中の人が語る、「 シャープさん 」が受け入れられる理由:公式 Twitter アカウント運営の極意

企業の奥にいる「人」の存在を、Twitterで伝えることができるか。

DIGIDAY[日本版]主催のクローズドイベント「DIGIDAY BRAND LEADERS(DBL)」で行われた数々のセッションの中でも、多くの参加者に笑いと感動を巻き起こしたのが、シャープマーケティングジャパンのマーケティング統括部・デジタルマーケティング部主任、山本隆博氏による「@SHARP_JP、46万フォロワーを巻き込む『ゆるい』ツイートの真意」だ。

山本氏は、もはや当たり前となった企業のTwitterアカウントの中でも、圧倒的なエンゲージメントを誇るシャープの公式アカウント「@SHARP_JP」の「中の人」として知られる。宣伝ツイートを流すだけ、個別のツイートには回答しないというスタンスの企業アカウントが少なくないが、山本氏は日々積極的にユーザーとコミュニケーションを取りながら、「ゆるい」ツイートを続けている。

日々バズり、ときには広告賞を受賞してきたツイートに込めた思いとは何なのか。これからの企業コミュニケーションのあり方はどうなってゆくのか。山本氏のセッションを、「@SHARP_JP」のツイートを交じえながら紹介したい。

「次元を行き来している」と会場を沸かせた山本氏

「次元を行き来している」と会場を沸かせた山本氏

地道なツイートで次元を超えた

自身を「ネットではよく喋るが、現実では途端に喋らなくなる人」と評する山本氏だが、7年以上に渡って地道に続けてきたTwitterにおける独自の存在感は、圧倒的だ。アカウントは「シャープさん」としてユーザーから親しまれ、2018年9月19日時点でフォロワー数は47万人以上。数多くのメディアでも取り上げられており、その存在は広く知られている。

山本氏自身が表立って登場することはないが、ツイートから「中の人」を想像(妄想)して描かれたキャラクターや、そのキャラクターの日常生活を創作した漫画も刊行されており、LINEスタンプやキーホールダーなど、グッズ化も行われている。


そんな状況を山本氏は、「擬人化、キャラクター化というと普通は物が対象となるはずだが、自分は人間なのに擬人化されている」と話す。さらには、漫画に登場する「シャープさん」をコスプレする人も存在するという。実体のある山本氏が作り上げた三次元の存在である「シャープさん」が、漫画によって二次元化され、さらに再び三次元化されたことになる。山本氏も「次元を行き来することになるとは、ずいぶん遠くまで来てしまった」と苦笑する。

「何も当たらない」キャンペーン

続いて山本氏は、「@SHARP_JP」による普段のツイートから、代表的なものをいくつか取り上げた。ときには企業アカウントらしく宣伝ツイートを行うが、そこにも「シャープさん」らしい遊び心を常に忘れない。


シャープは家電メーカーとして唯一8Kテレビ発売を予定しているが、市場の先行きが不透明な状況なことから、「当たるも八卦」にかけて8Kテレビの動画広告をツイートした。流石に「これは会社でちょっと怒られた」。シニカルなツイートの裏側には、マーケティングに携わる立場でありながら、「広告というものに対し、ある種引いた目で見ている」ためだと山本氏は語る。

そんな山本氏のスタンスがよく表れているのが、次のツイートだ。企業アカウントのフォローやRT(リツイート)で製品がプレゼントされる、Twitterキャンペーンをよく見かけるが、それを逆手に取った。フォロー・RTをしても、抽選で誰にも何も当たらない。言うなれば、「無の宣伝ツイート」だ。


「広告宣伝に対し、Twitterユーザーをはじめとする生活者がうんざりしている状況がある。会社から怒られることがあっても、広告過多のような現状を皮肉に捉えるような試みもしたい、と考えている」。

コールセンターや対面販売

宣伝ツイートは企業からのメッセージを伝える、一方通行のコミュニケーションだが、その一方でユーザーとの双方向コミュニケーションにも積極的に取り組んでいる。代表的なもののひとつが、「お買い上げありがとうございます」ツイートだ。「@SHARP_JP」には、日々数十件単位でユーザーから「(シャープ製品を)買いました」という報告ツイートが送られてくる。これらの報告に、山本氏は感謝の言葉と共にちょっとした一言を伝えている。

さらに、「製品の使い方がわからない」「うまく操作できない」といった製品に関する疑問ツイートに対しても、山本氏が把握している範囲で回答しているという。「購入相談もかなり多い。『5万円でこういった製品が揃えられないか』といったツイートが送られてくるので、希望予算に収まる提案を行い、価格比較サイトなどを提示している」。まさに「ちょっとしたコールセンターの人」だ。

こうしたユーザーとの対話はTwitterの仕様上、第三者が見ることもできるが、「基本的にはクローズドな1対1の会話のつもり」と、山本氏は続ける。「対面販売をしているような感覚がある」。

「社員」の思いをツイート

企業アカウントでは広告宣伝だけでなく、その他の企業活動を周知するためのツイートをすることもある。就職活動におけるエントリー募集などがそうだ。いかにも定型のテキストが並びそうだが、山本氏は「3年間ずっと同じ、求める人材のキーワードを使っていることに、いい加減うんざりしてきた」。その気持ちを、そのままツイートしたのだ。


「会社の中では不興を買った」ものの、世間の共感を呼び起こすコピーとしての機能を果たしていると評価され、2018年度東京コピーライターズクラブ新人賞を受賞した。「企業メッセージではなく、その中で実際に働いている社員がどんな気持ちでいるのか、あえてストレートに出すことも必要だと考えている」。

2016年にSMAPの解散報道が世間を賑わせた時には、こんなツイートも行なっている。


折しも、当時は経営再建中のSHARPが官民ファンド・産業革新機構と外国資本・鴻海いずれの出資を受け入れるのか、揺れ動いていた時期でもあった。笑いを誘う「ゆるさ」の中に、「社員の思い」も垣間見える。

「友達のラーメン・カレー問題」

では、この一連のツイートを含め「@SHARP_JP」とはどのような存在で、何を目指しているのだろうか。山本氏は現在を「伝わらない時代」であると指摘する。「企業の言葉は伝わらない時代になった。もう少し踏み込むなら、『広告が嫌われる時代』。マーケティング担当者としてある種の絶望を感じている」。

さまざまなアドテクノロジーが大量に存在し、デジタル広告と生活者を結びつけようとする取り組みは活発になる一方で、SNSをはじめとするコミュニケーションツールの拡充によって、情報のオーバーサプライも加速しつつあるのも事実だ。

「いわゆる『普通の人』の生活を想像すると、10年前はまだニュースサイトを訪れ、自分で情報を取りに行っていた。今ではTwitterやFacebookの閲覧が不可欠。そこで得ている情報は、身近な人たちが何を食べたかといった話題が大半だが、情報量が爆発的に増加している。ラーメンとカレー、自分のいないバーベキューの写真で脳はキャパオーバーに陥り、広告が入り込む余地がなく、邪魔な存在になってしまった。まさに『友達のラーメン・カレー問題』だ」。

モバイル広告がスマートフォンの操作を阻害する、といったUXの問題も合わさり、「広告嫌いという風潮がネットでは定着してしまっている」と山本氏は続ける。「恐らく企業の言い分は伝わらないし、かろうじて伝わってもウザがられる。しかし、伝わらないから注目を集めようと過激な手法を取ると炎上する。もはや打つ手がない、四面楚歌の状態だ」。

生活者の友人・知人になる

そんな「伝わらない時代」に伝えることができる解決策は、ひとつしかないと山本氏は言う。「ネットでは『誰が言うか』『誰から伝わるか』がすべて。インフルエンサーなどが代表例で、友人のシェアなどもそこに含まれるだろう。自分たちの経験から考えても、知り合いがシェアしたニュースを読むことは多いはず」。つまり、伝わる「誰」とは、それぞれの生活者の友人・知人、もしくは好感を持っている人しかない。「『シャープさん』とは、企業アカウントでありながらできるだけ生活者から承認され、友人・知人になれないか、というTwitter上での試みだ」。

ただし、「シャープさん」は「SHARP」という企業やブランドそのものを表しているわけではない。「広告が伝わらない、嫌われている現状で、企業やブランドが生活者の友人・知人になるのは、かなりハードルが高い」。そこで、「シャープさん」は「SHARP」というブランドの手前に、社員が一人いるイメージで運用している。その社員が、Twitterを介してできるだけ生活者と仲良くなろうとしているのだ。

「『シャープさん』が友人・知人のような存在に近づけば、今まで伝わらなかった『企業の広告』も、『友達の言葉』になり、みんなが聞いてくれるのではないか。理想形は、みんなが聞いてくれたうえでシェアされること」と、山本氏は続ける。「そのためにも、企業コミュニケーションの主語や話者に、人格を築いていかなければいけない」。

未来の顧客を創出する

そうした取り組みを地道に続けていくと、「企業コミュニケーションに奥行きが出て、物語を紡ぐことができるようになる」のではないかと、山本氏は語る。「ユーザーに『あいつが言っている』と感じてもらえる雰囲気が醸成される。何気ないことをツイートするだけでも2万RTを超え、漠然とではあるが『中の人が働いている』ことが知られ、イメージが共有されるようになった。結局、これに尽きるのではないか」。

「中の人」を媒介にすれば、嫌がられ邪魔者扱いされている企業の広告や言葉も、「体温を帯びてくると思っている」と、山本氏は続ける。「そうなれば、かろうじて伝わるのではないか。なぜ『シャープさん』のツイートはゆるいかというと、それが一つの理由だ」。

ちなみに、これには数値的な根拠もある。山本氏によると、Twitter Japanが約3000人のユーザーを対象に行った調査では、フォロワーの85%が「SHARP公式アカウントのゆるいツイートを楽しんでいる」と回答。76%が今後SHARP製品を購入する際にシャープ公式アカウントのことが脳裏をよぎる、と答えたと言う。

「SNSをやっていても効果が見えないとはよく言われるが、少なくとも未来の顧客を作ることができると考えている」。

クソリプにも負けず

山本氏は最後に、宮沢賢治の『雨ニモ負ケズ』をモチーフに、「中の人が何を考えてやっているのか」を表したツイートを挙げてくれた。ここでご紹介しよう。

クソリプにも負けず
スルーにもスパブロにも負けない
丈夫なメンタルを持ち
欲はなく 決して怒らず
いつも静かにスマホを握っている

 

1日にコーヒー4杯と水と少しのチョコを食べ
あらゆるKPIを自分を勘定に入れず
よく見聞きし わかり そして忘れない

 

東に病気の製品あれば
行ってコールセンターを案内してやり

 

西に疲れたフォロワーあれば
行ってその愚痴を負い

 

南に言い争う人あれば
TLがギスギスするからおやめなさいと言い

 

北にあっちとこっちに迷う買い物あれば
どっちもいいけどシャープかもと言い

 

炎上の時は涙を流し
経営悪化の日々はオロオロ歩き
みんなに仕事しろよとよばれ

 

褒められもせず
広告にもされず

 

そういうものに、わたしはなりたい。

「誇張でも冗談でもなく、本当にこんな存在になりたいと考えている。ブランドや企業の奥に、こんな人や物があると言うことを生活者に感じてもらいたい。だから、毎日ツイートをする」。

Written by 分島翔平