「iPhone撮影がベストでも、放送局のカメラを持っていく」:制作会社のCMプロデューサーの告白

制作会社は、エージェンシーやブランドからの仕事の依頼が繰り返されることを願って、コマーシャル(CM)に予定以上の予算をかけ、制作会社の価値を高めようとすることが多い。エージェンシーやブランドに追加コストの支払いを求める代わりに、制作会社は費用を負担してでも自社の価値を証明し、長く続く関係を築こうとする。

しかし、ブランドが価格を強く意識するようになると、割り当てられた以上の予算を使うことは、もはや意味をなさなくなった。

匿名を条件に業界の裏事情について赤裸々に語ってもらう「告白」シリーズ。本稿では、予算が縮小され、エージェンシーやブランドと制作会社のあいだで緊張が高まるのを見てきた、アメリカのコマーシャルラインプロデューサーの話を聞く。

──近年、制作会社が受け取るマージンは減少していると聞くが……

32%あったものが、場合によっては15%にまで減っている。ビジネスモデルが変わってしまった。いまも変わり続けている。クライアントが自分で広告を作リ、それでうまくやっていけるようになること以外、最後がどうなるかはわからない。

──ビジネスモデルはどう変化した?

1990年代と2000年代には、ブランドのキャンペーンの仕事をした場合、コンサルタント費用がかかるため、最初の仕事ではお金を失うことになった。それでもまだ、ブランドとの関係は残る。P&Gは原価加算方式で多くの仕事を行った際、実際にそうした含みをもたせた。彼らは領収書のみをもとに支払いを行うため、何にいくらコストがかかっているかは知っていた。そうした特定のキャンペーンでは、1回目の仕事に賭けて、当初は損するかもしれないが、いい仕事をすれば、また依頼を受けることができた。そうして同じブランドと10年間仕事を続けることもあった。そういう関係はもはや存在しない。

──いまはどんな感じに?

いまは何事も予算がもとになる。この額で仕事ができるか? できるなら、たぶんその仕事を頼むだろう。クリエイティブを方程式で考えるようになったようだ。

──そのように変わったのはなぜ?

2000年にあった米映画俳優組合のストライキが大きく影響している。広告主は、ある種のものからお金を儲けているのに、自分たちはその恩恵を受けられていない、そのやり方にタレントたちは嫌気を感じた。突然、ストライキが起こり、人々は制作するために街を出た。これを機に、予算に対するクライアントの考え方が変わり、その結果エージェンシーは、クライアントが望んでいること、彼らが売りたいものを彼らが売りたい方法で売れるようにすることに逆らうことを多少怖がるようになった。クライアントが来て、このエージェンシーにこの仕事を頼む、と言ってくれないとプロジェクトが成り立たなくなった。

──つまり、いまのほうがプロジェクトは増えたと?

(ブランドによっては)すべてがプロジェクトになったところもある。指定代理店というものはなくなった。何かを入札しようと思うなら、企画書にまとめて提出し、最善のアイデアを出し、最高のタレントを使い、どんな予算でもそれをやり遂げられるところが勝つ。世界はすっかり変わってしまった。どんなに一生懸命みんなをなだめて、機能させようとしても、実際にものを言うのは数字だ。お金のためにやっているのなら、最後に行き着くのはそこだ。

──数字を優先させるためには、制作スタッフの削減も必要になるだろう。どうやってエージェンシーやクライアントと最後までやり遂げるのか?

(ときには)動画のプレイバックを止めたり、脚本を省略したりする。メイクアップアーティストと衣装スタイリスト、両方の役目を果たす人が必要になるだろう。制作前の会議で、クライアントやエージェンシーの幹部クラスの人間が突然、脚本家やプレイバックがないことに気づく(ときがある)。そうなると、誰かがクライアントやエージェンシーに周知させていなかったので大変だ。「君たちにできるのはこれなんだね」くらいのことを彼らはいう。自分たちが望んでいるものにならないとわかればクライアントはすぐによそへ行ってしまうので、クライアントとエージェンシーのあいだに現実に沿った教育プロセスはない。そしてまたお金の話に戻る。いつだって費用は大切だが、いままでにも増して、いまはシビアになっている。

──しかし、ブランドのさまざまなソーシャルチャンネル向けに、より多くのコンテンツが必要になったことに伴い、仕事はいままでより増えているのでは?

そこが、もうひとつの問題だ。ひとつの仕事を巡って制作会社間の競争が激しくなり、一層の努力をするようになる。予算的にはすべてを「iPhone」で撮影するのが適しているような状況でも、放送局が使うようなカメラとその付属品一式を持って出かけて行く。クライアントやエージェンシーと親密な関係になれることを願って自腹を切り、それでまた仕事の依頼を受けられるだろう。だが長い目で見れば、予算は依然としてiPhoneレベルのままだ。ソーシャルのためだけならば、解像度も1080か1920程度でよいが、放送用(機材)を使うと、やり過ぎになる。

──依頼が繰り返されることがないとしたら、自腹を切って制作の価値を上げるインセンティブは何か?

これは今後を見ないとわからない。

──制作会社とエージェンシーの関係にも影響が?

(いまはかなり緊張が高まっている)。チェック入札(実際の仕事の入札ではなく、制作コストがどれくらいになるかをチェックするための入札)をしている状況だが、そのことは知らされていないとしよう。何が起こるかというと、コマーシャル制作の入札をしていると思っていたら、結果が出るずっと前から意思決定はされていたとわかる。実際に彼らが要求していることは、他人を正直にさせ、お金が本来使われるべきところに使われるようにするための入札だ。彼らには仕事を依頼するつもりはない。昔はフレンドリーなビジネスだった。いまは、エージェンシーと仕事をしたら、プロデューサーが「やぁ、チェック入札をさせてもらうよ」と言うだろう。それは構わない。チェック入札を受け入れる。その仕事は我々のものにならないことはわかっているが、厚意を示せば見返りも期待できる。制作ラインの下流のどこかで、何かが手に入るかもしれない。明らかにチェック入札の仕事を何個かしたが、後になるまでその事実がわからなかったというのが現状だ。誰がその仕事をすることになったかを伝える電話さえもらったことがない。まさに熾烈だ。

──制作会社はここからどこへ向かうのか?

たぶん、経費を半分に削ることになるだろう。きちんと事務所を構えるのではなく、依頼される仕事をもとに、コワーキングスペースのWeWork(ウィワーク)風に月ごとに拡大と縮小を繰り返す。それでも、何かを効率よく制作し、創造性を最大限に発揮する制作会社の能力に関しての世間の印象は変わらないと思う。変化が起きたときには、それに合わせて変わっていかなければならない。

Kristina Monllos(原文 / 訳:ガリレオ)