電通は2016年2月12日、同社が展開するプライベート・マーケット・プレイス(電通PMP)で、「Premium Videoシリーズ」のローンチを発表した。クロスプラットフォームの出稿において、ブランド認知につながる高品質 […]
電通は2016年2月12日、同社が展開するプライベート・マーケット・プレイス(電通PMP)で、「Premium Videoシリーズ」のローンチを発表した。クロスプラットフォームの出稿において、ブランド認知につながる高品質なデジタル動画の在庫が十分ではない現状に対応する。電通デジタルビジネス局プログラマティック戦略推進部の村山亮太氏はDIGIDAY[日本版]の取材に応じ、リアルタイムビッディング(RTB)とは別の、クローズドな仕組みを構築し、プレミアムなパブリッシャー(媒体社)と広告主を結びつける、高質な市場の構築への意欲をみせた。
プログラマティック広告ではPMPのような閉鎖的な仕組みが注目を浴びている。オープンオークションでは多数のSSPとDSPが蜘蛛の巣上に常時接続しており、広告主側からは「どこに出るかわからない」、媒体社側からは「誰が買うかわからない」という部分があった。広告主側にはブランドセーフティやビューアビリティ(可視性)の懸念があり、媒体社側は低品質なインベントリー(在庫)が値崩れを引き起こすことに懸念があった。
電通は「電通PMP」を2014年に開始し、2015年2月に電通PMPベータ版をスタート。今回のPremium Videoのリリースにより本格的なスタートになる。
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電通PMPはGoogleの「DoubleClick Bid Manager」と「DoubleClick Ad Exchange(adx)」のテクノロジーを利用。DoubleClickが提供するプリファード・ディールス(Preferred Deals)という仕組みを使う。プリファード・ディールスは純広告とRTBの中間。RTBで扱われる前の在庫に対して行われる取引という位置づけだ。バイヤーひとりによるプライベートな取引、数人のバイヤーによるセミプライベートな取引などを含んでおり、選ばれたバイヤーが選ばれた媒体社の枠を買い、入札を経ない。プリファード・ディールでは、CPMだけが固定だが掲出時期・インプレッション数は担保されていない(詳しくはこちらの村山氏記事)。
村山氏は将来的には純広告のようにCPM・時期・インプレッション数がすべて決まっているプログラマティック・ギャランティード(Programmatic Guaranteed)を導入することも視野に入れているという。
クロスプラットフォームで認知獲得
「Premium Videoシリーズ」はクロスプラットフォームでの広告出稿という広告業界の大きなイシューに関するものだ。村山氏は「刈り取り型がメインだったデジタルで認知がとれるようにしたい」と語った。「今後はデジタルおいてCPAに加え、認知をKPIに設定できるようにしたい。テレビとデジタルが認知と刈り取りに割れていたが、今後はデジタル動画で認知獲得ができるようになる」。
現状テレビCMのリーチを補填する広告を探したとき、広告主の要請に見合う在庫が大幅に足りない。つまり、広告主が出稿先を見つけるのが難しい場面が出ているという。村山氏は解決策として、まず供給できる「プレミアムな在庫」の量を増やすことに注力する、と話した。特に近年はモバイルシフトにも対応し、課題として浮上している、モバイルのロード時間にも入稿秒数を短縮するなどの対応を行う。
バイヤー(広告主)側がRTBに自信を失う要因として、ブランド毀損と低ビューアビリティ(可視性)が挙げられるという。バイヤーが確認できないまま不適当な枠に掲出されることにより、むしろ消費者がネガティブな印象をもつ可能性すらある。画面に出ないままにインプレッション(表示)とカウントされるケースが多いと言われる。
ビューアビリティは最低限の基準
「認知を獲得するために、ビューアビリティは必ず越えなければいけない基準であり、インテグラルアドサイエンス(integral ad science)やGoogleのツールで管理している」。PMPに参画している約230媒体社の中からひとつひとつ優良広告枠を設定することで、枠への信頼を醸成する。ビューアビリティとアテンションの相関性に疑問を呈する向きもあるが、村山氏は「ビューアビリティがない限り、アテンション(関心)を得ることはできない、ビューアビリティは最低限の基準」と話している。
アテンションの獲得を考える際にもっとも重要な役割をはたすのは、クリエイティブと指摘。クリエイティブが良ければ、ユーザーは関心を示し、別の指標も引き上げられるようだ。アテンションによる広告販売の方法である「CPH(Cost-per-hour)」なども将来的に考えていきたいとしている。
ただ、ユーザー体験もまたアテンションを引き出すために重要になる。動画広告のテクノロジーには、フランスのアドテクベンダーTeedsを選んだ。「掲出時にユーザーがスクロールを繰り返しても引っ掛かりがない。もっとも滑らかな体験を提供できるテクノロジー」(村山氏)というTeedsは多彩な動画広告フォーマットに強みを持つ。トップリッチ(サイト上部リッチ枠)、ビルボードビデオ(サイト上部大型枠)、インリード(記事文中枠)、オートプレー(自動再生動画広告)、インストリーム(動画コンテンツ内に流れる動画広告)を提供する。媒体社、ベンダーと協力してユーザーストレスを試験し、最適な掲出方法を整備している、と村山氏は語った。
記事内にすっと現れる動画広告、インリード広告(Teadsホームページより)
多彩なフォーマットがカスタマージャーニーを設計し、顧客の態度変容を促す際に役立つという。ひとつのフォーマットではなく、適切なフリクエンシー(頻度)を保ちながらさまざまなフォーマットで接触すべき、と村山氏は語っている。今までの電通PMPメニューと同様に、ターゲティングを含めた広告配信制御が可能だ。
「電通イージスのアムネットと共同の結果」
英国の主要パブリッシャーによるパンゲア・アライアンス(Pangaea alliance)というパブリッシャーが連合する例もあるが、村山氏は電通PMPがこれらの取り組みとは異なるものとの認識だ。
今回のPMPの取り組みを着手する際して、村山氏はイージス系海外子会社のトレーディングデスク、アムネット(Amnet)と共同で日本市場に適した仕組みを模索した結果、GoogleのテクノロジーによるPMPに落ち着いた、と語った。電通イージスは2015年、マーケティング業界で2番目にM&Aを実施したと言われ、2016年1月にはブラジルのオンライン・オーディエンスデータ企業ナベッグ(Navegg)と株式100%取得で合意。プログラマティック部門にも投資を続けている。
エージェンシーでは、トレーディングデスクだけでなく、Googleなどを介したメディアバイイングも主流になりつつあるかもしれない。WPPは2015年11月にデジタルエージェンシーEssenceを買収。同社の事業の柱はGoogleでのバイイングとそれに伴うコンサルティングだ。マーティン・ソレルCEOは2015年にグループでブランドの広告予算40億ドル(約4800億円)をGoogleに、10億ドル(約1200億円)をFacebookに投じたことを明らかにしている。
Written by 吉田拓史
Photo by Thinkstock/Gettyimage