「プロジェクト単位の仕事は、やる気をなくす」:あるクリエイティブディレクターの告白

指定広告代理店(AOR)からプロジェクト単位へと業務がシフトするなかで、エージェンシービジネスが変化しつつあり、エージェンシーとクライアントの関係性もこれまでとは、かなり違ってきている。

匿名を条件に本音を語ってもらうDIGIDAYの「告白」シリーズの今回は、独立系のクリエイティブエージェンシーでクリエイティブディレクターを務める人物に話を聞き、プロジェクト単位の業務でエージェンシーがクライアントのために最善を尽くさない理由と、短期的な思考がいかに互いのビジネスに悪影響を及ぼしているかを語ってもらった。

なお、インタビューには多少編集を加えてある。

──プロジェクト単位の業務は、エージェンシーのクライアントに対する仕事をどのように変化させているのか?

優れたアイデアには持続性がある。よくあることだが、キャンペーンが本当に優れた効果を発揮するには、少し時間がかかることが多い。私が思い浮かべるのは、プログレッシブ(Progressive)の「フロー」(架空のCMキャラクター)だ。出てきた当初はどちらかというと古臭く、ひねりのない案内役だった。それがひとつのキャラクターに成長した結果、いろいろと遊びを入れられるようになった。とても愉快で新鮮味のあるものになったが、そうなるまでには時間がかかった。しかし、いまのプロジェクト単位の世界では、とにかく時間がない。クライアントに雇われて、この仕事をやってくれと言われて、その期間は6カ月、それで終わりだ。ちょっとやる気がそがれる。

ブランド構築は、坂道で岩を押し上げるのに似ている。押すのを止めたとたん、岩は下に転げ落ちてしまう。プロジェクト単位の仕事というのは、坂道で岩を押し上げるべく雇われたのに、終わるとまた岩が下まで落ちてしまうような感覚だ。それが何になるのか。わざわざやる意味があるのか。クライアントがいつかそれに気づく日が来るのか、それとも、彼らの世界は目先のことばかりになっていて、いまの四半期さえ乗り切ればよく、ふたつ先の四半期のことなど、自分たちがまだそこに在籍しているという保証もないからどうなろうとかまわないのか、私にはわからない。

──マーケターが短期的な成長にとらわれていることが、プロジェクト単位の業務を増やしていると思うか?

(短期的思考は)クライアントを死のスパイラルに陥れる。当座の売り上げに気をとられるあまり、ブランド構築を犠牲にしてしまうのだ。しばらくの間はそれでよくても、いずれツケを払う時がやってくる。消費者のマインドに付加価値をもたらさないブランドは、ただのコモディティでしかない。今日の売り上げを得るという短期的なニーズはわかるが、それ以上のことをしなければ、明日の見通しは暗いだろう。

──それによってクライアントとの関係はどのように変化しているか?

キャンペーン(の業務)で4カ月だけ限定的な形で雇われ、特定の仕事を任されるというのは、クライアントのビジネスから距離を置かれているわけで、そうした場合に我々が全力で付加価値を提供することはない。ひどいようだが、そこまで身が入らないのだ。気分としては傭兵に近い。もっとも懸命に戦うのは、自分の陣営に忠誠を誓う兵士であり、彼らは大義のために戦う。しかし、頼まれた仕事をして去るだけの傭兵なら、戦いぶりも違ってくるし、そこまで必死にならない。それと同じことで、そうした態度が見えるとクライアントはエージェンシーに失望するのだろうし、そしてそれ自体が死のスパイラルにつながっていく。

──つまり、よりビジネス然とした関係になっていると?

クライアントがFacebook広告を10本希望していて、出せる金額は5000ドル(約54万円)まで、といった純粋に業務だけの関係だと、そこに将来性が見えないので私は最低限の仕事しかしない。その関係に未来がなく、ごくビジネスライクで、そこに(信頼関係がない)ことをはっきりと示されているのに、もらえる金額以上の仕事をする理由がないからだ。信頼してくれるクライアントが相手なら、信頼に応えなければと我々は死に物狂いで取り組む。クライアントが我々と距離を置き、信頼せず、すべてのインボイスにケチをつけるなら、相手がそのつもりならと我々も最低限しかやらない。しかしそんなふうに仕事がしたいわけではない。楽しくはない。

──プロジェクト単位の業務が増えている現状に不安は?

感じている。そのなかで気づいたのは、我々の収益が変動しやすくなってきたのに合わせて、コスト構造にも変化をもたせやすくする必要が生じている点だ。それはつまり、フリーランサーを増やすことを意味する。優秀なフリーランサーは大勢いるが、そこにはやはり傭兵の意識が伴う。最高の仕事は、それなりの期間にわたって互いを知り、互いを信頼している結束の固いチームによってなされる。そうした人員で仕事ができなければ難しい。フリーランサーを使うと寄せ集め集団になりかねない。リスクは確実にあると思う。結束の固い、経験を積んだチームという昔ながらのモデルがなくとも、優れた仕事をすることは可能だろうか? また同時にそれは、エージェンシーにまつわる最悪のステレオタイプを永続させる。エージェンシーというのは偽装ばかりで、ピッチに参加する人間はその業務へ実際に関わりさえしない、というステレオタイプだ。フリーランサーを起用することが増えれば、なおさらその説が当てハマってしまうことになるのだが、クライアントが2年間の契約をくれず、6カ月のプロジェクトしか依頼してくれなければ、そうせざるを得ない。

──しかし企業のマーケティング部門もまた不安定感を募らせている。マーケターも長期的に考えられる目途が立たないので、そのようにしているのではないか?

そうだと思う。我々はただ彼らの不安定感のあおりを食らっているに過ぎない。我々が仕事をしている業界はどこも変化の波に揺さぶられていて、次に何が起きるのか見通せずにいる。Amazonがやってきて潰されるかもしれない。数年前なら、彼らは3年先、5年先までの計画を立てていたかもしれない。しかし、いまではそんな見通しを立てるのは不可能に思われて、リソースを先のことにまで費やさなくなっており、それが我々にも影響を及ぼしているのだ。私は常々、エージェンシーとは経済という炭鉱のカナリアのような存在だと感じている。経済全般に何かが起これば、その効果は増幅されてエージェンシーの世界を襲う。

──プロジェクト単位の仕事でも、支払期限の延長を求められることはあるのだろうか?

ある。10億ドル規模の企業が、我々の小さなエージェンシーに対して、90日の支払期限を要求してきたりする。その10億ドル企業に対して、こちらが資金を提供しているにもかかわらずだ。たいした神経だと思う。しかしそれが資本主義、やるかやられるかだ。我々は何もクライアントと戦争がしたいわけではない。我々の望みは、彼らに信頼され、我々も彼らを信頼できることだ。

Kristina Monllos(原文 / 訳:ガリレオ)