注目を集めてきた、全米広告主協会(Association of National Advertisers[略称:ANA])によるメディアの透明性に関するレポートが、ついに公表された。予想された通り、エージェンシーたちは守 […]
注目を集めてきた、全米広告主協会(Association of National Advertisers[略称:ANA])によるメディアの透明性に関するレポートが、ついに公表された。予想された通り、エージェンシーたちは守勢に立たされている。
ANAによって、去る6月7日に発表されたレポートでは、米国メディアにおける広告の売買取引において、リベートやキックバックといった不透明な慣習が「蔓延」していることが明らかになった。調査はリサーチ会社K2インテリジェンス(K2 Intelligence)によるもので、エージェンシーのシニアエグゼクティブたちはこれらの慣習に気付いているどころか、クライアントに秘密でこういった慣習を義務付けていたケースもあったという。キャッシュリベートや、インベントリークレジットとしてのリベート、コンサルティングやリサーチといった非メディアサービスに関する協定といったものが、不透明な慣習に含まれている。
また、クライアントの希望に関わらず、ホールディングカンパニーがクライアントの資金を特定のメディアに回すようにバイヤーへプレッシャーを与えたというケースも見られた。さらに、いくつかのケースではエージェンシーが、リスクを説明することなくベンダーのアドバイザーもしくはステークホルダーの役割を担っていたという。
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匿名性の高いレポート
予想されていた通り、本レポートはエージェンシーや個人を特定することはしていない。K2インテリジェンスのエグゼクティブ・マネージング・ディレクターであるリチャード・プランスキー氏は、「ANAのこだわりとして、このレポートは誰か個人や企業を特定して追求することが目的ではなかった」と、語る。
調査においてインタビューをした150人のうち、117人はメディアバイイングに関わったことがあった。59人は不透明な慣習を直接体験したことがあると答えており、34人は非公表のリベートが存在していると答えた。これはレポートのなかでも特に注目を集めている箇所のひとつである。
業界エグゼクティブたちの見方
レポートが公開される前から、ANAがこのようなレポートを発表し、エージェンシーや業界関係者に問題を提起するだろうとメディアは示唆していた。ヴィヴァキ(VivaKi)、スターコムメディアヴェストグループ(Starcom MediaVest Group)からパフォーミックス(performics)の最高売上責任者となったマルコ・ベルトッチ氏は6月4日のブログで、このレポートが公表しようとしている非難は、99%の必死で働いている若いデジタルプランナーをさらに苦しい状況に追い込むだろうと書いた。
(このレポートのせいで)すごく難しくなるだろう。そうなる理由はいくつかある。ひとつ目はエージェンシーに十把一絡げの非難がされていることだ。明確にしておきたいが、もし誰かが実際に問題を起こしているとしたら、必死で働いている若者たちのせいではないということだ。エージェンシーで働いている99%の人間は問題ではない。
しかも、彼ら(99%の、必死で働いている若者たち)は、ビジネスに引き込んで欲しいと、私たちが日々期待されているような人材なのだ。ほかの業界から引き抜いてクライアントを感動させるために必要な人材だ。しかし、そのことを考えている人は誰もいない。誰もがエージェンシーがいかに腐敗していて、信頼できないか、それをとにかく大声で叫ぶことに飛びついている。「エージェンシー」と言われるとき、それは誰を指しているんだ?
「エージェンシーの人材不足」問題が、この議論で引き合いに出されるのは予想されていた。若い人材を引き込み、エージェンシーの世界に留まらせるのは難しい。今回のレポートのように十把一絡げな批判は、それをさらに難しくしているとエグゼクティブたちは言うのだ。
エグゼクティブたちはまた、ANAが計画的に情報を小出しにしていた点についても批判している。去る5月には「ビジネス・インサイダー(Business Insider)」によって、このレポートが情報源は匿名という形で公表されるだろうと報じられた。そして、発表1週間前には「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」が、業界に蔓延しているリベートの慣習が暴露されるだろうと報道している。
ホールディングカンパニーの反応
ホールディングカンパニー界隈ではどう受け止められたのか。ピュブリシス(Publicis)のCEOであるモリース・レヴィ氏は、ANAは企業を特定しないレポートを作ったという点で間違いを犯しており、「業界全体に対する不公平かつ不当な攻撃だ」と、声明を出した。ピュブリシス自体もレポートを受けて、ANAによって業界が「不当な中傷を受け、減退した」と発表している。
アメリカ広告業協会(4A’s)も同様に声明のなかで「業界全体を巻き込んだ、超党派的なアプローチでのみ、メディアバイイングについての健全かつ建設的な議論を行うことができる。ANAが行ったことは、そのまったく逆である」と述べている。
Nice counterpoint to the ANA trolling. https://t.co/28FKyqK7Pg
— Ari Paparo (@aripap) June 4, 2016
ベルトッチ氏のブログを紹介するツイート。「ANAの釣りに対する良い反論」
また、オムニコム(Omnicom)は、協会のレポートはすべてのエージェンシーをひとまとめにして汚名を着せている点で非常に残念な物であると声明を出した。加えてオムニコムは、会社の従業員による職権乱用の疑いはすべて調査し、是正する義務があり、それに真剣に取り組みたいとも述べている。「オムニコムのエージェンシーに関して、彼らの調査によって分かった詳細を提供して欲しいと、外部の法務顧問がANAとK2、そしてイビクイティ(Ebiquity)に依頼したが、まだ何も提供されていない」とのこと。
今回のレポートは作成のために8カ月の調査が行われた。調査が行われるきっかけとなったのは、メディアコム前CEOであるジョン・マンデル氏が、去年行われた協会のカンファレンスで、メディア・エージェンシーはキックバックを間違いなく受け取っていると発言したことである。レポートはここでダウンロードできる。
Shareen Pathak(原文 / 訳:塚本 紺)
Photo by Thinkstock / GettyImage