートワークブーム。その潮流はいま、より多くのプロフェッショナルがエキサイティングな異国の地でビジネスとプライベートを両立させる道を開いている。
パンデミックがきっかけで生まれたリモートワークブーム。その潮流はいま、より多くのプロフェッショナルがエキサイティングな異国の地でビジネスとプライベートを両立させる道を開いている。
海外渡航の制限緩和が進むなか、観光業者らは滞在客を呼び込もうと、保養地や行楽地というよりむしろ、リモートワークに最適な地として、自らを売り込みはじめている。
実際、どこででも仕事ができるのがリモートワーク最大の利点のひとつだ。コンピュータセキュリティ企業、カペルスキー(Kaspersky)の調査「セキュアリング・ザ・フューチャー・オブ・ワーク(Securing the Future of Work)」においても、回答者8000人のうち32%が、もっともパンデミック後も維持したいこととして、この点を挙げている。
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そんななか、オンライン旅行代理店ラヴホリデイズ(Loveholidays)は、年間の平均気温および降水量と、ビーチやレストラン、ショッピングモールの数をもとに、ワーケーションに最適な候補地ランキングを発表した。同社はさらに、宿泊地やアクティビティ、リモートワーカー対象の割引について、ビザなしでの滞在期間などの情報とともに提供し始めている。
ワーケーションビジネスの展開
たとえば、インド洋の島国、モルディブでは、仕事と健康の融合を謳う「ワーク・エフェクティブリー(Work Effectively)」パッケージを提供し、快適なWi-Fi環境を備えた「オーシャンフロント・ワークステーション」を用意している。さらに、フライト情報の確認や、仕事や懇親会などのスケジュール管理、コピー・印刷や事務手続きといった日々の諸事をこなす秘書まで提供する。
一方、インド洋の東アフリカ沖に位置するセーシェルでは、「ワーケーション・リトリート(Worcation Retreat)」パッケージと称し、同国のリゾート地に長期滞在し、リモートワークを行う者全員に割引価格を提供する。さらに、家族にも同じ特典を提供し、医療機関へのアクセスも保証する。
ラヴホリデイズが挙げるトップ10リストは、ドバイ、アルバ、タイ、モーリシャス、アンティグア、タークス・カイコス、セントルシア、バミューダ、セーシェル、ナミビアだ。いずれも、米国民はビザなしで、もしくは観光ビザで30~90日間滞在できる。英国民も同様だが、タイだけは例外で、ビザが必要となる。
バルバドスやバミューダといった人気の保養地は当然、いわゆるデジタルノマドビザをほかに先駆けてすでに発行しており、最長2年間、自由な滞在を認めている。無論、これは利用者の状況と懐が許す限りにおいてだが、それだけの期間をひとつの場所で過ごせる人にとっては、ワーケーションが解決策になるかもしれない。
仕事と旅行を両立させる企業家たち
テキサスに拠点を置くオーストラリア人起業家、サラ・ハウリー氏もまた、仕事と旅行の両立を提唱しており、訪問地としてタイを上位に入れる。今は差し当たり、夫で元NFL選手のジョー・ハウリー氏と幼い息子とともにキャンピングカーで米国内を回り、旅行欲求を満たしている。ハウリー氏はリモートジョブマッチングプラットフォーム、グロウモートリー(Growmotely)のCEOおよび創業者で、旅にベビーシッターを連れて行くこともあるが、それ以外のときは、夫と分担して子どもの面倒を見ている。彼女の夫も経営者で、現役を引退した男性アスリートがスポーツ以外に人生の目的を見つける援助をする会社ザ・ハート・コレクティヴ(The Hart Collective)を営んでいる。
「私があちこち動きながら仕事をしている一番の理由は、ほぼいつでも旅と冒険をしていたいから。基本的に、ひとつの場所に留まるのは長くても3週間。すぐに飽きちゃうし、日々の暮らしに移動と冒険があるほうがクリエイティブになれる気がする。だからこそ、私はどこにいても仕事をする」。そしてハウリー氏は、いま、こうした働き方を容認する企業が増えているはずだと断言する。
旅をしながら働いていると、仕事と休みの境界線が曖昧になるものだが、ハウリー氏の場合、年に3回ほど、完全にスイッチを切るようにしているという。
「従業員が何をしていようが、どこでしていようが、やることをちゃんとやってくれれば、何の問題もない」と、ハウリー氏は語る。ただ、そのためにはオフライン時に自分の仕事をどうカバーしてもらうのか、そして仕事と休みをどう線引きし、それをどう徹底するのか、個々に責任を持って対応することが不可欠だとも言い添える。
渡航制限が全面解除されたあかつきには、ハウリー氏は故郷オーストラリアへのワーケーションを優先することを考えている。その際、オースティンからメルボルンまで、20時間のフライトを最大限活用するつもりだという。
同じくオーストラリア人で、ベルリンに拠点を置くカーボンポジティブなサーチエンジン、エコシア(Ecosia)のCMO、ハナ・ウィックス氏は、同社が新たに導入する、クリスマスとイースター時期の4週間にわたるワーケーションの利用を楽しみにしているという。
「うちのチームには北米と南米の出身者がかなり多い。だから、帰郷の機会を十二分に活用するという意味で、リモートで働きながら休暇を取れるのは理に適っている」と、ウィックス氏は語る。
「住みたい場所を自分で選べる」
一方、英国に暮らす人々の間では、より近場のポルトガルがリモートワーク地として人気が高く、アルガルヴェやマデイラ島を拠点にする者が多い。もっとも、本記事の配信時(6月11日)、ポルトガルは英国の「アンバーリスト[要注意国リスト]」に入ったばかりで、帰国前に隔離と検査が必須となっている。
ラヴホリデイズは先述のトップ10リスト作成にあたり、英国から遠く離れた場所のみを調査対象としていたが、あらためて評価してもらったところ、ポルトガルはセントルシアと同じ順位だという。ポルトガルには、米国民と英国民の場合、ビザがなくても90日まで滞在できる。
アルガルヴェの技術力向上を目的とするNPO、アルガルヴェ・エヴォリューション(Algarve Evolution)の代表、ミゲル・フェルナンデス氏によれば、Facebookのグループ、アルガルヴェ・デジタル・ノマッズ(Algarve Digital Nomads)はこの2年でメンバー数が倍増しており、5000人を超えるメンバーのうち、フェルナンデス氏の見積もりでは、70%が現在同地でワーケーション中か、リモートワーカーとして移住し、そのまま残って永住を決めた者たちだという。
ロンドンに暮らすフィンランド人で投資企業家のマルク・ペテルゼンズ氏は、2019年からアルガルヴェをたびたび訪れている。現在、妻(米企業のコンサルタント)と学齢期の子ども2人を連れた移住を検討している。同地にはすでに、都会を離れたがっていた高齢の母親が暮らしており、その近くにいたいとの思いもあるという。
「起業家は、住みたい場所を自分で選べる。アルガルヴェは気候もインフラも素晴らしく、保養にも仕事にも最適だ」と、ペテルゼンズ氏。「のんびり過ごしたいと思える場所の近くで働けるのは最高だよ。自由な時間ができたときにはもう、その場所にいるんだから」。
ペテルゼンズ氏は早くも将来のワーケーションを楽しみにしており、夏のハイシーズンはアルガルヴェを離れ、フィンランドか英国、あるいはアジアに行くことも考えている。ただし、とペテルゼンズ氏は言い添える。小さな子どもがいる共働き夫婦の場合、ワーケーションには一時保育が欠かせない。ワーケーションが扶養家族のいない人たちの独壇場にならないよう、旅行業者や観光地は慎重に検討していく必要がある。
MARYLOU COSTA(翻訳:SI Japan、編集:小玉明依)
Illustration by IVY LIU