トムソン・ロイター(Thomson Reuters)やデジタスLBi(DigitasLBi)でキャリアを積んできた、イリッコ・エリア氏がデロイトデジタル(Deloitte Digital)のモバイル部門のトップとして就任した。モバイル分野のプロとして、英国でもっとも知られた人物のひとりである、彼の素顔を追う。
イリッコ・エリア氏がデロイトデジタル(Deloitte Digital)のモバイル部門のトップとして就任し、最初の勤務日にロンドンのニューストリート広場のデロイトオフィスで彼を迎えたのは何十人ものスーツを来た社員たちであった。「紺のスーツを来た100人もの人がいて、『なんてこった』と思ったよ。私はいつも通りのチノパンとTシャツで出勤してたんだ。けれど、しばらく経って、私のような格好で出勤する人を3人ほど見かけた。お互いにこっそりと『部署はデロイトデジタル?』と確認しあったところ、我々全員がデロイトデジタルだった」と、エリア氏は語る。
デジタスLBi(DigitasLBi)で6年間勤務していたエリア氏はデロイトデジタルに溶け込むために雇われたわけではない。彼の課題はデロイトのモバイルチームの中核となって広告エージェンシー業界に食い込んでいくことだ。エージェンシーたちは長いあいだ、デロイトのようなコンサル企業が広告エージェンシーとして業界に食い込んでくることを防いできた。デロイトのような大企業が広告業界のカルチャーを取り込むことは不可能だと言っていたのだ。しかしエリア氏の考えは違う。デロイトの15億ドル(約1600億円)規模のデジタルエージェンシーは、しっかりと運営された企業とカジュアルなクリエイティブという両方の良いところを活用することができるというのだ。
ロイター時代の実績
エリア氏は大企業の文化もよく理解している人物だ。1990年に土木工学の学位をマンチェスター大学で取得したあと、彼は大手情報企業トムソン・ロイター(Thomson Reuters)に就職した。そこで22年間勤務し、最後の役職はロイター・メディアのモバイル部門グローバル責任者であった。そのあいだ、モバイル部門で働くプロフェッショナルとして、英国でもっとも知られた人物のひとりとなった。特にロイターのために開発した最新鋭のプロダクトは、ジャーナリストがニュースを収集し、配信する方法を刷新したとして、尊敬を集めた。
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彼の業績にはまた、ジャーナリストとブロガーたちの関係構築のパイオニアとしての功績、ニュース収集のプロセスにソーシャルメディアを使った一般市民の発信を取り組むことの提唱などが含まれている。2010年、彼のチームはノキアN95モバイル端末を使って元首相デーヴィッド・キャメロン、自由民主党元党首ニック・クレッグ、そして元首相ゴードン・ブラウンのインタビューをストリーミング配信している。
「『こんなに興味深い質問が同席しているジャーナリストではなくて、Twitterを通じて来ているなんて』と、デーヴィッド・キャメロンが言ったのを覚えている」と、エリア氏は語る。その年、彼はメディアガーディアン(MediaGuardian)のもっとも影響力のある人物100人のひとりに選ばれた。
元同僚たちの評判
彼の元同僚たちにエリア氏がどんな人物かを説明させると、カリスマがあり、頭が切れ、モバイル開発において常に限界に挑戦してきた人物だという。こういった性質が、彼を業界で注目される人物にしているのだ。モバイル部門のエージェンシーとしてクライアントと会うとき、クライアントの多くは「モバイルオタク」のような人物に出迎えられることを想像していたが、彼はそれとはかけ離れていたのだ。モバイルがその驚異的なパワーを見せはじめた数年間、特にそのことがクライアントを驚かせた。
「イリー(エリア氏の通称)はCMOレベルでマーケティングや広告について語ることができる。そしてスイッチを切り替えてモバイルについても恐ろしいほど深い話ができるんだ。クライアントは彼のような人物は想像していなかった。また彼は一緒にいてすごく楽しい奴なんだ」と語るのは、デジタスLBiの元同僚であり、現在はポッシブル(Possible)のマネージングディレクターであるギャレス・ジョーンズ氏だ。
こういったエリア氏の性格は、彼が作ったプロダクトプロトタイプにも表れている。「イリーはとにかく、何かやりはじめることを恐れなかった。何か作ってしまって、同僚に見せる。許可をまず待つ、ということをしなかった。合併や買収や何かの企業イベントが起きたとき、彼は真っ先にシニアマネージメントを訊ねて、厳しい質問をするような人物だ。典型的なサラリーマンというわけじゃなかった」と、ジョーンズ氏は説明する。
デジタスLBiでの功績
エリア氏はモバイル分野において、デジタスLBiの英国における影響力をゼロから作り上げた。彼は最初のモバイルインキュベーターを作った。ここでは他部門のルールから完全に隔離された状態で、もっぱら新しいモバイル技術が開発された。
「他部門ではクライアントに請求できる勤務時間というコンセプトに従って勤務しなければならないが、インキュベーターではそういったルールに従わなくても良かった。その外側で、さまざまなプロトタイプを作ってクライアントに見せていた。これは数字だけを追いかける企業ではするのは難しい。物事を先に進めたいというイリーの想いがここによく現れている。彼はいつも一歩先にいるんだ」。
だからといって、すべてが容易だったわけではない。昔からの考えに縛られたシニアマーケターたちを説得して、モバイルにもっと投資しないと、すぐに時代遅れになってしまうと理解してもらうのは、不可能なことのように思えたという。
「多くの人が私の頭がおかしくなったのかというような目で見てきたよ」と、エリア氏は言う。しかしモバイルの価値と必要性を説く、彼の情熱とエネルギーを同僚たちは覚えている。そしてミーティングにおいて、マーケティングや広告戦略といった全体像におけるモバイルの役割を、カリスマ性と説得力を持って語ることのできる彼の能力のおかげで、彼は特別な存在となれたのだ。
デロイトでのチャレンジ
デロイトデジタルでもエリア氏は多くのガジェットを扱うことができそうだ。デロイトデジタルのロンドンオフィスのロビーには3DプリンターやVRデバイスといったガジェットが所狭しと並んでいる。さらにはデジタル接続が行き届いた店舗運営がどのようなものかをクライアントに説明するために、実物大のサンプル店舗までが容易されている。受付にはマギーという名前のロボットもいる。
デロイトが抱える膨大なクライアントのなかから、彼のチームがもっとも役に立つクライアントを見つけることがエリア氏にとっては課題となるだろう。「どのクライアントであれば、モバイルがもっとも役立つか調べるには、たくさんの戦略的な思考が必要となる。しかし、モバイルはこれまで以上にワクワクする分野になっているよ」と、彼は語る。
Jessica Schiffer (原文 / 訳:塚本 紺)
Image courtesy of Ilicco Elia